社会心理学講義(小坂井敏晶教授/著)
著者:小坂井敏晶(こざかい・としあき)
1956年愛知県生まれ。1994年フランス国立社会科学高等研究院修了。現在、パリ第八大学心理学部准教授。
< この本からの一番のTake Away >
矛盾に陥った時に容易なごまかしをしてはいけないと私が言うのは論理的意味からではありません。矛盾が創造を生む泉だからです。知識とは常識を破壊する運動です。常識や従来の理論ではうまく説明できないから、矛盾が起きる。ケプラーやアインシュタインの例を思い出しましょう。せっかく新発見の端緒を掴んだのに、そのチャンスをふいにしてはもったいない。
< 本書の抜粋>
:本書の目的は、人間を理解するためには、どの様な角度からアプローチするべきかを示唆すること。
:学問で最も重要な事は新しい知識の蓄積でなく、当たり前だと普段信じて疑わない常識の見直し。
:時間を超越する価値観は存在しない。
:生物も社会システムも同一性と変化に支えられているが、この二つの相は本来両立しない。
:人間関係を理解するには2つの軸で発想する→ 空間的発想と時間の導入。逆に言えば、政治哲学や法学が社会関係を空間的に捉える近代合理主義の落とし穴が指摘されている。
:1970年代に日本人の特質を抽出しようとする日本人論(明治以降に西洋をモデルとした近代化推進した流れ) 罪の文化 VS 恥の文化、契約社会 VS 黙約社会、肉食文化 VS 米食文化、砂漠の思考 VS 森林の思考、など。伝統社会の集団主義と近代社会の個人主義。
<各講で心に残った部分・重要と思われる主張>
第1講 科学の考え方
:理論の成否を最終的に決めるのはデータでなく理論自体の説得力。実際にガリレイは実験無しでアリストテレス説を覆した。
第2講 人格論の誤謬
:各人の行動を理解するうえで個人的要素はあまり重要でない。ミルグラムのアイヒマン実験を参照。
第3講 主体再考
:心理学にとって最も重要な主体。精神と身体、精神と物質の関係。自分は社会心理現象であり脳が不断に繰り返す虚構生成プロセスだと。
第4講 心理現象の社会性
:人間の思考は社会・歴史条件に規定される存在。各社会・時代に流布する世界観を捨象して心理プロセスを研究するのは不毛。
第8講 自由と支配
:人間は言葉を媒介にした意味の世界に生きる存在で、他生物よりも開かれた認知構造に支えられている。生物は閉鎖回路の内部でしか安定できないので外部に拡大した自己を閉じるための装置が必要、これが社会制度。この制度を安定させるには支配が必要不可欠。支配は社会及び人間と同義語だと。民主主義社会は平等でなく格差がある。逆に格差の無い平等な社会は機能しない。封建社会もしくは圧倒的に能力が異なれば妬みは生じず尊敬が生まれる。人間差別は異質性の問題でなく同質性の問題。協会が曖昧になるほど境界を保つために差別化のベクトルが働く。人間が主体性を勝ち取った近代民主主義社会は本質的に不安定なシステムであり近代社会の激しい流動性の一因はここにある。
第9講 影響理論の歴史
:合理的な個人の精神も集団に取り込まれると変質し原資状態に戻る。個人は自律を失い集団全体が一つの精神となる。特に依存すべき社会規範が無く不安定で曖昧な状況の場合。
第10講 少数派の力
:時間と共に変化する社会や文化。その原因。多数派の影響は短期的効果あり表層に留まるが、少数派の影響は時間が掛かるが新装に至る実質的効果をもたらす。権力・権威に身を寄せて心理的葛藤が無くなるか否かが原因であろう。犯罪は正常な社会現象であり社会がうまく機能しないから悪い出来事が起きるのでない。資本主義経済に失業者が絶対に存在するのと同じ論理的帰結。
第11講 変化の認識論
:自然淘汰か棲み分けか。新しい世界観が生まれる。
第12講 同一性と変化の矛盾
:般若心経 の有名な章句”色即是空 空即是色”は、本質や実態が存在しないという事。どんなモノも出来事も自存せずに他の原因に依って生じる。
:同一性の維持と変化は生物と社会の本質的特徴。同一性と変化は本来両立しないはず。但し不断の同一性に気づいてないだけ。対象の異なる状態を観察者が不断に同一化する、が同一性の正体。同一性の根拠は対象の内在的状態にあるのでなく”同一化”という運動に求める。絶え間ない同一化は時間軸のみならず空間軸でも起きる。
第13講 日本の西洋化
:日本社会は人の国領で見ると閉ざされているが、文化面からみると開かれている。
:福沢諭吉は西洋化でなく近代化することをすすめた。西洋という文明の特殊形態でなく近代化という普遍性を受け入れる。
:支配や圧力に依拠する従属モデルの否定。日本は支配されなかったから西洋の価値を受け入れた。また、社会が閉ざされているからこそ文化が開く。
:免疫の機構に似て、社会(コミュニケーション機構)が閉ざされているから文化(意味・象徴体系)が開かれる。
第14講 時間と社会
:主権概念 法や命題を正当化するためには<外部>神もしくは神格化された存在が必要だった。
/end
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?