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本の装丁にやたら箔を押したがる編集者が「アルミ蒸着」で特別カバーを作っちゃった話

まずはこの動画を見てくださいな。
(※すいません、動画を直接埋め込めなかったのでXのリンク先で…)


すごくないですか、このシルクのような光沢。そしてキラリと銀に輝くタイトル。よく見ると全体がもやっとしているようですが、これはモアレではなくカバーにうっすら入っている模様です。この模様が粒のような輝きをまとわせていて、かつ手触り感にもつながっていて、なんていうかもう控えめに言って最高じゃないですかねえええ!!!(血走った目)

この超絶美しいカバーは、凪良ゆうさんの『わたしの美しい庭』(通称:わた庭)の夏限定カバー。
そしてなんと、アルミ蒸着を使用したカバーなのです。

※※

『わた庭』のカバーはもともとこんな感じ。


爽やかで天国のような屋上庭園が描かれていて、いつまでも眺めていられる荘厳なイラストです。
描かれているのは春のイメージですが、季節が違うバージョンがあったら素敵やん? というノリで冬をイメージしたカバーを作ったところ、これが大好評。
もっと見たいという声を社内外からいただいて、夏・秋と四季のバージョンを作成し、季節限定カバーとして展開してきました。

(春・秋・冬。春カバーはホロPPで秋と冬カバーは箔押しです)

今回の夏カバーは、TSUTAYAさん限定で過去に展開していたのですが、「欲しかったけど近くにお店がなかった」という声も多く、TSUTAYAさんに許諾をいただいて、全国バージョンとして展開することになりました。

労力低く作るなら、前回の夏カバーをそのまま全国版として流用するか。
もしくはやたらと本に箔を押したがる森なので、箔押しの秋・冬カバーを踏襲して、ちょっと箔押し加工などを加えるか……。

(▲箔押しへの愛はこちら)

しかしどうせ作るのなら、同じカバーだとつまらない。
せっかくだし、ひと工夫を加えたい。

「そんないい案ないっすかねえ!?」

と丸投げした先は、デザイン事務所bookwallの築地亜希乃さんです。
築地さんは『わた庭』のデザインを担当してくれたブックデザイナーで、数々の素敵な本を手掛けてきた名デザイナーのお一人。

(▲築地さんの『わた庭』デザイン裏話はこちらから読めます)

築地さんならば、「助けてドラえもーん」的な無茶ぶりもきっとなんとかしてくれるはず!
そんな浅はかな相談をした僕に、築地さんはこんな提案をしてくれました。

「今回は、アルミ蒸着はどうでしょう?」

さすがすぎるぜ、築地さん。

※※

アルミ蒸着とは、紙の表面にアルミの膜を付着させることです。今回はその上に印刷をしています。
名前の通りアルミの輝きが出るので、キラッキラに全体が仕上がります。
下記の画像も帯にアルミ蒸着を使用しています。

(これが蒸着)

本のカバーでキラキラしたものだと「箔押し」がよく聞きます。
タイトル文字がキラリと輝いているものが箔押しで、カバーでよく使われる加工はこちらですね。

(これは箔押し)

箔押しは金型を作り、その金型で金箔を押していきます。
要するに、印刷された紙に金箔のスタンプを押していくようなものです(超ざっくり)
それにたいして今回は、キラキラしたフィルムを貼り付けた紙に印刷を重ねる要領ですね(超ざっくり)

まあ言いたいこととしては、
・箔押しとアルミ蒸着は別の加工
・アルミ蒸着は帯で使われることがあるが、カバーで使うことはあまりない
=カバーの仕上がりが未知数!

ということです。

そんなん、絶対やりたいやん。

というわけで営業や製作と相談し、見積もりも取ってみて。
また森か~って目で見られつつも原価的にはなんとかなりそうで、GOサインが出ました。

ただ、アルミ蒸着は全体にアルミを付着させるので、輝きが強く出がちです。
いっぽう、『わた庭』のカバーは静かで上品な空気感。
植田たてりさんが描いてくれた静謐な世界を崩さないかだけが心配でした。

なので、築地さんには6種類のデザインバリエーションを出してもらい、色校正で検討。
なおかつ最悪の場合に備えて、アルミ蒸着を使わないバージョン(通常の箔押し)も控えとして考えておくという、めちゃくちゃお手間なことをしてもらったのでした。ほんとすいません。

そんなこんなで出てきたカバーが、上記の動画のものですよ。

(見よ、この輝きを!)

6種類のバリエーションはどれも素敵でしたが、やはり輝きが強すぎるものもあり、その中でこのパターンは完璧でした。

輝きはまといつつも上品。植田さんの絵の魅力が増幅されていて、イラスト・デザイン・印刷という本の外側を構成する要素が相乗効果をもたらしている。
『わた庭』では箔押しやホロPPなどいろんな印刷加工にチャレンジさせてもらいましたが、また新たなる可能性が開けた。
そう感じさせる素晴らしいカバーになっていました。

ちなみにアルミ蒸着の場合、アルミの上に色を刷るとギラギラ感が強く出ますし、アルミの上にホワイトを刷ってから色を載せるとギラギラ感が抑えられます。
疑似的なエンボス加工(浮き彫りみたいなもの)もできるので、どのような仕上がりになるかをイメージしながら印刷の版を作らなければならず、デザイナーさんにとってめちゃくちゃ手がかかったりもいたします。築地さんマジありがとうございました…

(タイトル以外は白版を敷いているので、ぎらつきが抑えられていますが、タイトルは直接アルミの輝きが見えるように作ってくださっています。エンボスは全面)

そんな特殊な工程を経てつくられた『わた庭』の夏季限定カバー。
これは本当にきらめきと手触り含めて現物を見ていただくのが一番なので、よかったらぜひ確かめていただきたいです。

※※

『わた庭』だけでなく、デザイナーさんと一緒に装丁や造本にちょっとこだわりを入れがちな僕ですが、もちろん好みもありつつも、多少の祈りも込めています。

「面白そう」「この著者の本好き」など以外に「かわいいから買おうかな」とか、モノとしての雑貨的な興味を購入の新たなきっかけにできるといいなと思うのです。
本って美しいしかわいいし、特に文芸などのジャンルは「モノ」としての魅力が強いので、そこを突き詰めることで新しい読者に届けられないか。だって本の入り口はもっと広くて自由であっていいはずだから。

また、「モノ」である限り、それを確かめるためには本屋さんに行かざるを得ません。最近あまり本屋さんに行ってないけど、SNSで見たあの限定カバーはちょっと見てみたいな……と本屋さんに足を運ぶきっかけに少しでもなれば。(理想論ですが)
そんなことに繋がるのを切に願いながら、今回も素敵なカバーを作りました。

どうぞ本屋さんでカバーのきらめきを確かめてくださいませ。

これで全国版の『わた庭』季節カバーが全て揃いました。
新たなカバーが登場するかはまったく未定ですし、何冊も集めてくださっている読者の方には申し訳なさもあるのですが、機会がありそうでしたらご期待くださいませ。

ではでは!

※参考にリンクを貼っていますが、ネット購入の場合通常カバーで届く可能性がございます。確実に夏カバーを入手されたい場合は、お近くの書店さんに問い合わせていただくよう、お願いいたします。

★★★

<最近読んだ本>
金子玲介さん
『死んだ山田と教室』
事故で死んでしまった高校生・山田。しかしその魂がスピーカーに乗り移ってしまったらしく、クラスメイトとの奇妙な高校生活がはじまる…… 男子のばかばかしい青春と、その先にある寂しさを描いた小説


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森潤也|文芸編集者
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