新型コロナウィルスで重症化の新たなメカニズム〜自然免疫を欺く 特殊な遺伝子の存在〜
新型コロナウイルスの感染者が都心部で増加傾向にある中で、重傷者や死亡者が少ないことは一つの救いですね。
とはいえ、世界的にも新型コロナウイルスは増加しており、全世界で1300万人が感染しており、60万人近い人がお亡くなりになっております。
6月21日にnoteに投稿した記事にも重篤化する要因を掲載しましたが、先日7月4日にテレビで放送された「人体vsウイルス」の番組内で、新型コロナウイルスに人間の免疫作用を抑制し、症状を悪化させてしまう遺伝子があるという内容が新たに報告されてたので、少しご紹介いたします。
本来人間にはウイルスなどの外敵が侵入した際に、警報物資であるインターフェロンが血管内を通じて食細胞(好中球)に伝達され、その食細胞がウィルスの細胞まで移動し撃退する働きが、自然免疫作用として備わっています。しかし、新型コロナウイルスに感染し重篤化した患者には、そのインターフェロンの産生量が極端に低いという現象が起きていることが東京大
学の研究チームによって分かってきました。
東京大学の発見した新型コロナウイルスの中に存在する自然免疫を欺く特殊な遺伝子は「ORF3b」といい、この遺伝子が原因で自然免疫の役割を担っている「インターフェロン」の産生が抑制されていることが判明しています。
通常ウイルスに感染した細胞は、その細胞から警告物質であるインターフ
ェロンが放出されますが、この特殊な遺伝子はそのインターフェロンの産生を通常時の10分の1にまで抑制することが分かってきました。それにより、ウィルスを撃退するはずの食細胞が反応せずに、肺の中で新型コロナウイルスが大増殖し、ウイルスに侵されてしまいます。また研究によると、警報物質であるインターフェロンが放出されないと、わずか2日で1万倍にまでウィルスが増殖することも分かっています。
さらに新型コロナウイルスの遺伝子は世界中に広がる中で、より強力に変化しており、最近エクアドルで見つかった遺伝子にはインターフェロンの産生を20分の1にまで抑え込んでしまう恐ろしい作用があることも発見されています。この遺伝子を持ったウイルスはまだエクアドルでしか発見されていませんが、若い人でも急速に悪化し、重篤化を招く恐れのある非常に危険なウイルスであると言われています。
【第2の防衛システム「獲得免疫」】
体内の自然免疫をすり抜け、ウイルスが増殖すると、食細胞の一種である樹状細胞が伝令役となり、体内にある免疫細胞にウイルスの情報を伝達することで新型コロナウイルスだけを狙い撃ちする「キラーT細胞」に変化します。このキラーT細胞からはウイルスに侵された細胞に毒物が放出され、ウイルスが死滅します。しかし、新型コロナウイルスには、ウイルスに侵された細胞の中から、キラーT細胞が自ら発見するはずのウイルス情報をうまく隠すことで、免疫システムから逃れる特殊な作用があります。
そこで立ち上がるのが、第2の免疫システムのもう一つの細胞である「B細胞」。このB細胞はウイルスの情報を獲得して「抗体」を作り出します。この抗体はウイルスを見つけ出し、ウイルスの表面全体を覆うことで、ウイルスが体内に侵入する際の受容体であるACE2という肺にあるタンパク質に付着しないように働きかけます。行き場の失ったウイルスは、その後食細胞に撃退されます。また一度作られたキラーT細胞とB細胞とその抗体はしばらく体内に残ることで、2次感染を防いでくれます。これが最初から備わっている自然免疫と異なる「獲得免疫」となります。
【免疫が暴走し、自爆攻撃から血栓が発症!】
最新の研究では、新型コロナウイルスで重症化した患者の多くに肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)という現象が起きていることが分かってきました。肺の中に血栓ができ、血液が止まることで全身に酸素が流れず死亡してしまう恐れのある症状です。血栓の内部を調べると、血の塊の中に自然免疫の一端であった食細胞の死骸がたくさん存在することが分かりました。
体内で新型コロナウイルスが大増殖した際に免疫細胞(食細胞)が異常に活性化した状態をサイトカインストームといい、この時に活性化した免疫細胞が自らの血管を傷つけ、その傷を修復するために血栓が作られると考えられています。
またミシガン大学の研究では、異常に活性化した大量の免疫細胞(食細胞)がウイルスに対して捨身の攻撃をすることも分かってきました。自爆する免疫細胞からは粘着性のあるDNAが放出され、そのDNAが血液の中を網のように張り巡らし、その網状のDNAに血液の一部が絡みつくことで血栓が大量にし、死に至らしめます。大量に免疫細胞が自爆行為を行ってしまうかのメカニズムはまだ解明されていませんが、ウイルスに感染し重篤化する際には、これまでにない作用が体の中で起こっていることは明らかなようです。
【自然免疫における漢方薬の可能性は?】
冒頭でご説明したように、自然免疫作用を下げずにウイルスに対する抵抗力を高めるには警報物質であるインターフェロンが重要な鍵を握っているようです。
東洋医学の薬理作用では、インターフェロンの上昇作用が分かっているものもあります。代表的なものは「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」。
補中益気湯のインターフェロン上昇作用に関しては、何人かの専門家がその薬理作用を発表しております。金沢大学病院漢方医学科臨床教授の小川恵子氏は、新型コロナウイルスに対して今年3月に「無症状病原体保有者の病原体陰性化促進が期待できる漢方薬として、いずれもエキス製剤がある補中益気湯と十全大補湯を挙げている。補中益気湯は、インターフェロンを上昇させることが動物実験で報告されている(Antiviral Res 1999; 44: 103-111)。」という内容を報告されています。10年近く遡りますが、クラシエ薬品医薬学術グループ、薬学博士・川喜多卓也氏も「漢方薬の免疫薬理作用」と題して、補中益気湯のインターフェロン上昇作用などを論文報告されています。
その他にも本場中国では、生薬・板藍根(ばんらんこん)が天津医科大微生物学研究室の研究でインターフェロン産生を促すことが分かっています。
板藍根は日本での知名度はあまり高くありませんが、中国ではかなりポピュラーな漢方薬です。町に点在する薬局はもちろんのこと、スーパーなどのお薬コーナーにも抗ウイルス作用のある風邪薬として陳列されています。下の写真は3年前に中国研修の際に立ち寄ったスーパーで撮った板藍根顆粒の写真です。
もちろん、これらの処方が新型コロナウイルスに効果的かどうかは判断できませんが、少なからず自然免疫作用であるインターフェロンを高める作用がることは間違いないようです。
【免疫力を下げないことが大事】
番組の最後に、タモリさんが山中伸弥教授に「免疫力を高めるにはどうしたらいい?」という問いに対して、
山中教授は「免疫力を高めることはなかなか難しいですが、免疫は簡単に下がってしまいます。その要因はストレス、睡眠不足、偏った食事、過剰な運だったりするので、十分な睡眠、バランスの良い食事、適度な運動を日常からしっかりやることが大切です」と述べています。