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【向田邦子】人間は、大事なことはひと言も言葉にはしないものだ?

「おとなは、大事なことは、
ひとこともしゃべらないのだ」

これは向田邦子の小説『あ・うん』に
出てくるナレーションです。

向田邦子といえば、
にぎやかなテレビドラマの
シナリオを手掛けた名人だから、
このナレーションは
ちょっと虚を衝かれる思いがする。

いや、でも、
おとなは肝心なことは
やすやすとは口にしないことを
知悉していたからこそ、
家族ドラマのシナリオを描けたに
ちがいない…気もする。

作家の関川夏央は、
『家族の昭和〜私説昭和史』で
このナレーションについて
こう書いています。
「家族を維持するには緊張感が必要だ。
秘密が必要だ。そして、それを守ろうと
する努力が必要なのだ、と向田邦子は
逆説的に、語っている。」

そういえば、
向田邦子を敬愛する小泉今日子が
向田の魅力について語る時に
このナレーションとそっくりな
話をしていました。
確か、こんな感じでした。
人はみな秘密や嘘や怒りや恐怖を
抱えて生きているもので、
しかもそんなことは絶対に
口にしないで生きている、と。
 
小泉今日子は『あ・うん』の
ナレーションを想い浮かべて
いたのかもしれない。

それにしても、
このナレーションほどに
凄み味ある名言を知らない。

私の祖父も戦争を語らず、
私の父も正義を語らず、
大人の誰も人生の意味を語らず。

それが人間の真っ当な姿、在り方
なのかもしれない。 

最近はブログやnoteで
誰もが人生の意味や正しさを
やすやすと語るけれど、
そのぶんだけ、大事なことは
軽くなってしまっているのでは
ないでしょうか?

向田邦子にどれだけ
影響を受けたかわからないけど、  
三谷幸喜にも、
「ここぞという時には、
人間は黙って何も言わないものだ、
最近のドラマは喋らせ過ぎだ」
そんなことを書いていました。

noteでアレコレ書いてる私が
こんな話を言っても
説得力は全然ないですが(笑)。

大事なことは敢えて書かない、
というやり方で、
読んでくれる方々に伝えるワザを
磨いていくとしようかしら。
難しそう。でもそれができたら
私もひと皮むけるかもしれない。

言葉にしない大事さ?
言葉にはできない大事さ?

「人間は大事なことを
ひとこともしゃべらないのだ」

向田邦子好きだったつもりが、
私は向田の大事なメッセージを
今までスルーしてきてたのか?
30年近く、私は向田作品を
どう間違って読んできたことか(汗)。

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