見出し画像

【双極と私#3】閉鎖病棟の見学と入院準備

こんにちは、百華です。

今日のお話は、2017年2月。
精神科受診から入院日までの出来事です。




問診後の検査


「わかりました。ありがとう」

そう言って先生が私の話を聞き終えると、看護師さんが隣の部屋へと案内してくれました。
このあと、母から話を聞くのでしょう。


隣の部屋でまず、身体測定をしました。
体重をはかるのはいつ以来だろう。

「はい、これ今の身長体重ね」

看護師さんが数値を見せてくれる。


減った。
それくらいしか考えられませんでした。

BMI値に換算すると、14.5。
いわゆる低体重です。


続いて、採血が行われました。
まるで映像を見ているような感覚で、自分の身体から血が出てくるようすを、無感情で眺めていました。

手際よく作業を終えると、看護師さんはその場でPCに向かい、何かを打ち込み始めます。


「診察が終わったら、一度病棟の見学に行きましょうね」

「……そのまま入院ですか?」

「そんなすぐには。準備も必要でしょう」


やわらかく微笑んだ母と同世代くらいの看護師さん。
その笑顔を見て、一度引っ込んだはずの涙がまたあふれてきました。



しばらく泣いて、再び診察室に戻って母と合流し、
先生から状態と今後の方針について説明を受けました。


一か月半程度を目安に、入院すること。
(本人も同意した任意入院です)

抑うつ状態を改善するために、薬を飲んでみること。

時間の感覚がなくなっているので、光療法によって朝を認識する訓練をすること。

脳の状態を探るために、MRIや脳波検査などを受けること。

まずは体重を増やすために、栄養剤を併用した食事メニューとなること。

何よりもまずは、全てを忘れてのんびりと過ごすこと。



続いて、入院について書かれた冊子をもらいました。
一般的な入院のものと精神科用のものを2冊。

看護師さんから説明を受け、処方箋と睡眠記録表を受け取って、
その日の診察は終わりました。


入院は一週間後から。

・とにかく何でもいいから口に入れること。
・薬を飲んだ時間、横になっていた時間、眠っていた時間を、できる範囲で記録しておくこと。
・3日後に、一度顔を見せに来ること。

その3つを先生と約束して、診察室を出ました。
母は、深々と頭を下げていました。



病棟見学


先を歩く看護師さんの後ろを無言で追いかけ、長い廊下を進んでいくと、
突き当たりにロッカーと扉が見えました。


「こちらに貴重品以外の荷物を預けてください。
 それから病棟に入る前に荷物を確認させていただきます。
 あ、どこでも構いませんよ」

ロッカーの前でポケットからジャラジャラと鍵を出しながら、
看護師さんが振り返ります。

うなずいて背負っていたリュックをロッカーに入れ、
スマホと財布を母が持っていたエコバックに入れると、
それを確認した看護師さんが、扉を開けました。


扉の先にはまた扉。
その手前に、銀色のトレーが乗ったカートがありました。

「袋の中身、こちらに全部出していただけますか」

母がエコバックの中身をトレーに出すと、全ての中身を確認されました。
もちろん、袋自体も。


「ご協力ありがとうございます。
 できるだけスマホはとり出さないようにしてください。
 病棟内の録画・録音も禁止です」

そう言うので、私はスマホの電源を切りました。
母は仕事の電話がかかってくるかもしれないからとそのままでした。


「では、ボディチェックをするので、手を広げて立ってください」

ひとりずつ全身をパンパンと叩かれ、見つかったのは私のコートのポケットに入っていた、忘れられた飴。

看護師さんは少し迷う表情を見せました。

「絶対に患者さんたちの前で出さないでくださいね」

もちろん。
首が取れそうになるくらい頷くと、少しだけ笑顔を見せていました。


「結構です。では行きましょうか」

母がすべてのものを袋の中にしまうと、看護師さんは、さらに奥へと歩き始めました。


シーンとした殺風景な廊下。
その向こうに期待できる世界が広がっているとは到底思えませんでした。


あとをついていくと、突き当りにはまた扉が。
再び看護師さんは鍵の束を取り出し、1つを扉に差し込みました。



扉の向こうは、たくさんの長机が並んだ大きな部屋でした。
大きなテレビからは情報番組の音が聞こえていて、奥のほうでは卓球に興じている人たち。

壁に沿って並んだ水道と、
今では見る機会の減った、公衆電話ボックス。


思ったより明るいんだな。
それが第一印象でした。


ふと気づくと、入り口から一番近いテーブルに座っていた女性が、こちらを凝視していました。
小さく頭を下げると、一瞬だけ視線が下がって、また見られる。

何だか居心地悪くなって周りを見回すと、同じようにこちらを見ている目がたくさんありました。

年齢も性別もさまざまでしたが、
みんな物珍しいものを見るような、不思議そうな視線を私たちに向けていました。


「ここがロビーです。自由時間はここで過ごされる方が多いですね。
 それから、食事の際はここでみんなで食べます」


その後、配膳の場所やナースステーションなどを案内され、
再びロビーに戻ってきました。


「何か気になることはありますか」

そう聞かれても、正直生活が想像できないので何も出てこない。
母も同じような感じでした。


「心配しなくても大丈夫です。しおりをよく読んでおいてください。
 何かあれば、次の診察の際にお聞きしますし。
 1週間後、お待ちしていますね」

そんな言葉とともに、笑顔の看護師さんに病棟の外まで見送られました。



支払いを済ませ、
薬局で薬(レクサプロ、ロゼレム、ナウゼリン)を受け取ると、

「今回は逃げない」

強くはないけどそんな決意がちょっとだけ芽生えました。


その一方で、「入院」の言葉を聞いたとき、
迷惑をかけてしまう、申し訳ない。
という気持ちが真っ先に浮かんできました。

修論も出してません。
審査会にも参加できません。
今年学位が取れないことは確定しました。

申し込んでいた年度末の学会にも参加できません。
大学で開催される予定だった講演会のアテンドもできません。
卒論を控えた後輩も放置したままです。



この気持ちを帰りの車でぼそりと母に漏らすと、
母は「入院するほど悪いんだから、正々堂々休みなさい」と。

彼女は強い人です。
私に代わって、大学で必要な書類の提出、病院や役所での手続き、
そのほか身の回りの世話まですべてやってくれました。
自分の仕事や、家族の世話もあるのに。

ただでさえ迷惑をかけているのに、感謝してもしきれません。
今でも頭が上がらない存在です。


束の間の実家


診察の翌日は、久しぶりの他人との会話と知らない場所に疲れ、
ほとんど動けませんでした。

母は忙しそうにしおりをめくり、
買って来なければならないものをピックアップしていました。


母の作ったご飯を食べられるだけ口に運び、
処方された薬を飲みました。

今回は、前のように吐き気に襲われることもなく、
無事に服用できました。


夜になると、ロゼレムを飲んで、眠れないなりに横になりました。

痩せたからか、実家の固い床に敷かれた布団の上では身体が痛く、
横になっていられませんでした。
お客さん用のものも含め3枚くらい敷き布団を重ねて、
やっと横になれたと記憶しています。

睡眠薬はそんなに効かず、あまり眠れませんでした。



3日後の診察時。
レクサプロは飲めたけれど、ロゼレムが効かないことを伝えたところ、
半錠だったものが、1錠に増えました。

その後、母と一緒に近くの複合施設へ行き、
入院生活に必要なものを買いそろえました。


とにかく休む。
何も考えない。
食べて、寝て、その繰り返しで十分。

そんなゆったりとした生活を送りました。



入院のために準備したもの


実際に私が、入院の際に持っていったものを列挙しておきます。

・:持ち込みできた
△:病棟預かりだけど、ロビーなど人目のあるところでは使えた
×:病棟預かり、退院のときまでナースステーションで保管


衣服類(1日おきに来る母が洗濯してくれました)
・パジャマ、下着 各3組
・タオル、バスタオル 各3組
・ルームシューズ(滑り止め付き、つま先からかかとまで覆うもの)

水回りのもの(すべてプラスチック容器)
・歯ブラシと歯磨き粉
・シャンプー・コンディショナー・洗顔・ボディーソープ
・化粧水・乳液
これらはプラスチックのかごにまとめて、運びやすくしてました。

食事道具(すべてプラスチック製)
・はし、スプーン
・ふたつきのコップ

日用品
・コンタクト、メガネ、メガネケース(鍵付きの引き出しに入れる)
・ティッシュ、ハンカチ
・シュシュ、髪ゴム(手首程度の長さ。長いもの・ひも状のものは×)
・透明のリップクリーム、ハンドクリーム
・置時計
・おさいふ(鍵付きの引き出しに入れる、2000円くらい、小銭も)
△スマホ、充電器
(スマホは使用時間制限あり。充電はナースステーションで依頼)
×くし、ヘアピン、鏡(退院時まで病棟保管)

娯楽品
・ノート、手帳、筆記用具
・ライブDVD(部屋のテレビで見れた)
・文庫本3冊くらい
△イヤホンとiPod
(使用時間制限あり。申請すれば病室でも使えた)



こんな感じだったと思います。
忘れてるものがあったらすみません。

とにかく何を持っていったらいいのかわからなくて、
どうせ荷物検査されるんだからと手当たり次第詰めました。



そんなこんなで一週間後の朝。

荷物を持って、母と一緒に、
外来が始まる前の閑散とした病院へと降り立ちました。


#4へ続きます。


百華

いいなと思ったら応援しよう!