AIのクラゲとおしゃべりできる書店「透明書店」に行ってきた話
本屋さんって面白いんです。
何を今さらという感じですが、小規模の書店や個人書店などが増えて、本屋さんのバリエーションがすごく広がっています。
選書のオリジナリティだけでなく、コンセプトやお店作りから従来の本屋さんの枠を飛び越えているところもあって、本屋さんという存在の可能性がぐんぐん拡張されているように感じます。
それなのに。
思えば、行くのは通勤途中にある大型チェーンばかり。
仕事の新刊チェックとして売り場を眺めるだけで、「本屋さん」という場所にあまり向き合えていなかった気がします。
本屋さんが減っている今こそ、いろんな本屋さんに行くべきではないか。
いろんな本を買って、いろんな人と話して、いろんなことを考えて。
そして、「本屋さんって楽しいよ!」と発信しよう。
そんな当たり前のことを、今年はちゃんとやろうと決意したのでした。
というわけではじめた、「おもしろい本屋さんに行こう」企画。
モリが訪れた本屋さんを、誰に頼まれてもないのに勝手に紹介していくコーナーです。
今回のお店は、「透明書店」さん。
AIのクラゲとおしゃべりできる、いろんな刺激に満ちた本屋さんです。
(★写真撮影、SNS公開の許可はいただいております)
※※※
今回ご紹介するお店
「透明書店」
隅田川沿いにある駅・蔵前。かつて江戸幕府の御米蔵があったことから名づけられたそうで、いまも江戸時代から続く下町文化を残している街です。浅草の隣駅なので観光客も多すぎず、落ち着いて街歩きを楽しむことができます。
歴史を感じる建物が並ぶ一方でリノベされたおしゃれなお店も増えるなど、古い文化と新しいカルチャーが融合しつつある場所ですね。
ちなみにおもちゃ問屋も多いところで、新卒の時に某おもちゃメーカーの面接に行った記憶……。
そんな蔵前にある本屋さんが「透明書店」。
この「透明書店」さん、機会があれば行ってみたいと思っていました。
それもそのはず。だって、会計ソフトで有名な会社「freee」さんが運営している本屋さんなんです。
出版と対極に位置すると言えなくもない異業種の企業が、本屋さんを経営している。
そんなん、めっちゃ面白そうじゃないですか。
しかし蔵前に行く機会がなかなか訪れず、わざわざ行くには家から遠く。いいタイミングがないかなあ……と思っていた矢先。
打ち合わせ帰りの乗り換えポイントが、蔵前の隣駅だったんです。
いつ行くの? 今でしょ!
今さら過ぎる流行り言葉に背中を押されて、薄暮れの蔵前に足を踏み入れたのでした。
※
透明書店さんは都営大江戸線の出口から歩くと、数分で着きます。
あまり奥まってはいないので、Google先生の指示通りに歩くと迷わず辿りつけるはず。
外観は上の写真の通りですが、扉以外もガラス張りなので中が一望でき、はじめて訪れる人も入りやすいお店です。
ガラス戸を開くと、ぎっしり詰まった本と温かみのある照明。それにちょっぴりネオンな空間が迎えてくれます。
写真では見切れていますが、入って右手には大きなディスプレイ。
かわいいクラゲが画面内でふよふよ動きますが、これ、AIによる対話型チャットボットなんですな。
ディスプレイの下にはキーボードが据えられていて、クラゲさんに質問することができます。
遊んでみた印象としては、具体的な書名を提示してもらうために使うというより、あいまいな会話を楽しむ感じ。
レコメンドを求めている人にはやや物足りないかもしれませんが、僕はこのゆるい対話がけっこう好きでした。看板クラゲとおしゃべりしているような、そんな感覚。
お客さんとの対話を通してどんどん進化していくでしょうし、訪れるたびにクラゲちゃんとおしゃべりするのも癖になりそうです。
(▼AIクラゲについて詳しく知りたい人はこちらをどうぞ)
AIクラゲというfreeeさんらしい仕掛けに驚かされつつ、肝心の本棚ラインナップも幅広くて充実しています。
平台にはビジネス系から「文藝」まで並んでいて、ジャンルレスの面白さ。
クラゲディスプレイの横の棚には、本屋・生活綴方さんで見かけたZINEなども。下の棚には絵本や児童書も置かれていました。
独立系書店は個性を出した選書をされていて、その個性に惹かれたお客さんが集ってくるのが強みです。
その良さは理解しつつも、やはり本屋さんとは幅広い人に開かれた存在であってほしいなあと思うのです(あくまで個人の意見です)。
ぷらっと入る家族がいてもいいし、「子供の時に好きだったな」と思って買う人がいるかもしれない。そのためにも児童書が置かれているのは素晴らしいですし、「かいけつゾロリ」のようなマスに向けた児童書があるのって最高ですね。
ちなみに読み物もちゃんと置かれていて、「小説」や「SF」などの棚も。
「小説」の棚には編集を手掛けた「活版印刷三日月堂」を見つけて、めちゃくちゃ嬉しかったです。
※
透明書店さんのXのプロフィールには、
「スモールビジネスに関わる人がちょっとした刺激をもらえるような、オープン(透明)な本屋です」
と書かれています。
そのコンセプトの通り、ビジネスに繋がりそうな本もたくさん。
業種別に細かく分けられた棚プレートがあったり、「仕事」「経営」「経済」というジャンル棚があったりして、すごく新味を感じます。
※
透明書店さんの本棚やディスプレイは工夫と仕掛けが凝らされていて、紹介したいトピックだらけなんですが、中でも目を惹いたのは中央の丸テーブル。
リトルプレスやZINE特集ということで、ユニークな本が並べられています。
リトルプレスって、新刊書籍といっしょに置かれて馴染んじゃってるケースがわりとよく見受けられますが、そもそもリトルプレスやZINEの存在を知らない人も多いはずなんですよ。
そんな人たちに親切な見せ方ですし、「せっかくだしこの中から1冊買ってみようかな」と思う動機付けにもなります。
「素敵な小さい出版社」というコーナーもめちゃくちゃ素晴らしくて感激。
最近は小規模の本屋さんだけでなく小規模の出版社も増えていて、「ひとり出版社」などという言葉もよく耳にします。そうした小さな出版社さんを棚ごとで分けて見せており、じっくり何度も眺めてしまいました。
小規模の出版社さんは作る本に個性が出やすいので、「私、この出版社が作る本好きかも?」と、自分の好きな出版社を見つけることができますね。
ちなみに冒頭でご紹介したディスプレイのクラゲちゃんは、透明書店さんのマスコットキャラクター。
キーホルダーやグラス、Tシャツなどオリジナルグッズも販売しています。
このクラゲちゃん、すごくかわいい……
※
透明書店さんを満喫した帰り道に思ったこと。
それは「めっっちゃ素敵な本屋さんだったな!!」ということ。
「スモールビジネスに関わる人がちょっとした刺激をもらえるような」というお店のコンセプトや、freeeさんが運営している背景から、ビジネス書や自己啓発書などが中心の本屋さんなのだろうと想像していました。
たしかにそうしたジャンルは充実していましたが、物語やエッセイなどそれ以外のジャンルも独自性を持った本が揃っているし、リトルプレスや小規模出版社の棚も大きく展開されている。マス向けの本も抑えてある。
ビジネス書以外もあらゆるところで刺激に繋がるように作られていて、本屋さんとして素晴らしい空間でした。
いや、そもそもビジネスの刺激につながるのはビジネス書や自己啓発書、という僕の考えがとても短絡的だったのです。
ビジネス(とくに経営や立ち上げ)に関わる人たちこそ、たくさんの人々の思想や生き方に触れなければいけないし、未来を見据えるために想像力を豊かにしなければいけません。
誰かの小さな生活が綴られたZINEからヒントを貰うこともあるでしょうし、SFから未来のビジネス像を思いつくことだってあるでしょう。
あらゆるジャンルで出会いに満ちた空間こそ、まさに「スモールビジネスに関わる人がちょっとした刺激をもらえる」空間なんだなあ……と感じ入って帰路につきました。
お店ではビールやコーヒーなども頼めるので、店先でブックカフェとして楽しむもよし、そのまま蔵前の街歩きを満喫するもよし。
ビジネスに携わっている人たちだけでなく、一介の本好きの人も満足しかない本屋さんです。
蔵前近くに出かけることがあれば、ぜひ足を延ばしてみてください。
※
(ほかにも魅力がたくさんありすぎたのですが、全部書くとあまりに記事が長くなるので、泣く泣く割愛した情報はこちら)
●トークショーなどのイベントもよく開催されているので、おすすめです(詳しくはHPをご覧ください)
●奥にはイベントスペースがあり、クリエイターさんの展示やシェア型本棚があります。いたるところまで満喫できる仕組み。
●freeeさんの公式noteでは、透明書店さんの日別の売り上げまで公開されていて、とても興味深いです。無料のメンバーシップでは月ごとの振り返りも音声で聞けちゃいますよ。
⇒freeeが書店を作ります|freee公式編集部
★★★
<最近読んだ本>
ほしおさなえ『銀河ホテルの居候』
軽井沢の銀河ホテルには、「手紙室」があるという。好きな色のインクで手紙を綴るとき、自分の本当の気持ちに向き合える。 設定が素敵で、各話のドラマが心に沁みる。ほしお作品の中でも素晴らしい作品。夜の読書におすすめです
★過去の記事はこちらのマガジンから。
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