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【出版】三島由紀夫・初版本が復刊されるというタブー破り

来年1月、
三島由紀夫の『仮面の告白』単行本が 
しかも初版装丁のままの単行本が
河出書房新社から復刊される。

なかなか考えさせられる
ニュースでした。

三島由紀夫の『仮面の告白』なんて
新潮文庫で何十万部も出てますが、
もともとは、河出書房新社から
ハードカバーで出た作品でした。

これは、ひとつの出版業界タブーに
挑戦しています。

基本的に、新刊本屋さんは
新しい本しか扱えない。
というか、
出版社は、基本、新しい本を
どんどん出す。
一度出た本は、新刊書店では
扱いにくく、
取り扱いは古本業界に移ります。

私みたいな戦後文学好きには
一度出した戦後文学本を
何度でも気軽に復刊して欲しい。

今の日本では、
毎日、何冊くらい本が
刊行されていると思いますか?
毎日200点が発売されてるんですって。
年間にすると、70000点。
70000点。

これは世界でも異常な数字です。
毎年、毎年、70000冊が出るなんて。

これは、出版として素晴らしいことか?
答えはノーです。

内容的に未熟な本も
無理やり出ています。
そんな、70000通りもの、
新しい叡智や世界観が
新たにあるわけではない。

出版社や取り次ぎが、
自分たちの社員やスタッフの
給与を満額で養うために
必要だから、新しい本を出す。

出版社が社員の給与を満たすために
新しい本を出す。
ぶっちゃけると、
これが年間70000点が出る原因です。
70000点がでれば、
新しい本を専門に扱う取り次ぎも
無事に問屋としてやっていける。

でも、書店は年間70000点が出て
困っています。
限られたスペースで、
1日200点も並べて、
翌日にはまた200 点が出て、
そんな数にはとても対応が
できません。

結局、問屋の取り次ぎから
配送されてきた本で、
一度も書店に並ばなかった本が
無数にある、という悲しい話になる。

しかも、問屋の取り次ぎは、
もともと大手出版社に
頭が上がらないシステムだし、
大手出版社の人気作家の本を
優先的に陳列することになる。
フェアではないですね。

毎日200点もの本が出ることを
誰が望んでいるのかしら?

先に書きましたが、
大手出版社が社員の高い給与を
出すために、
出版サイクルをまわすために、
新刊を出しまくる。

こんな状況なので、
どんどん、中身のある、
書店におくべき本が
なかなか書店には回せない 
という現状があります。

講談社や新潮社、文藝春秋社は
もっともっと書店で扱って欲しい
貴重な本も、どんどん
絶版にしていきます。
小島信夫や吉行淳之介や後藤明生、
サルトルやアランたちの名著の、
そのほとんどが
絶版となってしまう。

結局、ひとつ前の時代の本は、
おしなべて、
古本で高値で買うしかなくなる。

一冊でも、古い名著を
出版社が出すことで、
新刊しか扱えなくなっている
今の出版業界のタブーが
破られていくきっかけに
なるのではないでしょうか。

年間70000点も
出す必要がないことが
証明されるでしょう。

それで出版社の社員の給与が
減ってしまっても、
それはそれで、出版社は
しかと受けとめねばならないと、
出版社にいる私は思います。

無闇に編集者の給与が
ちょっと高すぎるんです。

その原因は、まさに年間70000点
という膨大な刊行点数にあります。

本当は、本の神様がいて、
この本はまだ企画が熟してないとか、
この著者はまだ力がないとか、
世に出るために誰かがチェック
するべきなのでしょう。
でも、それを人間同士の世界で、
本を出す出さないを決める機関を
作ろうものなら、
この民主主義時代、 
とうてい受け入れられない。
結局、どこかに届ければ、
本を出せることになる。
それが年間70000点の背景です。

現在は、いったもん勝ち的に
取り次ぎに正式に申請したら
それでどんな出版社や個人でも 
本が出せてしまう。

でも、とりあえず、 
昔の本を、
昔の初版のデザインで、
新たに出す今回の河出書房新社の
三島由紀夫のケースは
粋な、かつ、チャレンジングな
素晴らしい試みだと思うんです。

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