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「ちょっと話せん?」「ええよ」って関係。


私の人生において、最も幸運だったのは「あなた」という善き友に出会えたことでした。



大学1年生の時に、地域活性化を目的としサブカルチャーを使ったイベントを企画するグループの会議に参加しました。


アニメや漫画が好きだった私は、サークルの先輩に誘わるまま、学校終わりにその会議に足を運んだのでした。



そこにいたのが、彼、Tくんです。




小学2年生から軽い無視や仲間はずれが始まり、年を経るたびにそれはエスカレートして、いじめに発展しました。


それは中学3年生まで続き、小学生の時は仲が良かった友人もみんな離れていきました。


中3年生の夏、クラスメイトの男子から性暴力を受けました。



その結果、酷い人間不信と男性恐怖症になりました。



異性がいる空間にいると動悸や吐き気、手足のしびれなどが起こり、高校は女子校に進学せざるおえませんでした。


もちろん、同じ中学校の生徒と同じ学校には行けず、県外の学校に行きました。


高校の3年間で、男性と先生との関わりを通してリハビリをし、同じ空間にいても大丈夫なようになりました。


会話も一言二言であれば返せるようになりました。


きっともう、大丈夫。


大学受験は共学と女子校の2校を受験しました。



しかし、試験日に隣に座った男子生徒に怯え、拒否反応を起こしてしまいました。


試験には合格しましたが、通学は不可能だと判断し、県内の女子校に進学しました。



大学入学後も教授に質問したり、世間話する事で男性に慣れようと努めました。


しかし、やはり自分と歳の近い男性に慣れるためには、その環境に身を投じなければいけない。


さて、どうしたものか……


そんなことを考えている時に、参加した美術サークルの先輩からお声がかかったのです。



「コスプレとか興味無い?」



ほんの少しの好奇心。



会議は毎週火曜日、繁華街にある小さなレンタルスタジオで行われていました。


そこでは、学生を中心にサブカルチャー関係のイベントを企画し運営をしていました。



私たちはそのイベントのスタッフ(サクラ)として参加する役割でした。


そのため、会議内で議論したり、意見を発表したりはせず、スタジオの隅で話を聞いているだけでした。



当日の動きや注意事項などを聞き、20時をすぎる頃には解散となりました。



みんな解散してすぐはスタジオの出口で雑談をしていて、私はいつ帰るのかを見計らって黙って会話を聞いていました。



すると、他校の男子学生が私に話しかけてきたのです。



なんのアニメが好きなんですか?

コスプレとかされるんですか?

今何年生ですか?

誕生日はいつですか?

この後なにするんですか?



怒涛の質問攻めに、驚きと恐怖で上手く返せず体が固まってしまいました。



どうしよう、早く何か言わないと…



そう思えば思うほど言葉が出てこず、とにかく強ばった顔でなんとか笑顔を作るしか出来ませんでした。



その時でした。



目の前にスマホの画面が出されました。



次は何!?



スマホの画面を見ると、車の助手席で直立しているミニチュアダックスフントの写真が映っていました。


「俺の家のペット、可愛いくないですか?」


なにこれ可愛すぎ!!!!


「めっちゃ可愛いですね!躾されたんですか?」


私は彼のスマホ画面の犬に夢中になり、自然に言葉が出てきました。



私は動物や生き物が大好きで、実家で飼っていた犬も、彼の飼っている犬と同じミニチュアダックスフントだったのです。


私はスマホをじっと見つめて、可愛い可愛いとずっと呟いていました。


私に質問してきた男子学生は、他の男子学生達にドンマイと弄られていましたが、結局私には質問に答えることも、弄りから庇うこともできませんでした。


本当に申し訳ない。



そこで私は思いました。

私はまだダメなんだ、と。



少し落ち込みましたが、顔には出さず、スマホを彼に返してみんなと別れました。



駅まで帰り道、またまた方向が一緒だったさっきのスマホの彼に声をかけられました。


帰る方向が一緒なんですね。それなら一緒に行きましょう。



そう、彼がTくんです。



駅までの道、駅から彼の最寄り駅まで、私たちは特別なにか話をした訳ではありませんでした。


ただ、一つだけ彼に質問しました。


なんで、あのタイミングで飼い犬を見せてくれたんですか?


Tくんは一言、苦手なんじゃないかと思っただけです、と言いました。



それから毎週火曜日、毎回会議に参加しました。


先輩方が行けない日も、友人たちが興味をなくし行かなくなっても、1人でも参加するように努めました。


何度も参加していくと、他の学生と会話をすることも、会議に参加される社会人の方と話をすることもできるようになりました。


帰りは毎回彼と一緒でした。


Tくんは私より1つ歳上の大学2年生で、世渡りが上手な印象でした。


トークは面白く、目上の人を立て、礼儀礼節を弁えている、立派な社会人でした。


なにより、人のパーソナルスペースを掴むのがとても上手く、人によって距離感を上手く変えながら付き合っていける、そんな人です。



だから私も平気だったのだと、今ではそう思います。


Tくんは年上ながら、私に1度もタメ口で話したことはありませんでした。


会議に不必要な話や、私の個人情報、プライベートな話は一切してこず、当たり障りのない話を少しする程度でした。



その結果、私たちは1年という長い時間をかけて、少しずつ仲良くなっていったのです。



Tくんとの会話の中で、彼が女性に対して少しだけ恐怖心を感じていることを知りました。


1年間のうちに、少しずつ身のうちを話していく中で、私の人間不信や男性恐怖症になった経緯なども伝え、Tくんも同じように、学生時代に同級生の女子からいじめを受けた経験を話してくれました。


そこで納得したのです。


だからTくんは、あの時私が困っていることにいち早く気づくことが出来たのだろう、とそう感じました。



人の機嫌を伺いながら上手く立ち回りながらも、相手との距離感を見誤らない、それが20歳という年齢で完璧にできる人はそうそういません。



私は人との距離感で何度もしんどい思いをしたので、Tくんの凄さがよく分かりました。


Tくんはいつだって私が許せるギリギリのラインで、心と体の距離感を保ってくれました。



そんなTくんと過ごすことが、私にとっても居心地がよく、他の誰よりも1番楽な自分でいられました。




Tくんに彼女が出来ても、就職しても、私が大学を卒業しても、Tくんとの関係は変わらず続いていました。


大学時代はほぼ毎日連絡し、通話をしながら一緒にリズムゲームをしたり、毎週のように繁華街に遊びに行ったりしました。


しかし、大人になりお互い仕事をし出すとなかなか会う機会も作れなくなり、私に彼氏が出来れば、気を利かせて連絡もほとんど来なくなりました。


そんなこんなで、今は2ヶ月に1回生存確認のためのLINEをするだけになりました。


連絡は、基本的に私から。


心が窮屈になったとき、Tくんに話を聞いてもらうととっても楽になるのです。


仕事に行けなくなった日

彼氏と心が離れてしまった日

家族と折り合いが悪くなった日

消えたいが溢れる日……


2ヶ月おきに何かつまづいて立ち上がることができなくなり、その度に彼に連絡をしました。


「ちょっと話せん?」


「ええよ」


Tくんは、私の心が限界を迎える時期になると、そろそろ来るんじゃないか、と待っているそうです。



しかし、Tくんにも彼女が出来たこときっかけに2ヶ月に1回のやりとりもなくなってしまいました。


彼女さんはあまり私を好んではいなかったからです。
当たり前でしょうけれど。



Tくんは彼女さんの気持ちを汲み、私は自分が原因で2人が別れてしまうことだけは避けたかったため、自然と連絡を取らなくなりました。



2年の時が経ち、私にも彼氏ができました。

彼氏もTくんの彼女さんと同じように、少し相手に嫉妬してしまったり、複雑な気持ちになる人でした。


一度Tくんに彼を紹介しましたが、それ以降はまた連絡を控え、お互いに相手の状況を気遣いながら関係を続けていました。



先日、仕事でストレスが溜まり、もう限界というところまで、心が荒れ壊れそうになりました。


毎日、家に帰ると彼氏に抱きしめてもらいながら声を上げて泣きました。


仕事にも支障をきたすようになり、家に帰る前にも涙が溢れ出した時、無性にTくんに会いたくなりました。


同じ職場で働いている彼に許可を得て、2人でTくんの職場(メガネ屋)まで行き、店舗の中にTくんの姿を見つけると、いつも通り声をかけました。


Tくんもいつもと変わらない声と表情で返してくれました。


しばらく軽い雑談をすると、彼氏がTくんに私が辛い状況にあることを話しました。


私も最初は笑いながら、ホントにさ〜聞いてよ〜、なんて言いながら明るく話していましたが、


話せば話すほど、Tくんの合いの手や気遣いの言葉も溢れ、また涙がこぼれはじめました。


Tくんは、おい俺が泣かしたみたいだろ〜と冗談を言いながらも、優しい言葉をかけてくれました。


私は咄嗟に「カラオケ行こうよ」と言いました。


私は繁華街で飲み会の予定があり、Tくんはまだ仕事が残っていました。


予定が終わったら一緒に彼氏とTくんと私で1時間だけでもいいからカラオケがしたい。


Tくんは彼女さんのことを考えたでしょう。
私もとても申し訳ない気持ちでいっぱいでした。


だから断られれば諦めようと思いました。


しかし、Tくんは少しだけならいいよ、と言ってくれたのです。



昔はよく2人でカラオケに行ったり、BARで飲みながらカラオケしたりしていました。


私は小さい頃から歌うことが好きだったし、Tくんも歌うのが好きで、何よりとっても上手でした。


だからこそ、彼の歌を聞くのが好きでした。


一緒にデュエットをすれば楽しくて嬉しくて仕方がありませんでした。



また一緒にカラオケできる、その気持ちだけで飲み会も苦に思いませんでした。


飲み会が終わりTくんと合流して、彼氏とTくんと私の3人でカラオケをしました。


Tくんは相変わらず歌が上手で、聴いているだけで癒されました。


私はカラオケをしながらまた泣いてしまいました。



楽しくて、嬉しくて、幸せで。



私の人生において、最も幸運だったのは「Tくん」という善き友と、彼との関係を理解し受け止めてくれる善き彼氏に出会えたことでした。


こんなに恵まれていることはないでしょう。


家族とは上手くいかない。

友達は片手で数えられる程度しかいない。

仕事はまともに出来ない。

不器用で不格好。

性格もひねくれていて頭が固くて最悪。


でも、心を許せる友人が1人いる。
彼かいるから生きていける。


弱みをさらけ出せる彼氏がいる。
彼がいるから明日も笑える。


それだけで十分だと思うのです。


2人がいれば、これから立ちはだかるだろう障害も、乗り越えられる気がするし、


世界から消えてしまいたいと思っても、2人とカラオケに行けば消えたくないと思えると思うのです。


とっても心強い、私の人生の宝物です。


そんな宝物を見落とすことなく、大事にしていきたいですね。



2人とも、いつもありがとう。
大好きだよ。

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