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【62.水曜映画れびゅ~】『水俣曼荼羅』~6時間超で描く、終わらせてはいけない戦い~

『水俣曼荼羅』は、昨年の11月27日から劇場公開された原一男監督の最新ドキュメンタリー作品です。

作品情報

2004年10月15日、最高裁判所、関西訴訟。
「国・熊本県の責任を認める」判決が下った。この勝利をきっかけに、原告団と支援者たちの裁判闘争はふたたび、熱を帯びる。「末端神経ではない。有機水銀が大脳皮質神経細胞に損傷を与えることが、原因だ」これまでの賞指揮を覆す、新たな水俣病像論が提出される。
わずかな保証金で早急な解決を狙う、県と国。本当の救済を目指すのか、目先の金で引き下がれるのか。原告団に動揺が走る。そして……熊本県、国を相手取った戦いは、あらたな局面を迎えることになる。

『水俣曼荼羅』公式HPより

終わらせられない戦い

本作は『ゆきゆきて、神軍』(1987)や『れいわ一揆』(2019)で知られる原一男監督の最新作。

ドキュメンタリーの鬼才という異名を持つ原監督が最新作の題材としたのが、水俣裁判

1956年に初めて確認された水俣病。
その水俣病を患った方々が救済を求めて国や熊本県を相手取った裁判(通称「水俣裁判」)が、長年続けられてきました。

その裁判において大きな論点であったのが、水俣病患者として扱われない未認定者への救済。

多くの人々が「私は水俣病です。」と申請しているにもかかわらず、厳しく設定された認定基準を満たしていないがために十分な救済が与えられてきませんでした。

国が1977年に定めた(水俣病の)認定基準は手足の感覚障害に加え、視野狭窄や運動失調など2種類以上の組み合わせが必要とした。

西日本新聞「水俣病と認定基準」より一部抜粋

そんななか、1995年に行われた「政治決着」

政府は未認定者を認定せず、しっかりとした謝罪の言葉もないまま、一時金(260万円ほど)を支払うことで事態を収束させようとしたのです。

そして実際に、多くの水俣裁判が和解の方向へ進んでいきました。

しかし…

そんな幕引きでは終わらせられなかった。

残された原告の人々によって行われた関西訴訟。
その最高裁の判決で2004年に水俣病の国・県の行政責任が認められ、終わらせかけられていた水俣裁判が熱気を取り戻します。

本作では関西訴訟最高裁判決の日から約15年もの間において、水俣病解決に向けて戦う人々の姿が6時間を超えるスケールで描かれます。

人々の魅力的な一面も描く

6時間超で、しかもそんな重いテーマで、正直言って「こんなの観るの?」なんて思われる方がいるかもしれません。

実際に私も自分で観に行っといてなんですが、「よく観に行ったなぁ~」って思います(笑)

「では、なぜ観に行ったか?」というと、本作をラジオで紹介されていた映画評論家の町山智弘さんのこの言葉があったからなんです。

「この映画はね、すごく元気な映画でね。見てて楽しい時とか、笑う時とか、いっぱいある映画なんですよ。」

町山智浩『水俣曼荼羅』を語るより

つまり「重くて暗い映画か?」といえば、そうでもないんですね。

確かに劇中には水俣裁判及びその判決を基に行政とやり取りをするシーンなどがあり、そういった場面は壮絶なまでに心に響くものがあります。

その一方で、水俣問題解決に励む人々の素の姿、インタビューなどを通してふんだんに盛り込まれており、その部分は思わず頬が緩んでしまうほど心温まるんですよね。

例えば、15歳で水俣病が発病した生駒さんという方が登場されています。
この方は、手などの痺れが激しく、深刻な水俣病の症状が見て取れるのですが、その一方でとても明るくて純粋な性格ですごく元気そうな姿も映し出さるんです。実際に定年まで働かれていて、子供もいらっしゃいます。

また胎児性患者の坂本しのぶさんという方も登場します。
この坂本しのぶさんは恋多き方で、そんな彼女の人生における恋の歴史辿るセンチメンタル・ジャーニーが監督の原さん発案ではじまちゃったりするんですね(笑)

こういった方々は、確かに水俣病によって自身の人生を大きく狂わされてたと思います。ただ、それでも屈することなく人生を楽しんでいる姿を目にして、かえって元気がもらえるんですね。

だからこそ、裁判の判決のシーンとかは余計目頭が熱くなってもしまいました。

また個人的に、というかこの映画を観た人ならだれもが好きになってしまうのが熊本大学医学部の浴野教授だと思います。

浴野教授は水俣病の病像論を一から見直して新たな学説を確立し、原告側の支援者として水俣裁判にも大きく貢献したスゴイ方なんですが、ものすごく気さくな方でもあり、映画に出てくるときはいつもニコニコしていて、すごくかわいいんですよね(笑)

映画が進んでいくうちに浴野教授の登場がどんどん待ち遠しくなっていた自分がいました。

これから、もっと多くの人々へ

ということで、今回は涙あり笑いありの超大作『水俣曼荼羅』を簡単ではありますが、紹介させていただきました。

先ほどコメントを紹介させていただいた町山智弘さんが、2021年No.1映画の一つと評されていた作品でもあり、私も鑑賞してから、この映画のことを考えない日がないくらい、すごく心に刺さっています。

ただ如何せん、やっている劇場が少ないっ!

11月から順次全国公開でしたが、私の住む地域では1月にやっと公開されました。

そして6時間超というのは、やはり普通の人にはなかなかハードルが高いかもしれません。

映画大好きの私でも、一作のために一日予定を空けるのは少しためらいがありました…

しかし、それでも多くの人々が観てもらうべき作品ではあります。
劇場公開は、もうほとんどの地域で終わっているかもしれませんが、今後DVDや配信などによって多くの方にご覧になってほしいです。

水俣裁判という”終わらせてはいけない戦い”に挑む人々の姿を、多くの方に観ていただき、「水俣病はまだ終わっていない、終わらせてはいけない」ことを知っていただきたいです。


前回記事と、次回予告

先週投稿した記事はこちらから!

これまでの【水曜映画れびゅ~】の記事はこちらから!

来週は、昨年の東京国際映画祭で観客賞を受賞した『ちょっと思い出しただけ』を紹介させていただこうと思います。
お楽しみに!


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