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無名の俳優が魅せた覚悟【インタビュー⑥】

様々な想いを胸に、初めて東京キネマ倶楽部での一人芝居に挑んだ田中だったが、その中で自身の芸事に対する考え方や取り組み方に変化があった。

ここまで田中本人の口から自身についてインタビューして、ようやく私が彼に最初に抱いた印象に納得する事が出来た。

この男の纏うオーラは、そう言った様々な現状に抗う事で生まれる表現する事への渇望、喉元に刃を突き付けられながらも必死に抵抗する時に発するであろう人間的な生命力が溢れ出ているのだ。

2021年12月3日に東京キネマ倶楽部で上演された「田中惇之の一人芝居2021」についての話を聞いていきたいのだが、ここまでのインタビューで田中惇之と言う俳優を知り、実際にその一人芝居を目の当たりにした私は、初めて東京キネマ倶楽部の舞台に立った時の話に興味を持った。

一人芝居の稽古を終え、近所の喫茶店で台本を手直ししていたと言う田中を直撃、当時の話を聴きに行った。

喫茶店に着くや否や雑談に次ぐ雑談で散々楽しませてもらった後、ようやく本題のインタビューに辿り着いた。


客観的な視点

ー飛田
歌舞伎町のお店で一年間ロングラン公演をした作品を、東京キネマ倶楽部でやる事で何か変えた事ってあるんですか?

ー田中
演出家さんをつけた事やね!
それが一番大きいんじゃない?
舞台の演出家って、映画で言う監督みたいなもんで、英語だとどっちもディレクションする仕事じゃけえ一緒なんじゃけど、何故か呼び方が違うんよ。
KPR/開幕ペナントレースってパフォーマンス集団のボスの村井雄さんって人に満を持してお願いして引き受けてもらったんじゃけど、元々初めて歌舞伎町のイベントで一人芝居やらにゃいけんなった時ってのが、村井雄さん演出の舞台公演期間中だったんよ。

その村井さんの作品創りの現場ってのがむちゃくちゃ楽しくて、俺の中で「演劇ってこんな面白いんだ!」ってのに出会ったタイミングだったんよね。勿論、舞台上で芝居する事は前から好きなんじゃけど、それまでは「ここで力つけて、いつかメジャーで」って言うアングラ的な意識で劣等感持ってやりよった気がする。
村井さんの現場ではどっぷりと演劇をやっている感じがあって「絶対こっちの方がやべーじゃん!」って状態で一人芝居の話来たわけ。突然やる事になったし凄い怖かったけど「舐めんなよ!」って取り組めたんじゃない?笑
じゃけえ初めて自分で書き上げた一人芝居の脚本と演出は、こんなん言うたら怒られるかもじゃけど村井さんの影響を受けまくった俺が書いた作品じゃったけえ、演出は村井雄一択じゃったね!

ー飛田
演出家がいるのといないのではどんな違いがあるんですか?

ー田中
俺の場合一人芝居じゃけえ客観的な視点が欲しかったのが一番かも!
一人ではデカ過ぎる会場の、客席を含めた空間をパフォーマンスしながら一人で目を行き渡らせるのって、漫才みたいに一つの場所で最初から最後までやるわけじゃないけえ難しいのよ!
普通のお芝居なら会話する相手がおるけん、舞台上と言うか登場人物の会話の中で関係性が構築されていく。それでもやっぱり見せ物として客観的な視点は必要で、演者の中で出来上がったものに対するアプローチだったり、作品の舵をグイッときって色んな可能性を模索してくれる創作隊長が演出家って感じかね?
演出家によってやり方は全然違うけどね。

ー飛田
今まではそれをご自身でやられていたわけですよね?

ー田中
やってないんじゃない?笑
「こうやろう!」と思って稽古する時間がなかったけん、店の空間をイメージしながらなんとなく書いとったけん、あとは本番やりながら「あーしようこーしよう」って全部その場でやったって感じよ!
でも東京キネマ倶楽部って言うデカ過ぎて使った事もない場所で、当日のスタッフさんとのやり取りとかまで考えたら、創った作品をお客さんに効果的に見せてくれる専門家がどうしても必要だなと思ったんよ。
村井さんは脚本もされる方で、書き上がった日の朝に現場で脚本見てもらって、その時のアドバイスをそのまま反映させてもらったし、歌舞伎町の店内は劇場みたいにテクニカルスタッフがおるわけじゃないじゃん?
唯一音響さんだけおったけえ自分のiphone渡してスピーカーと繋いでもらって「このタイミングでこの曲流してください」って言う一手でなんとかなるように作った。あと空間的な演出と言うか、照明は自分で店内のライトの向きとかを調整しようと思っとったんじゃけど、イベント当日はキャンドルアートに火が灯っとったけんもう「これに乗っかろう!」しかなかったわけ!笑

二つの世界観

ー飛田
初めて一人芝居をやった時は練習する暇もなく本番を迎えたそうですが、演出家が入った事で本番に向けて充実した時間を作れたと言う事ですね。

ー田中
それがね、稽古すればするほど怖くなってきたんよ。
もう無茶苦茶怖かった!
人生で初めて一人芝居やった時もさ「書いた自分の作品が面白いのか」とか「これやってウケるのか」とか、まぁその日の朝に書き上がった作品じゃけえ一番は「ちゃんと台詞入っとるんか?」言うんが怖かったんじゃけど、一回ウケたらもう自信がつくわけよ!で、「これオモロイんだ!」って思うわけじゃない?そしたら今度はそれを失うのが怖いわけよ!笑
村井さんの過去の作品を映像やら何やらで観せてもらったんじゃけど、無茶苦茶キレイでカッコよくてアーティスティックなんだけど、やっている事自体はバカバカしかったり、下ネタだったり「なんなんこれ?」をやっとるんよ!なのに!最終的にその世界観に全部持っていかれて物凄い高揚感だったり、感動させられたりするわけ!凄いのよとにかく!!!笑
じゃけえ絶対に村井さんの要素と言うか、自分の作品が村井さんの世界観で魅せれたら凄いもんが出来るって確信があったんよ。
じゃけど俺は一年のロングラン公演で自分の作品がオモロイって気になっとるわけじゃん?
村井さんの世界観を出すためにはさ、物凄く綿密な仕掛けが無茶苦茶あるわけ!笑
で、「歌舞伎町で一年間やっていた作品の場所だけ変えても、既に作品を知ってる人からしたら新鮮さはないよね」って話になって、結局トトロをやっていただけだった初めての一人芝居作品に「俺の人生」と言う要素を入れて「この大きすぎる劇場で、この芝居をやる必然性」を作ってくれたわけよ!
すげー嬉しくてさ、稽古ってより色んな喫茶店を巡ってコーヒー飲みながら芝居の世界観を二人で広げていく作業がほとんどだったんじゃけど、その時間が楽しくなればなるほど怖くなってくるのよ!!!だってもうあのオモロかった俺の作品じゃないんだもん!笑笑
「当たり前だろ!」って思うじゃろ?当たり前なのよ!!!そりゃあね!!!!笑
そしたら初めて一人芝居やった時と同じように「これはオモロイんか!?」って、自分が一番面白がりよるのにそんな思いが頭の中に充満してくるのよ!笑笑
それに当たり前じゃけど歌舞伎町のお店よりデカイ分、お客さんの数も多いわけじゃん?本番の会場借りたりスタッフさん雇ったり稽古場代だったりで無茶苦茶お金もかかっとるけん「これダメだった時のダメージは計り知れんぞ」って怖気付いて、マジで後悔し始めとったもんね!

ー飛田
新しい事に挑戦することが怖くなった?

ー田中
そう言う事やね!
作品を信じて芝居だけやってりゃいいって立場じゃなくなった分、本番ギリギリまで考えにゃいけん事とやらにゃいけん事が多すぎて全然処理出来んかったんよ。笑
でもそんな俺の様子を察して村井さんが「俺に頼んだ時点で諦めた方がいいよ!」って言ってくれたんよね。
創作はこっちの仕事なんだから、しっかり俳優としてのアツを観てもらわなきゃ」って。
「ホンマや!!!!」って考えるの辞めたわけ!笑
出来上がった作品を稽古して、稽古して見えてきたとこを毎回書き直してくれて、また新たな作品になったものを稽古して、それを繰り返すうちに腹が決まってきて、「これがおもんなかったら俳優である自分の責任」って言うプロデューサー目線じゃなくて俳優として勝負せにゃいけんと思えたのは、やっぱ演出家として作品創りの舵を取ってくれた村井さんのお陰やね!

ー飛田
ようやく化学反応が起き始めたわけですね!

ー田中
いつもの調子が戻ってきたね!
よかったよ単純な人間で!笑
俳優ってさ、何回もやって得られるものも勿論あるんじゃけど、小慣れて新鮮さがなくなると「つまんねー」ってなってくるんよ!いや、俺だけかな?笑笑
じゃけえ村井さんの中ではもしかしたら完成形の台本があるけど、小出しにして微妙な変化をつけとったんじゃないかなと思うわけ。それ見て俺が「はっ!また変わってる!」って気ぃ張るじゃん?本番当日にの朝に、また書き直した台本が上がったりで最後までハラハラしたんじゃけど、そのくらい信じてくれとるってのは嬉しかったなぁ。
本番直前じゃったと思うんじゃけど、「上手くやらなくていい、俺たちはカマすんだ!」って言葉はずっと大事にしようと思った言葉じゃね。

初めての東京キネマ倶楽部


ー飛田
色々と乗り越えてようやく迎えた初めての東京キネマ倶楽部、お客さんの反応はどうでした?

ー田中
なんやろね?
実はあんま聞けてないんよね!笑
打ち上げがあって、お客さん達にも来てもらおうと思っとって「カーテンコールで会場の場所を言う」って使命があったんじゃけど、すっかり忘れとってね。笑

初めての東京キネマ倶楽部での一人芝居は、テニスに打ち込んでいた頃の田中から物語が始まる。

終演後にお客さん送り出しながらその事に気がついて「近所のどこぞの店で打ち上げあるんで来てください!」って言うたんじゃけど、その時既に帰った人もおったけえね。
それでも何人かは来てくれて、会場の人と制作さんがお金のやり取りとかをしとったり、スタッフさんがまだ片付けをやってくれとったりしたけど、お客さん待たせるわけにはいかん言うことで、会場を抜けてお先に打ち上げ会場に行かせてもらったんよ!
ほんで俺はとにかくお客さんがこの会場まで足を運んでくれて、身ぃ削って出来たような自分の作品を観てくれたってのがホンマに嬉しくてさ、しかも今この打ち上げ会場で目の前におるわけじゃん?
これは乾杯の挨拶で絶対に伝えようと思って「ほんまに皆さんのお陰です!ありがとうございます!!!」って言うたわけ。
どうやらそれがいけんかったんじゃ・・・

ー飛田
嘘でしょ!?
何が駄目だったんですか!?

ー田中
本番はカミさんも観に来てくれとってさ、打ち上げにも顔出してくれとったわけよ。
子供も連れて来とるけえ乾杯だけ見届けて、知り合いの人に何人か挨拶して帰ったんじゃけど、速攻で電話が掛かってきて何かのぉ思うたら「皆さんのお陰じゃねぇだろ!私だろ!!順番間違えんじゃねえ!!!」ってすげー怒ってんのよ!
「そりゃ感謝しとるけど、あの場所で言う事か!?」とか思ったんじゃけどさ、怒っとる人の理屈って怒っとる人の中でしか通らないってのを経験しとるじゃん?笑
「またこれかーい!」と思って40分くらい電話口で怒鳴られ続けたのよ。笑
電話ブチっと切っても家帰ってからどうせ怒られるじゃん?どの道怒られるんだろうけど、粗方片付けてから残りを処理するって気持ちじゃないと家帰りたくないし、せっかく一生懸命頑張ったのに怒られて嫌だなぁ〜と思ったのもあって、ちゃんと誤解だけは解いとこうと思って全ての罵詈雑言を全身に浴び続けたわけ!笑
打ち上げ会場に戻ったら半分以上の人が帰っとったね。
「やってもたーーーーーー!!!!」ってそっから全然酔えんかったわ!笑
二度とやらんって思った。笑

ー飛田
まさかの角度からでしたね!笑笑

ー田中
でも「東京キネマ倶楽部で俺は一人でやったんだ」ってのは凄い大きな自信になったと思うよ。

本番直前の楽屋。自分でヘアメイクをする田中。

まぁなんぼ不満を言うても結局自分が置かれとる環境で何が出来るかが全てじゃけえね。
何もやらにゃ殺されるわけじゃけえ、誰でも黙らすためには俺は舞台に立ち続けにゃいけんのんよね!笑
今のかっこよくない?笑笑


いつもふざけている田中は時折、自分の本心を語ってくれる。
その度に、私のような一般人にはない感覚と言うか普段感じる事のない感情が込み上がり、胸が熱くなるのを感じる。
スラムダンクの31巻でほとんど台詞がなく展開される世界にのめり込むように、田中の心象風景に引き込まれていくのだ。

せっかくの大きな舞台だが、冒頭の30分舞台上に上がらなかったと語る。
理由は「面白いから」だそう。

しかし、そんな状況に気づいた田中は必ずふざける。必ずだ!!!
そして本来の話から脱線してこちらに話を振ったり、全然関係ない話を始たりする。
読者?である私からすれば、その度に「ドガッ!!!!」とフラストレーションが溜まるのだが、それが田中惇之と言う俳優なのだ。
このおじさんは恥ずかしがり屋なのだ。

次回は少しお酒を多めに飲ませてから、完全に酔っ払った田中からついに2021年の一人芝居について語ってもらう。

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