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【61.水曜映画れびゅ~】"West Side Story"~リメイクではない、新たな名作の誕生~
"West Side Story"は、先週末11日から劇場公開されている映画で、名作ミュージカル『ウエスト・サイド物語』(1957)をスティーブン・スピルバーグが監督した作品。
ゴールデングローブ賞にて作品賞(ミュージカル・コメディ部門)などを受賞、また今年のアカデミー賞では作品賞・監督賞を含む7部門にノミネートされています。
あらすじ
夢や成功を求め、多くの移民たちが暮らすニューヨークのウエスト・サイド。 だが、貧困や差別に不満を募らせた若者たちは同胞の仲間と結束し、各チームの対立は激化していった。 ある日、プエルトリコ系移民で構成された“シャークス”のリーダーを兄に持つマリアは、対立するヨーロッパ系移民“ジェッツ”の元リーダーのトニーと出会い、一瞬で惹かれあう。この禁断の愛が、多くの人々の運命を変えていくことも知らずに…。
伝説のミュージカルを映画化
冒頭でも触れましたが、本作の原作はブロードウェイミュージカル『ウエスト・サイド物語』。
シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』を下地に、ニューヨークのウエスト・サイドを舞台に繰り広げられる2つの不良グループの抗争と、それに巻き込まれた男女の恋を描いた作品です。
レナード・バーンスタイン作曲・スティーヴン・ソンドハイム作詞の、その作中の音楽には"America"や"Tonight"など名曲がいっぱいありますね!
そして、このミュージカルを語るうえで欠かせないのが1961年に公開された映画『ウエスト・サイド物語』。この作品は、アカデミー賞で作品賞を含む10部門を受賞し、『雨に歌えば』(1959)や『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)などと並び、ミュージック映画史に残る名作として語り継がれてきました。
私も昨年鑑賞しましたが、圧巻でしたね!
なかでも、ジョージ・チャキリスがめちゃカッコイイッ!
スピルバーグ版は、ただのリメイクではない!
そんな伝説のミュージカル映画の公開から約60年の時を経て、本作『ウエスト・サイド・ストーリー』を手掛けたのが、スティーブン・スピルバーグ。
『E.T.』(1982)や『シンドラーのリスト』(1993) など、数多くの名作を世に送り出してきた、説明不要の名監督ですね。
そんなスピルバーグにとって、『ウエスト・サイド物語』は子供の時から思い入れ深い作品のようで、以下のようなコメントを残しています。
「僕の家はクラシック一家で、クラシック音楽に囲まれて僕も育った。その中で『ウエスト・サイド物語』のサウンドトラック、1957年版ブロードウェイミュージカルのキャスト盤なんだけど、それは僕にとって初めて触れるポップミュージックだった。夢中で聴いたよ、恋に落ちてしまったかのようにね。」
そんなスピルバーグにとって念願であった『ウエスト・サイド・ストーリー』の製作。『リンカーン』(2015)などでタッグを組んだ脚本家のトニー・クシュナーとともに5年間構想を練り、脚本を作り上げたと語っています。
そんなスピルバーグ版『ウエスト・サイド・ストーリー』は、否が応でも1961年版『ウエスト・サイド物語』と比較されてしまいがちだと思います。
ただ私は、どちらも見た立場としてこう言っておきたい。
「スピルバーグ版は1961年版のリメイクなどではない、全く新しいミュージカル映画である。」
つまり、どちらがいいという議論の余地がない、全く別物なんです!
そりゃあストーリーや音楽は同じですが、それは同じブロードウェイミュージカルを原作としているからであって、構成やダンスシーンに関しては1961年版とは違った演出がなされています。
そのなかには1961年版へのリスペクトを感じる部分もありはしましたが、映画の仕上がりとしてはリメイクという域を優に超えています。
そんなスピルバーグ版『ウエスト・サイド・ストーリー』の特徴を簡単に言えば、「見せ場で魅せる」ところ。
とにかく盛り上がるところ、物語の山となるところ、をしっかり押さえて存分に観客に観てもらおうとする。そんな往年のスピルバーグらしい映画作りを感じました。
ヤヌス・カミンスキーが可能にした「魅せる」映画
そんな「魅せる」映画となった本作の功労者は、監督のスティーブン・スピルバーグはもちろんですが、撮影監督のヤヌス・カミンスキーの存在も大きかったでしょう。
『シンドラーのリスト』でアカデミー撮影賞を獲得して以降、『プライベートライアン』(1998)などスピルバーグ作品で撮影監督を務め続けているカミンスキー。
そんな彼によって生み出されたダイナミックで美しい映像が、『ウエスト・サイド・ストーリー』が「魅せる」映画である所以だと思います。
実際にスピルバーグ自身も、本作での彼の働きをこう評していました。
「正直言って、僕が今まで見たことがないくらいのすごいことを、ヤヌスはしてくれた。」
そして、アカデミー撮影賞にもノミネート。
カミンスキー自身3度目となる受賞の可能性は十分あると思います。
オーディションを勝ち抜いたニューカマーたち
そんな製作陣の下で作られた本作。その出演陣についてですが、メインキャストの大半はオーディションによって選ばれました。
レイチェル・ゼグラー
ヒロインのマリアを演じたのは、レイチェル・ゼグラー。
3万人の応募があった選考を経てマリア役を勝ち取り、なんと本作が映画デビュー作となりました。
ちなみにマリア役決定の通知は、スピルバーグ本人が彼女が通うバレエ教室に出向き、直接伝えたといわれています。
その演技と歌は本当にチャーミングで、ゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)も受賞しましたね。
次回作として、ディズニー製作の実写版『白雪姫』の主演も決まっており、今後の活躍も期待です。
アンセル・エルゴート
そしてもう一人の主人公トニーを演じたのは、アンセル・エルゴート。
「高身長でカッコいい人な~」なんて思いながら観ていましたが、後から調べてみると『ベイビー・ドライバー』(2017)のベイビーを演じた方なんですね!
ベイビーは寡黙なキャラクターでしたが、本作では歌も歌って全く違う一面に魅せられました。
とにかく、かっこいい…。
アリアナ・デボーズ
そして、なんといっても本作で一際輝いていたのは、アニタ役を演じたアリアナ・デボーズ。
1969年版でリタ・モレノが演じ助演女優賞に輝いた同役ですが、それを凌ぐほどの好演。
歌もダンスも煌びやかで、もうこのアニタ抜きでは『ウエスト・サイド・ストーリー』は成立し得なかった、と言っても過言ではないでしょうね。
事実、ゴールデングローブ賞の助演女優賞を受賞。アカデミー賞でも同カテゴリーのノミネートされおり、最有力候補と言われています。
また受賞となれば、同じ役で二人の俳優が受賞することとなり、ドン・コルレオーネを演じたマーロン・ブランド(『ゴッドファーザー』, 1972)とロバート・デニーロ(『ゴッドファーザー PART II』, 1974)、ジョーカーを演じたヒース・レジャー(『ダークナイト』, 2008)とホアキン・フェニックス(『ジョーカー』, 2019)に並び、3例目となります。
ちなみに、前作でアニタを演じたリタ・モレノですが、本作ではエグゼクティブプロデューサーとして関わっているとともに、出演もしています。
今だからこそ、響く物語
ということで、今回はスティーブン・スピルバーグが監督を務めた『ウエスト・サイド・ストーリー』を紹介させていただきました。
前述しましたが、もともと『ロミオとジュリエット』にインスパイアを受けて作られた作品。
『ロミジュリ』でのキャピュレット家とモンタギュー家の争いを、白人と移民のプエルトリコ人との抗争に置き換えたその設定は、幸か不幸か、現代においてより強いメッセージ性を含むようにもなっています。
スティーブン・スピルバーグ自身も、そのことを強く意識しています。
「構想を練っている5年の間で、分断が大きくなっていることを感じた。そのことによって、悲しくも、この人種間での分断を描く問題が、1957年よりも今日の観客の方が響くのではないか、と思われる。」
より
60年経っても、変わらない、いやむしろ悪化している「分断」という問題。
いつか『ウエスト・サイド・ストーリー』を観て、「こんな時代もあったな」なんて思える日が来てほしいな、と願っています。
前回記事と、次回記事
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来週は、ドキュメンタリー界の鬼才の異名を持つ原一男監督が映し出した水俣裁判を巡る15年間『水俣曼荼羅』(2021)を紹介させていただこうと思います。
お楽しみに!