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【読書】司馬遼太郎の「非・歴史小説」オススメ2選

今日は、司馬遼太郎の「非・歴史小説」を
オススメしたいと思います。

司馬遼太郎の『坂の上の雲』は
果たして小説か?どうか?
『翔ぶが如く』もまた小説かどうか?
歴史小説好きの間ではしばしば
議論されてきました。

歴史の専門書というには、
みずみずしい語りだし、
エッセイと呼ぶには、
しっかりした主題が
全巻を貫いています。

司馬さんは最初、ごく当たり前に、
主人公やライバルたちが
血湧き肉踊らせて戦い、苦しみ、
奔走する時代活劇を書きました。
特にそれが最高潮を迎えたのが
『竜馬がゆく』『梟の城』
『燃えよ剣』などなど。
吉川英治や海音寺潮五郎ら
先輩のように、定番スタイルで
歴史小説を書いていました。

それがどういう訳か、
『太閤記』『国盗物語』
『関ヶ原』『城塞』戦国四部作を
書く辺りで、文中に随筆風の解説を
盛り込むようになりました。

続いて『坂の上の雲』では
もう冒頭から完全に文章が
随筆風のタッチになっている。
作中の主人公の目ではなく、
作者・司馬遼太郎の目で
時代や国を見ている体裁です。

その後、司馬遼太郎は
このスタイルを気に入ったのか、
長い長い随筆風のタッチで
『翔ぶが如く』『菜の花の沖』
などを書いていきました。

また、はなから、
これは小説とは呼べない
自由なスタイルをとるよ、
と宣言しながら
『空海の風景』『ひとびとの足音』など
ユニークな作品を形にしました。
もうこの2冊は明らかに随筆です。
主人公の目で見たり、
主人公の体で奔走することは
ほとんどなく、
司馬さんの目線で、
空海について語り、
正岡子規の家族について語りました。

血湧き肉踊るような歴史活劇が
歴史小説ではないのか?
という方からは、
『菜の花の沖』や『翔ぶが如く』は
小説とは呼べないと不満もあるでしょう。
「司馬遼はどうして『竜馬がゆく』のまま
あのスタイルで書けばいいものを、
気取りやがって!」
そういう声もありました。

小説はフィクションによって
真実に迫る媒体手段です。
なのに、随筆風のタッチは
フィクションは排して、
司馬さんのその時その時の
「印象」を延々と書いていく。
こっちのほうがより一層、
真実に迫っている場合もある。
そこが司馬さんの妙技です。

たしかに、アクションや
めくるめく駆け引きの興奮はありません。
でも、一度騙されたと思って
『空海の風景』や
『ひとびとの足音』を読んで
みてください。

なんとも爽やかなタッチ。
耳当たりがとてもいい。
まあ、対象テーマが
空海やら正岡子規の家族やら
ちょっと、戦国や幕末の
時代活劇が好きな人には、
好みが合わないかもしれない。
でも、司馬さんが懸命に
空海を理解しようとする姿が
目に浮かぶようで、
そうか、作家はこうやって
対象テーマや対象人物を
理解したり愛したりするのか?
時に苦しんだりするのか?と
まざまざと教えてくれました。
この2冊は、作家の奮闘と方法論を
読者に見せてくれる貴重な作品です。

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