【推薦図書】ようこそ、石牟礼道子の世界へ。
今年いちばん胸にきた
文章があります。
ちょっと冒頭だけでも、
紹介させて下さい。
「貧乏、ということは、
気位が高い人間のことだと
思いこんでいたのは、
父を見て育ったからだと、
私は思っている。
まったくこの人は、ほんとうに
どん底の人だったけれども、
卑屈さのかけらもなく、
口惜しまぎれの言説というものも
吐いたことのない男だった。
口をついて出てくることは、
全身これ人間的プライドとでもいう
べきものに裏打ちされていた。」
これは、作家・石牟礼道子の
食エッセイ「食べごしらえ
おままごと」の冒頭のある部分です。
中公文庫。
いかがですか?この文章は?
こんなにも、自分の父の凄みを、
娘はクールに、ユーモラスに
観察しているものなんですね?
ビックリしました。
私は親をこんなふうに
的を射るように絶妙に書けるとは
とうてい思えない(汗)。
親とか家族とか、近い人ほど、
距離は持ちにくいから、
表現するのが難しいですよね。
それから、
この文章には父親への尊敬心や、
一方、貧乏に育った自分や父をも
カラっと乾いた精神で観てる眼差し。
湿気のない、
色めがねのない人間観察が
行き届いているようで、唸りました。
石牟礼道子さんは、
貧乏な幼少期を送ったのでしょう。
でも、その原因でもある父親を
こんなにも魅力的な言葉で
表現できる石牟礼道子さんに、
また魅力を感じますね。
石牟礼さんは、
まだまだ著作がたくさんあるから、
これから読んでいくのが楽しみ。
それから、
石牟礼道子さんの
生前のお写真を見ると、
とても色気というかオーラが
溢れている方です。
水俣病を描いた作家だから、
きっと、硬いかな?とか、
正義感まんまんな人かな?
と、先入観があったんですが、
上記に紹介したような
食エッセイを読んだりすると、
作家イメージがだんだん
立体的になりますね。
作家は、代表作品だけで
判定してはいけないですね。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?