伊坂幸太郎『重力ピエロ』を読んで
兄は泉水、弟は春、優しい父、美しい母。その一見幸せそうな家族には、辛くて重い過去があった。
やがて大人になった兄弟はそれぞれの道を歩み始める。泉水は遺伝子情報を扱う会社に勤務し、春は定職には就いていないが、グラフィティアートを消す仕事を任されている。
ところがある日、仙台市内で連続放火と、火事を予見するような謎の文字が書かれたグラフィティアートが頻発する。
【主なテーマ】
・家族が抱える辛い過去とは何なのか?
・何故泉水は遺伝子情報を扱う仕事に就いたのか?
・放火事件と春自身の関係は?
家族が抱える辛い過去
泉水と春は、半分しか血が繋がっていない。春は母が強姦魔に襲われて、その時に身籠った子供だからだ。その際、父は中絶させるか迷ったようだが、結局産むことを決断し、兄の泉水と分け隔てなく愛情を注いだ。
しかし、春自身は自分のDNAに関して引け目を感じており、陽気に振る舞いつつも遺伝子上の父親に対して復讐心を燃やしていた。また、恋愛を含めた性的なものに対して強い嫌悪感を持っていた。
泉水の職業について
泉水は遺伝子情報を扱う仕事をしている。なぜ泉水がその職種を選んだのかといえば、言うまでもなく弟の遺伝子上の父親を突き止め、弟の代わりに成敗するつもりだったからである。
放火事件と春の関係性
ついに泉水と春は、強姦魔即ち春の遺伝子上の父親を特定した。強姦魔の名前は「葛城」といった。春は葛城がかつて様々な女性をレイプした場所を放火することで、彼に対して警告していたが、微塵も反省をしなかった。
そして、「父親を殺すのか、おまえ」と言ってきた葛城に対し、春が「赤の他人が父親面するんじゃねえよ」と言い放ち、葛城を撲殺した。泉水も葛城の殺害を企てていたが、間に合わなかった。
まとめ
人それぞれ価値観は異なるかもしれないが、愛情や家族愛は血の繋がりを超えるものだと思った。また、この小説は単純な勧善懲悪とも異なるし、ハッピーエンドでもないが、この一家が背負ってきた過去を、殺人は「悪」という社会の常識に囚われていたら理解できないと思うし、一人の男性としてこれからどう生きるべきか、改めて考えさせられた。