【66. 水曜映画れびゅ~】"King Richard"~不可能を可能にするためには…~
"King Richard"は、先月23日から日本公開されている映画。今年のアカデミー賞では、作品賞・主演男優賞を含め6部門にノミネートされています。
あらすじ
テニス界最強姉妹を育てた男
テニス界最強と謳われる、ビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹。
姉のビーナス・ウィリアムズは、女子シングルスでウィンブルドン5回、全米オープン2回の優勝を誇り、世界ランキング1位の座にも立った最強プレイヤー。
妹のセリーナ・ウィリアムズは、女子シングルスで全豪優勝7回、全仏優勝3回、ウィンブルドン優勝7回、全米優勝6回という驚異的な成績を持つ、こちらも最強プレイヤー。
そんな最強姉妹は、ダブルスでも最強。
テニス4大大会で通算12回の優勝を果たし、またオリンピックでは三度金メダルを獲得しています。
そんなテニスにあまり詳しくない私でもわかるくらい驚愕の成績を残しているウィリアムズ姉妹。そんな姉妹の誕生秘話を描いたのが本作です。
…がしかし!
実は、本作の主人公は彼女ら姉妹ではありません。
この最強姉妹を育て上げた父のリチャード・ウィリアムズの視点で、この作品は描かれます。
毒親か、天才か?
最強姉妹を育てた父リチャード・ウィリアムズ。
「さぞスゴイ選手だったんだろうなぁ」なんてついつい思ってしますが、実は元テニスのプロプレイヤーというわけではなく、というか素人同然といっても過言ではないくらいテニス経歴のない方なんですね。
そんな彼は、テレビで女子テニスプレイヤーのバージニア・ルジッチが活躍する姿を目にし、これから生まれる自分の娘も女子テニスプレイヤーにしよう、と一念発起。
その実現のために78ページにも及ぶ計画書をつくり、娘たちをプロの道へと導くため、徹底的に鍛え上げます。
娘たちをプロテニスプレーヤーにするための「ドリーム・プラン」。
ここまでの概要だけを見ると聞こえはいいのですが、劇中で描かれるその内実は、はっきり言って常軌を逸しています。
雨の日でも風の日でも、テニスの練習。
無償でのプロコーチを求めて、ゴリ押し訪問。
練習させる割に、本人の意向を無視して試合に出させない。
などなど…
あまり好きな言葉ではないですが、言ってしまえばリチャードは毒親に近いんですよね。
っていうか、子どもが生まれる前からその子どもの将来を決定づけているのも、ちょっとおかしい話です。その思惑は、実は自分がお金持ちになりたかった、ってな感じだったりして…。
ただ毒親っぽくはあるんですが、一概にそうとは言い切れない一面もあるんですよね。
そこの違いは、「子どもへの愛」。
確かに好き勝手しているように思えるのですが、その強固な信念の裏には深い子どもへの愛情がある姿も垣間見えます。
有色人種として生まれたからには、他人に舐められるわけにはいかない。そのために選手としてだけではなく、人として強くあってほしい。そして、娘たちがそうなることを信じて疑うことは一度もなかった!
そんな信念の下で、時に常軌を逸するとしても、深い愛情で娘たちを応援し続けたお父さんでもあるんですね。
オスカー最有力候補、ウィル・スミス
そんな超クセ強のリチャード・ウィリアムズを演じたのが、今やハリウッドの顔ともいえる人気俳優ウィル・スミス。
このウィル・スミスの演技が、各方面から絶賛の嵐!
いかにも素人面全開なのに、娘たちのテニスの腕前には超自信があるため、それを矢面にガンガン無理難題を押し付けてくる。そんな、言ってしまえばムカつくオヤジを、見事に演じました。
本作の日本版予告編で流れる「ウィル・スミスはアカデミー賞確実!」という宣伝文句に嘘偽りはなく、実際に今年のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされているだけではなく、前哨戦の賞レースでは圧倒的な強さを誇っています。
また、主演だけでなく、プロデューサーとしても本作に携わったウィル・スミスは、作品賞のノミネーションにも名を連ねています。
ウィル・スミスだけじゃないっ!
そんなウィル・スミスの熱演が注目される本作ですが、脇を固める演者も素晴らしい。
リチャード・ウィリアムズの妻のオラシーンを演じたのが、アーンジャニュー・エリス。
無鉄砲で自己中的に暴走し始めるリチャードのケツを引っぱたき、しっかり軌道修正させる肝っ玉母ちゃんのオラシーン。リチャードだけではなく、彼女がいたからこその最強姉妹なんだとわかる、そんなアーンジャニュー・エリスの演技でしたね。
そして、ウィリアムズ姉妹の幼少期を演じたデミ・シングルトンと、サナイヤ・シドニー。
自信あふれる天才テニスプレイヤーであるとともに、あどけなさも持ち合わせた姿が実に子どもらしくて良い。
共演したウィル・スミスも絶賛の演技で、二人とも次世代のスターになること間違いなしっ!
さらに、リチャードに振り回されるコーチ役で、名バイプレイヤーのジョン・バーンサルも出演。いい味出してましたねぇ~。
聞くところによれば、役作りのために13kgほど減量したとか。
不可能を可能にするために…
ということで今回は、テニス界最強姉妹を育てた父親の驚きの実話『ドリーム・プラン』を紹介させていただきました。
上映回は少なくなり始めていますが、現在も劇場公開中なので、ご覧になられることを強くお勧めします。
また、今後本作について注目なのが、ウィル・スミスがオスカーを受賞するか、どうか。
今年の主演男優賞は、例年にも増してハイレベルなのですが、前述した通り前哨戦でウィル・スミスは圧倒的な強さを誇っており、受賞確実が大方の予想となっています。
その前哨戦の一つの全米映画俳優組合賞を受賞した際に、壇上で受賞スピーチをしたウィル・スミス。会場にビーナス・ウィリアムズがいる中で語ったリチャード・ウィリアムズへの彼の言葉が、胸に刺さりました。
不可能を可能にしたリチャード・ウィリアムズを演じたウィル・スミス。
長年遠ざかっていたオスカーという「ドリーム」を、彼も掴み取ることができるでしょうか?
前回記事と、次回記事
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来週は、今週末に公開のアカデミー賞7部門ノミネートの注目作Belfastを紹介する予定です。
お楽しみに!