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男性へのセクハラとその影響

あるサイトのディレクターを務める友人(♂️)であるSさんから、にわかには信じ難い話を聞いたのは、つい先日のことです。
Sさんがあるライターさん(♀️。Aさんとします)との契約解消の説明も兼ねて、別のライターさん(♂️。Tさんとします)と食事をしたときのこと。

そのオフ会において、先に所用のため自宅に帰った後、初対面であるにも関わらず、TさんとAさんは共に二人で焼き肉を囲む羽目になったとのこと。

以前から意気投合していた仲……というならば、まだ話はわかるんです。ですが、話を聞く限り、どうもそうではない。
早い話、「オンナ」をアピールしたかっただけか、「お財布」と見たのかわかりませんが、Aさんにある種の「下心」があったであろうことは、私が聞いても分かりました。


で、ふと思ったんです。
このケース、男性が女性に迫られたからあまり問題にならないような気もしますが……。

男女の性別が逆だったならば、「セクハラ案件」と言われる事案ではないでしょうか。


男性のセクハラの現状とは

実は、男性が女性側から「セクハラ」を受ける場面は案外多いと言えます。
厚生労働省による『令和2年度「職場のハラスメントに関する実態調査報告書』によると、男性でも8%の人が「セクハラ」を経験しているとのこと。男女共通の事項として「性的な冗談やからかい」の割合が高いのは言うまでもありませんが、男性の場合、

• 性的な事実関係に関する質問
• 性的な言動に対して拒否・抵抗したことによる不利益な取り扱い

の割合が高いのが、特徴と言えるでしょう。具体的には

• 恋愛経験や現在の交際について質問される・言い触らされる(「彼女いるの?」「同棲しているらしいよ」など)
• 女性上司からのセクハラを拒否したところ、逆に男性側がセクハラ加害者として訴えられた、理不尽な異動を命じられた

などの事例が散見されます。
社会通念上、まだまだ「セクハラは男性から女性に対して行われるもの」という偏見があるためか、女性側が男性の容姿や服装についてからかう、恋愛経験や性体験について尋ねるなどの事例は、咎められることが少ないのではないでしょうか。
ですが、一連の心無い言動によって心に傷を負うのは、女性でも男性でも変わりありません。

男性が直面するジェンダーバイアス

ジェンダーバイアスとは、男女の役割についての固定的な概念を指します。女性側から「女性らしさ」を強要されることに対して「No」の声を上げられることは、今や珍しくありません。ですがその逆のケースについては、社会の理解が進んでいないのが現状ではないでしょうか。

具体的事例としては、次のようなものが挙げられます。

<ケース1>
・男性でスイーツ好きの人や、自分で料理をする人を「女みたい」「女子力が高い」と揶揄する
→実際には、巷間言われるほど珍しくないですし、私も職場でこのような男性を見かけたこともあります。

<ケース2>
・長髪の男性に対して、通りすがりに「キモイ」と言い放ち、オカマ扱い。
→私の知り合いの男性(Q氏とします)の高校生の頃の話ですが、当時、長髪の男性は珍しい存在でした。ただし別にQ氏にそのような性癖があるわけではなく、音楽人としてのこだわりから長髪にしているまでのことです。彼にとってはアイデンティティを否定されたようなものだったでしょう。

<ケース3>
・「男性なのだから、力仕事をこなして当然」
→これも、Q氏がバイトをしていたときの話です。段ボールを上げ下げする仕事だったそうですが、件の人は無言で彼の肩を叩き、顎だけで「男なのだからあれも運べ」と言わんばかりの態度を取ったとのこと。Q氏は仕方なく引き受けたものの、その行為に対するお礼の一つもなかったそうです。

セクハラを受ける心理と影響

ケース1や3については、女性側が「悪気なく」ジェンダーバイアスに基づいて発言・行動してしまいそうな事例ではないでしょうか。
ケース2についても、仮に男女の性別を入れ替えた場合、「ベリーショートの女は色気を感じない」「男みたいで嫌だ」などの発言を男性がしたとしたら、大問題になりそうな気がします。

当然言われた方は深く傷つきますし、傷つくまでは行かずとも、内心相手方を軽蔑の対象とするであろうことは容易に想像できます。それだけでなく、セクハラの被害者側は「異性不信・人間不信」になりかねません
要するに、「自分が言われたら」という想像力すら働かない事自体、セクハラする側の傲慢さ・幼稚さを如実に露呈しているようなものです。

男性へのセクハラが増加する理由

ところで、なぜ男性に対するセクハラが顕在化しつつあるのでしょうか

今まで男性が被害の声を上げづらかった背景としては、以下のような偏見があったことが考えられます。

1. セクハラは男性が女性に対してするものという固定概念
2. 男ならば拒絶できるはず
3. 肉体的強さ

1については、会社で「セクハラ相談窓口」が設けられていても、相談員自身がそのような偏見を持っていて、却って二次被害を受けることがあるようです。
タダでさえ「女性はか弱いもの」「レディーファースト」が叫ばれ、男性がセクハラ被害を訴えにくい風潮がある中で、「本当は嬉しかったんでしょう?」「男ならば性的話題を好むもの」という扱いを受けたならば、被害者の男性は、いたたまれない思いをするに違いありません。
私自身の経験を踏まえても、男性が自分の弱みをさらけ出すというのは、相当の勇気を必要とするはずです。

2についても同じことです。男女雇用機会均等法が施行されて以来、上司が女性というのも珍しいことではなくなりつつあります。
その場合に、女性上司が自分の地位を傘に着てプレッシャーを掛ければ、男性は拒みにくいのではないでしょうか。
さらに、社内の優越的地位を利用して性的行為を強要されて、それを払い除けた場合、逆に女性上司が「セクハラを受けた」としてセクハラ冤罪が発生することも、考えられます。
もっとも、不同意わいせつ罪(刑法176条)、不同意性交等罪(刑法177条)といった犯罪については、男性側が被害者でも成立するのですが、その事実についてはまだ広く認知されているとは言い難いかもしれません。

(不同意わいせつ)第百七十六条
次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045#Mp-Pa_2-Ch_22-At_176

(不同意性交等)第百七十七条
前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
2行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045#Mp-Pa_2-Ch_22-At_176

3については、セクハラ冤罪を生みかねないリスクを孕んでいます。力仕事については、私の場合は自分で出来る範囲は自分で行い(重い荷物は、台車を使って自力で運ぶなど)、それでカバーできないケースに限って男性社員に頼むことが多かった気がします。依頼に応じてもらった場合には、その場で謝辞を述べるのは言うまでもありません。社会人として、当然のマナーです。

女性から男性に対するセクハラ

先に見たように、女性からのセクハラは「ジェンダー・ハラスメント」に基づくものが多く見られます。

プライベートへの過度な干渉も典型的なセクハラの一つですが、

  • 女性から男性に対してしつこく食事に誘う

  • 女性側から休日のデートを強要される

  • 女性側の記念日にプレゼントをねだられる

  • 女性が露出の多い服装で出勤し、男性から直接指導出来ずに困っている

  • 休憩室が女性専用となっている観があり、男性は暗黙の了解として利用させてもらえない

というのも、立派なセクハラ。冒頭の「初対面で焼き肉をねだられる」というのも、私の周りでは「ないわー」という意見でした。男性側にしても、なぜ彼女や伴侶でない相手に、「恋人」のような振る舞いを強要されねばならないのか。密かに理不尽さを感じている方も、多いのではないでしょうか。

ちなみに「疑似恋愛」タイプのセクハラは、男性の好みや考えを一切無視した、男性の尊厳を軽んじている証左でもあるというのが、私の見解です。
当たり前のようですが、男性も女性とお付き合いする上で、それぞれ好みの性格や容姿があります。女性ならば誰でもいいわけではないのです。

かく言う私自身も、男性にご馳走してもらった経験はあります。ですが、それは職場でのお付き合いの範疇であったり、あったとしてもせいぜい「お酒の一杯」程度だったり。あくまでも男性側からの好意で、かつ男性の面目を潰さない程度に留めています。
そこで過剰に相手方の行為に甘えてしまうと、お金による支配者・被支配者の関係が確立してしまうのが嫌だ……という事情もありますが。

同性へのハラスメント

また、今回は「男性が女性から受けたセクハラ」について触れていますが、同性同士でも「セクハラ」は成立します。
男性の場合であれば、

  • 体育会系のノリで上司の夜の店への同伴を強要された

  • 飲み会の席で「男ならこれくらい飲めて当たり前」とアルコール・ハラスメントを強要された

  • 猥談につきあわされる

というのがあり得るでしょうか。男性でも性的な話題が苦手な人はいるので、「オトコならばその手の話が好きなはず」という思い込みは、厳禁です。

余談ですが、私が女性の生理ネタを嫌うのも、同じこと。実際にリアル生活で女同士でベタベタと体を触られるのも苦手なのですが、生理に関する話を平然とされる、「女同士だからわかるでしょう?」という暗黙の空気も、これまた立派なセクハラだと思っています。

相手の性別に関係なく尊重し合える関係を

冒頭のディレクターさん(S氏)とも話したのですが、人と人が信頼関係を築くのに大切なのは、やはり相手に対する思いやりと人格の尊重です。
男女の付き合いに関しても、その部分が破綻すれば、簡単に二人の関係は破局します。

そう、例えば「浮気」とか。

これも単純に肉体関係だけのものではなく、破局してしまう要因としては、「一方の増上慢」がきっかけとなって、破局に向かうケースがほとんどです。
そして不思議なことに、このタイプ(セクハラ・浮気性)の人間は、同じ過ちを幾度も繰り返すのです。

そう考えると、「セクハラ」を平然と行う人は、やはり「人としても絶対に信用できない」。そう思えて、なりません。
ジェンダーバイアスに囚われず、まずは「相手を一人の人間として尊重すること」。誰かとのお付き合いを長続きさせるためには、この点が肝要なのではないでしょうか。
女性側もまた、「女性の権利」を一方的に振りかざすのではなく、まずは眼の前の人を「一人の人間」として尊重し、向き合う姿勢を心がけたいものです。

最後に、非常に答えづらいであろう内容にも関わらず、真摯にインタビューに応じてくださったS氏、そしてQ氏には、厚く御礼を申し上げます。

©k.maru027.2024

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