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最新刊『正欲』。エンタメ青春作家・朝井リョウは不気味な作家に進化し始めた

『正欲』。
朝井リョウがこのコロナ禍で、
デビュー10周年、満を持して書いた新作。
「性欲」ではなく「正義の欲」。
かなり、あざといタイトルですね(笑)。
たぶん、正義を行使したくて
ギスギスしてる今の日本社会に
何かをぶちこんでくれる
問題作なのでしょうか?

この数年、朝井リョウは化け始めた、
ような気がずっとしていました。
最初は、読者の数メートル先を
しかも、わかりやすい場所で
迎えてくれるエンタメ作家でした。

デビュー以来、
親しみやすさ。
作家としての安定感。
毒々しさも程よかったんです。
『何者』『何様』『武道館』
『世にも奇妙な君物語』。
よくも悪くも、ちょうどいい
存在感でいてくれる作家でした。

大作家になるでもなく、
癒しに逃げる訳でもなく、
エッジとげとげになるでもなく。

そんな無難なエンタメ作家だった
はずの朝井リョウが、
ここ何作か、本格的な読後感を
残す話が続いてます。
『どうしても生きてる』2019年。
幻冬舎、
『死にがいを求めて生きているの』
2019年、中央公論社。
『スター』2020年、朝日新聞社。

生きるとか、個人とか、個性とか、
多様性とかをテーマにしてきました。
ちょうど良いエンタメ作家では
なくなってきたんです。

それが今回はズバリ『正欲』。
中身は、ネタバレになって
すいませんが、
決して人にはいえない性癖の
人たちの話から始まります。

誰が予想したでしょうか?
噴水の水を見ると興奮する
アブノーマルな性癖の持ち主たち。
そんなマイノリティの
人生はどれほどに苦しいか?
人は本当にマイノリティの胸のうちを
わかっているでしょうか?
世の中は、マイノリティの理解に
意欲的な偽善者だらけであることか?

このコロナ禍で、
正義を果たしたい人間たちを
俯瞰して小説にするほど、
朝井リョウは愚鈍ではなかったんです。
私が浅はかでした。
朝井リョウにやられました。

あとは、もう本当にネタバレに
なるので、言えませんが、
大学時代に『桐島、部活やめる
ってよ』でデビューした
『王様のブランチ』がよく似合う
爽やかな青春小説の人間が
こんな本格派作家になるとは、、、
このこと自体がひとつの事件の
ようにすら思えてしまいます。

ただ、今回の『正欲』だけで
どうも読後感の悪いショッキングな
この『正欲』だけで、
今の朝井リョウの本質を
決めつけないでください。

できたら、前作の
『死にがいを求めて生きているの』や
『どうしても生きてる』を
ちょっとでも読みかじったり
読書メーターなどで
最近の朝井リョウの足跡を
見た上で、最新刊の判断して欲しい、
と思います。

朝井リョウを私は、
大好き、という訳ではないのですが、
この1作で決めつけられるのは
朝井リョウも可哀想ですし、
そうなる読者も勿体ないですから。


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