【64. 水曜映画れびゅ~】"Being the Ricardos"~アーロン・ソーキンという狂人監督、名優たち熱演~
"Being the Ricardos"は、昨年末からAmazonプライムにて配信されているアーロン・ソーキン監督の最新作です。
今年のアカデミー賞では、主演女優賞・主演男優賞・助演男優賞の3部門にノミネートされています。
あらすじ
※日本語字幕のないトレーラーです。
1950年代のTV業界の裏側
本作のメインとなるのは、ルシル・ボールとデジ・アーナズという夫妻。
彼らは実在した人物であり、1950年代に人気を博した伝説のシットコム番組『アイ・ラブ・ルーシー』でリカード夫妻を演じたことで知られます。
本作は、そんな『アイ・ラブ・ルーシー』の舞台秘話的なお話。
アメリカ国内最高の視聴率を叩き出し続けたオバケ番組『アイ・ラブ・ルーシー』はどのように作られていたか、そして出演していたルシルとデジはどんな人物だったのか、ということが描かれています。
印象としては『Mank/マンク』(2020)を彷彿とさせましたね。
時代設定も似ていて、モノクロエンターテインメント時代のハリウッドの裏の顔を感じました。
アーロン・ソーキン
そんな本作で脚本・監督を務めたのが、アーロン・ソーキン。
もともと脚本家として有名な方で、『マネーボール』(2011)や『スティーブ・ジョブズ』(2015)などの脚本を務め、デヴィッド・フィンチャー監督とタッグを組んだ『ソーシャル・ネットワーク』(2010)では、アカデミー脚色賞を受賞しました
そして2017年公開の『モリーズ・ゲーム』からは自ら監督も務めるようになり、『シカゴ7裁判』(2020)といったアカデミー作品賞候補作も生み出しています。
そんな彼の映画作品は非常に特徴的で、映画を見ただけで「アーロン・ソーキンっぽいなぁ。」と感じるほどの癖の強さがあります。
高速ダイアローグ
まず第一にして、最も特徴的なアーロン・ソーキンのスタイルが、ダイアローグが超高速である点です。
これは専業脚本家時代の作品『ソーシャル・ネットワーク』の頃からいわれていることで、2時間映画で作る予定だった作品であるにもかかわらず、普通に作れば3時間はかかる脚本を用意し、デヴィド・フィンチャーと共謀して役者に早口でしゃべらせまくりました。
実際に、現場に自ら繰り出して、ジェシー・アイゼンバーグとアンドリュー・ガーフィールドに"TALK, TALK, TALK!"と演技指導(?)をしたりもしていました。
そんな『ソーシャル・ネットワーク』でのスタイルが、監督になっても継続されており、『モーリズ・ゲーム』なんて半端じゃいないです。
そして本作『愛すべき夫妻の秘密』も、まぁ~早口ですよ!
この高速ダイアローグは、単に「映画として適切な上映時間に則るため」という大人の事情によって編み出された苦肉の策なのかもしれませんが、私はアーロン・ソーキンの映画を見るたびに、その激流のように襲って来るセリフの応酬に何とか食らいつこうとしていくうちに、まんまと映画に没入してしまいます。
もしかすると、そういう映画体験こそがソーキンの狙いで、それにまんまと私はハマっているのかも…。
時をかけまくる!?
そして、さらなる特徴として、過去と現在をを行ったり来たりしまくります。
これもまた『ソーシャル・ネットワーク』の時から用いられている手法で、映画が始まると割と早めに、しかも急に時が飛びます。
そして何やら「現在で大きな問題が起きており、その理由は過去にありそうだ。」ということがわかってきて、その理由の解明が、過去と現在で連動して描かれるんですね。
なので、また急に現在へ戻ってきたり、過去に再び飛んだり、ホントにいったりきたりします。
しかも本作だと、現在と過去に加えて、過去を現在とした更なる過去という、三つの時間軸で話がすすめられていました。
それに加えて早口ですから、正直中盤くらいで頭の中がグッチャグチャになりました(笑)。
ただ、エンディングに向けてスッキリするようにしっかり作られており、そこらへんを綺麗にまとめられるのは「さすが、アーロン・ソーキン!」ですね。
カット多用
あと、もう一つ特徴を挙げるとしたら、非常にカットを多用する監督でもありますね。
早口に加えて、場面の切り替わりも非常に早く、そのため映画自体に疾走感があります。なので、先ほども述べたように、振り落とされないように必死で映画に食らいつこうとしていけるんですね。
ちなみに本作を含め、これまでのアーロン・ソーキン監督作品で編集を務めているのは、アラン・ボームガーテンという方で、昨年の『シカゴ7裁判』を含めてこれまで2度アカデミー編集賞にノミネートされています。
オスカー3部門ノミネートの名優たちの熱演
そんなアーロン・ソーキンの気が狂ったかのような早口演出に付き合わされたのが、超豪華俳優陣。
その演出法が功を奏したのか、今年のアカデミー賞では、本作の作品賞や脚本賞などへのノミネートはなかったにもかかわらず、俳優部門には3人ノミネートという異例の事態となっています。
ハビエル・バルデム
まず、夫のデジ・アーナズを演じたのは、ハビエル・バルデム。
『ノーカントリー』(2007)の、あの激ヤバなヤツで有名ですね。
デジ・アーナズはキューバ出身ということもあり、英語もスペイン訛り。そういうこともあって、スペイン人の彼は適役ですね。
その演技が評価され、自身4度目となるオスカーノミネーションを獲得しています。
二―コール・キッドマン
そして、主演を務め、妻のルシル・ボールを演じたのは、二―コール・キッドマンです。
これまで様々な役をこなしてきたハリウッド屈指の人気女優ですが、私にとって一番好きなニコール・キッドマンといえば『アイズ ワイド シャット』(1999)なんですよね。
このスマートで悪女っぽい感じの鋭利な演技がめっちゃ好きなんです!
ただ、最近の『スキャンダル』(2019)や『プロム』(2020)を観て、もうそういうのはやらないのかな、と思っていました。
が、しかし!
本作のニコール・キッドマンは、私が求めていたキレッキレッの演技を魅せています。
アーロン・ソーキンの早口演出と、ニコール・キッドマンが醸し出す圧倒的スターのオーラが合わさって、切れ味抜群のまくしたてる演技は圧巻でした。
ニコール・キッドマンは、本作の演技でゴールデングローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)を受賞。オスカーでも有力候補として、同カテゴリーに名を連ねています。
J.K.シモンズ
さらにもう一人、本作からオスカーノミニーが。
ルシル・ボール/デジ・アーナズ夫妻とともに『アイ・ラブ・ルーシー』に出演していたウィリアム・フローリーという俳優を演じたJ.K.シモンズです。
腑抜けた、いわばクソジジイの役なのですが、J.K.シモンズらしさ全開のいぶし銀な演技で、いい味出してましたねぇ~。
サム・ライミ版『スパイダーマン』シリーズでの編集長役を彷彿とさせるクソジジイ感が最高で、アーロン・ソーキンの早口演出とも相性抜群でしたね。
最後に
ということで今回は、アーロン・ソーキン節炸裂の『愛すべき夫妻の秘密』を紹介させていただきました。
今回紹介したアーロン・ソーキン流の映画テクを感じれるともに、ニコール・キッドマンやハビエル・バルデムなどの好演にも魅了される映画なので、Amazonプライムに加盟されておられる方は、ぜひご覧になることをオススメします。
ちなみに今回の記事で再三取り上げた『ソーシャル・ネットワーク』についてなんですが、これまでずっと続編の製作の話があります。
そのことについて昨年、アーロン・ソーキン本人は「ここ数年、FaceBookで起きたことは、語るに値するとは思う。」とコメントするとともに、もし続編を作ることになれば、「監督候補のリストは、フィンチャーの名が常に一番にある。」と語りました。
ただ、まだあくまで構想段階であり、ソーキンもフィンチャーも近年忙しそうなので、期待薄ではありますが、いつかまたソーキン×フィンチャーという悪魔的最強タッグがカムバックすることを私は願っています。
前回記事と、次回記事
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これまでの【水曜映画れびゅ~】の記事はこちらから!
来週は、シェイクスピアの4大悲劇の一つを、鬼才ジョエル・コーエンが真っ向から映画化した作品The Tragedy of Macbethを紹介する予定です。
お楽しみに!