8/26(水)「地蔵事情」
日課である温泉掘りの帰り、かなり連なってるお地蔵さんがいた。
普通の路地なのだが、見渡す先までずらっと並んでいる。
お地蔵さんはどれも赤い頭巾を被り、ざらざらの顔は少し微笑んでいる。
お寺とかは見当たらないので不思議に思いつつ500mくらい歩くと、お地蔵さんの列がそこだけ途切れてテントが現れた。
テントを通りすぎる時に覗いてみると、お地蔵さんそっくりの金髪の老婆が座っていた。
老婆は地蔵みたく穏やかな顔をしすぎて最初寝ているのかと思ったが、突然「なあ~」と声を出した。
続けて「刺身なあ~」と言った。
刺身?
「刺身なあ~」
また言った。
何か言わなきゃと思ったが、言葉が出ない。
「生ものダメでなあ~」
よく見たら耳から白いイヤホンが垂れている。
電話してるだけだった。
おそらく昼ごはんの誘いの電話だろう。
話しかけられてるのかと思って立ち止まったのが恥ずかしく、立ち去ろうとすると、
老婆が「じゃあ…靴なら…」と言った。
何の話かわからなくなった。
すごい気になるけど、もう止まれない。
スタスタ歩く。
地蔵が視界に再び現れ、延々と続いている。
ぼくは地蔵がなんだかうっとうしく思えてきて、音楽でも聴こうと、ワイヤレスイヤホンを耳に着けた。
その瞬間耳にノイズが流れた。
びっくりしてイヤホンを耳から外す。
スマホを着けるとBluetoothが外れている。
何か別の端末と同期してしまったらしい。
もう一度イヤホンを耳に着けてみると、ノイズが止んでいて、話声が聞こえる。
「うん じゃあ15時半に、ピレネーでね うん」
さっきの老婆の声だ!
何故同期したかわからないが、さっきの話が聞ける!
「エチケット袋忘れずにね うん 吐いちゃうからね 絶対に」
なんだか物騒だ。
「当たり前じゃなあい いるわよ 靴食べるんだから」
靴食べるんかい!
靴食べるんかい!
靴食べるんかい!!
靴食べるんかい!!!
靴!
食べるんか~~~い!!!!
ジャ~~~~~~~ン!!!!!
銅鑼の音が響いて、ぼくは家に瞬間移動した。
ツッコミに熱が入りすぎると強制送還される。
家庭の事情でね。