長編小説【三寒死温】Vol.14
第二話 律儀な看護師の旦那
【第六章】「友人A」と呼んでおきましょうか
毎年受けている定期健診で見つかった私の肺にある黒い影は、精密検査の結果、ステージ4のがんであると診断された。
古希を目前に控えた私に、自覚症状と呼べるようなものは全くなかった。
それどころか、昨年の定期健診ではその予兆すら見つからなかった。
疲れやすくなり、その疲れが溜まりやすくなり、その溜まった疲れが抜け切らなくなったのは、もうずいぶん前からだ。
仕事を定年退職して日々の緊張から解き放たれた副作用か