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フィクションと実在の狭間で 〜大好き! ドゲンジャーズ〜
『シン・ドゲンジャーズ』放送開始に寄せて
子どもの頃から、フィクションの世界が好きだった。
絵本から始まり、小説、アニメ、ドラマ。
それらは、わたしの薄ぼんやりとした、平凡で窮屈な人生の隣を走る、良き友人であった。
「特撮」というジャンルに出会ったのは、二十歳を過ぎたころだ。
「正しさ」とか「努力」とか「自己責任」とか、そういったものに劣等感があったわたしに、
「別に、正義の形なんて一つじゃないんじゃない?」
と教えてくれたのは、「正しさ」の象徴みたいな子ども番組のヒーローだった。
時は流れ、2020年。コロナ禍真っ只中。
新しい特撮ヒーロー番組が始まった。
「この物語はフィクションですが、ヒーローは実在します」
この言葉の本当の意味を、あの頃のわたしはまだ知らない。
『ドゲンジャーズ』とは、福岡県を中心に、九州地方で活動する「実在するヒーロー」の寄せ集めチームであり、彼らが出演する特撮ドラマのシリーズ名でもある。
ここまで読んで「『実在するヒーロー』とは?」と思った方も、いらっしゃるだろう。
「ご当地キャラクター」あるいは「ローカルヒーロー」と言い換えたほうが、通りが良いのはわかっている。
でも、実際に会ってみると、「実在するヒーロー」としか言いようがないので、仕方がない。
「どげん」は、博多弁ないし九州方言で「どんな風に」「どうやって」の意。
接尾辞「-er」+複数形の「s」で「~する人たち」なので、
標準語に訳すなら「どうにかする人たち」と言ったところか。
間に「g」が入るのは……まあ、ご愛嬌だろう。
2020年、1作目放送終了後のクラウドファンディングでは約3,800万円の支援を達成し、
2021年には、「日経トレンディ」2021年地方発ヒット20選に選ばれ、
昨年は、韓国の専門チャンネルでの放送も開始し、
現在、オフィシャルパートナー企業は120社を超える、
知る人ぞ知るヒットコンテンツだ。
原作は「株式会社 悪の秘密結社」。
当然ながら、こちらも「実在する企業」である。
作中では、同名の会社に勤めるワルモノたちが、ヒーローの敵として立ちふさがる。
『ドゲンジャーズ』は、たくさんの格好良く愛らしいキャラクターが活躍する作品なのだが、
登場キャラクターについては、公式サイトがくわしいし、
作品ができた経緯については、チームのリーダー的存在である「薬剤戦師オーガマン」こと、「株式会社 大賀薬局」の大賀崇浩社長が、記事を書かれているので、
そちらを見ていただくのが良いと思う。
ここでは、一ファンから見た『ドゲンジャーズ』の世界観や空気感、その魅力について語っていきたい。
そして、あわよくば、7月14日(日)から放送予定の、シリーズ5作目『シン・ドゲンジャーズ』を観ていただきたい。
え?
「ローカルヒーローってことは、九州でしか放送してないんでしょう」?
大丈夫!
北は北海道から、南は鹿児島まで、全国(の一部地域)でTV放送する。
あと、公式YouTubeで観られる。
※追記
7月12日現在、サブスク配信のプラットフォームが発表されたので、ご参照ください。
【配信情報】
— ドゲンジャーズ【公式】 (@dogengers) July 12, 2024
今年もサブスクが充実!
7/14~順次配信開始!
配信環境が整いましたので、悪の秘密結社YouTubeチャンネルでのアーカイブ配信は1話のみとなります。
※その他の放送情報は公式HPをご覧ください。https://t.co/OCrxgGFyfX pic.twitter.com/94mu7wy5mC
(ちなみに筆者は関西の人間なので、普通にTV放送圏外である。配信ありがとう)
え?
「シリーズ5作目って、初見にはハードル高いなあ」?
大丈夫!
『ドゲンジャーズ』は、好きなところから観ても、楽しめる作品である。
どうぞ、安心して最新作から観てほしい。
……って、天才脚本家が言ってた。
* * * * *
『ドゲンジャーズ』の魅力として、まずわかりやすいのは、その取っつきやすさ、敷居の低さである。
作風は、おおむねコメディ路線。
特撮番組のようなヒーローとワルモノが、普通に暮らしている街で、一つのテーマに沿って、1クールの間、ドタバタする。
これさえわかっていれば、いますぐにでも観られる。
わたしは正直、『ドゲンジャーズ』以前、ローカルヒーローの映像化作品に対し、「わかりづらそう」という偏見があった。
理由は複数あるが、特に
「細かい『設定』への想いが強すぎて、物語の運び方が不親切なんじゃないか」
「結局、地元でショーを観ないと、意味がわからない内輪ネタとかあるんじゃないか」
というのが、懸念事項だったように思う。
もちろん、わかりやすい・万人受けする・共感できる作品だけが、良作だとは限らない。
しかし、とかく現代人は忙しいし、世にエンタメコンテンツは、掃いて捨てるほど溢れている。
例えば、洗い物しながらでも、ノンストレスで流し見られるような。
それでいて、〈沼〉にハマれば、巨大感情と考察の深淵に沈むことができるような。
『ドゲンジャーズ』は、そんな作品が観たいと願う、現代人のワガママなニーズに寄り添ってくれる作品だと思う。
まず、1作目では、
幼なじみを訪ねて、東京から福岡にやってきた青年・田中次郎(演:正木郁)が、ヒーローとワルモノの戦いに巻き込まれ、新米ヒーローとして成長していく。
福岡(+九州)のヒーローのことをよく知らなくても、主人公と同じ目線で、彼らに出会えるのだ。
福岡県に縁もゆかりもない人間でも、本編映像だけで充分楽しむことができる。
この「新米ヒーローが、『ドゲンジャーズ』の面々に一人ずつ出会い、協力していく」構成は、
3作目『ドゲンジャーズ〜ハイスクール〜』、
4作目『ドゲンジャーズ〜メトロポリス〜』でも踏襲されている。
また、2作目『ドゲンジャーズ〜ナイスバディ〜』以降は、
「福岡」という地名を極力避け、「この場所、この街」という表現を採用している。
他の地域の視聴者のことも、置いていかないという、作り手の優しさを感じる。
『ドゲンジャーズ』の登場人物は、個性的で風変わりなキャラクターが多いが、
そこで描かれるのは、人の優しさや、ちょっとしたプライド、コンプレックス、大事な思い出などの、普遍的なテーマである。
ヒーローが世界を救うのは、日常の延長線で、
ワルモノは、倒され爆発しても、次のシーンでは復活している。
ここでは、ヒーローと一般市民、ヒーローとワルモノ、ヒーローと視聴者は、ある種の運命共同体で、
時に寄り添い合い、時にほどほどに突き放し合いながら、この街で普通に暮らしているのだ。
本作のラスボスである、悪の秘密結社社長・ヤバイ仮面は、毎度うそぶく。
「負けてない。まだ勝ってないだけだ」
本来、特撮ヒーロー番組の肝である「正義は勝つ」のカタルシスよりも、
同じ場所で生きる人間同士のコミュニケーションに重きを置いた、優しくあたたかい世界観。
そのあたりが、あまり特撮ドラマに馴染みがない人でも、受け入れやすい点なのかもしれない。
実際、「他社の特撮ドラマは観たことないけど、『ドゲンジャーズ』は好き」というファンも、少なからずいるようだ。
では、特撮ファンにとっては物足りないのかといえば、まったくそんなことはない。
その証拠に、『ドゲンジャーズ』のセールスポイントの一つとして、よく挙げられるのが、映像クオリティの高さや、本格アクションだ。
なんせ、1作目の第1話から「いつもの採石場」こと、栃木県・岩船山でのバトルシーンが展開する。
九州のヒーローなのに。
2作目に至っては、イマドキのTVドラマではなかなか難しいとされる、車の爆破シーンまである。
制作陣は、
長年、東映特撮作品で助監督業を務め、
『行って帰ってきた烈車戦隊トッキュウジャー 夢の超トッキュウ7号』では、東映ヒーロー初の女性監督として抜擢された、
荒川史絵監督や、
『仮面ライダークウガ』で監督デビューし、
特撮ドラマのみならず、舞台作品等の演出も手がける
鈴村展弘監督、
平成仮面ライダーやスーパー戦隊などのスーツアクターとして活躍し、
活動休止期間を経て、
『ドゲンジャーズ』1作目で業界復帰した、
押川善文氏をはじめとした、
高い技術をもった撮影スタッフ、JAE・BOS所属のスーツアクターなどが脇を固める。
全作通して安定感のある、しかし、チャレンジ精神も感じられる、映像を楽しむことができるのだ。
2作目『ドゲンジャーズ~ナイスバディ~』では、
「Mr.平成仮面ライダー」こと
高岩成二氏が、『ドゲンジャーズ』のライバルヒーロー役を熱演。
「大手特撮映像会社の社長にして、歴代主演ヒーロー役を演じてきたレジェンド」という役どころは、
まさに高岩氏にしか演じることができないキャラクターであった。
さらにシリーズを追うごとに、映像技術やアクションのノウハウは蓄積され、
4作目以降は福岡ないし九州・沖縄の映像スタッフ・アクションチームが、中心となって制作にあたっているようだ。
最新作『シン・ドゲンジャーズ』で監督を務めるのは、
沖縄県のローカルヒーロードラマ『安全第一大知マン』にて主演の大知建広役を務めた、
翁長大輔氏。
『大知マン』では重厚なアクションで魅せ、TV・CM・映画・イベントなど幅広い分野のプロデュース業も行っている翁長監督だけに、その手腕に期待が寄せられる。
ちなみに『安全第一大知マン』も公式YouTubeで観られるので、未見の方はぜひ。
アクションが、とにかく重くてカッコイイ。
とはいえ。
世の中には、おもしろいコメディも格好良いアクションも、星の数ほどある。
そんな中で、なぜ『ドゲンジャーズ』が人々の心を惹きつけるのか。
それは、「実在するヒーロー」「実在するワルモノ」という生々しさにこそあるのではないだろうか。
彼らはフィクション上のキャラクターであると同時に、それを演じる役者であり、支える企業・団体の代弁者である。
キャラクターによってブランディングの手法は違うが、仲間としての結束力も強ければ、お互いに対するライバル心も強い……のだと、思う。
世の悪意に、ワルモノに、他のヒーローに「絶対負けない」という負けん気と、作品に対する強い愛情を、みんな持っている。
ゆるい作風の底に見え隠れする、ひりついた熱情と緊張感が、まばゆい光となって、視聴者に、客席に突き刺さる。
お祭り感、というのだろうか。
この時間が永遠に続くかのような錯覚と、一瞬であるからこそのきらめき。
3作目『ドゲンジャーズ〜ハイスクール〜』は、ヒーローたちが文化祭の準備をする(手伝う)物語だったが、
『ドゲンジャーズ』に会うと、「ずっと文化祭の前日」みたいな気持ちを味わえる。
だから、先述した「本編映像だけで充分楽しむことができる」という言葉と矛盾するが、
『ドゲンジャーズ』は会いに行ったほうが良い。
マジで、会ったほうが良い。
「遠征するの大変だ(し、御時世的にどうせ行けない)から、深入りしたくない」という理由で、
約2年半、あえて(ほぼ)本編映像しか触れないライトファンをしていた、わたしが言うのだから、間違いない。
最近は、月に1~2回ほど、福岡に通っている。慣れって怖い。
繰り返すが『ドゲンジャーズ』が始まったのは2020年。
番組以前から活動していたヒーローたちは、それまで、みんなそれぞれショーイベントを主戦場に戦っていた。
あの頃、ヒーローショーの現場で何が起こっていたか。
まず、ヒーローが客席に降りてこなくなった。
握手会がフォトセッションに変更された。
「がんばれ」の声が禁止された。
そして、とうとうショーそのものが中止になった。
ショーが再開されてからも、また長かった。
「がんばれ」の代わりに拍手での応援とか、
ビニール手袋ごしの握手会とか、
各地でいろいろ工夫はされていたけれど。
さっきから、前置きもなしに「がんばれ」「がんばれ」と書いているが、要するにアレである。
ヒーローショーの中で、ヒーローがピンチになり、客席からの応援で立ち上がる、お約束の展開。
台本通りの形式的なコール・アンド・レスポンスと思うなかれ。
目の前のヒーローを助けようとする、客席の子どもたちはいつだって本気だ。
「いや、君、さっきまで、ぐずってたやん」
「待ちくたびれて寝てたやん」
といった子どもたちが、体から湯気が出そうな勢いで、必死に「がんばれ」と叫ぶ様からは、とてつもない生命の力が感じられ、ちょっと、いや、けっこう泣ける。
大人の「がんばれ」だって捨てたもんじゃない。
顔も名前も知らない赤の他人同士が、ただ同じヒーローが好きだという理由で集い、声を合わせる。
彼らがどういう性格で、どういう人生を歩んでいるか、わたしは知らないし、これからも知ることはないだろう。
でも、一緒に「がんばれ」と叫ぶ時だけは、仲間のような心持ちになれる。
わたしもみんなも、ヒーローを通して、たしかに同じ時間を過ごしてきたはずだから。
特撮ヒーロー番組は、通常1年や半年スパンで、次の番組にバトンタッチする。
現行作品でなくなれば、キャラクターと会える機会は、変身前後ともに格段に減る。
今のヒーローには、原則、今しか会えない。
だけど、あの頃のわたしたちは「がんばれ」が言えなかった。
言えないまま、新しいヒーローがやってきて、言えないまま、卒業していった。
でも、『ドゲンジャーズ』は待っていてくれた。負けなかった。
「がんばれ」の声が届くまで。
優しく、頼もしく、ふてぶてしく、
「どうもー、『ドゲンジャーズ』でーす。実在してまーす」
と、そこに居てくれた。
『ドゲンジャーズ』シリーズでは、毎度最終回に
「一年間ありがとうございました!」
とテロップが表示され、
視聴者が「いやいや、1クールしかやってないよ!」とツッコむのがお約束の流れになっているのだが。
なんのことはない。
一年どころか、彼らはずっと、この街に「実在」しているのだ。
「株式会社 悪の秘密結社」代表で、『ドゲンジャーズ』シリーズのプロデューサーである、笹井浩生社長は、
昨年、4作目放送終了後のクラウドファウンディングに寄せて、下記のように述べている。
ここからドゲンジャーズは、この街の“文化”を目指します。文化になるため、作品を作り続けました。文化になるため、3年間続けました。そして…文化になるため、知ってもらう媒体を増やし、“実在するヒーロー”の解像度を上げ、これまで以上の場所や様々なシーンでドゲンジャーズが活躍する未来を生み出したい。そう考えています。
…ようやくコロナに仕返しが出来ます。
一緒に仕返しをしましょう。
いよいよ始まる、5周年のお祭り作品。
初代主人公・田中次郎を主役に据え、1作目の原点回帰的内容となるらしい『シン・ドゲンジャーズ』。
彼らが、どのような活躍を、輝きを、そして文化を見せてくれるのか。
言葉では言い表せないくらい、楽しみにしている。
大好き! ドゲンジャーズ!!