中村 十二

栃木県生まれ、千葉県在住のおっさんです。学生時代、同級生が書いた小説のクオリティに愕然とし、自身の創作は長きにわたって封印してきましたが、四十を過ぎて子どもができ、親父として何か形に残せるものはないかなあという我欲から、再び筆を執る日々を送っています。あ、もちろん、仕事の傍らに。

中村 十二

栃木県生まれ、千葉県在住のおっさんです。学生時代、同級生が書いた小説のクオリティに愕然とし、自身の創作は長きにわたって封印してきましたが、四十を過ぎて子どもができ、親父として何か形に残せるものはないかなあという我欲から、再び筆を執る日々を送っています。あ、もちろん、仕事の傍らに。

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  • 長編小説【三寒死温】

    【note創作大賞2022/一次選考通過作】 死神から「死にゆく者の魂を癒やして欲しい」と頼まれた中年男が出会う、悲喜こもごもの人間模様。 【長編小説(中編連作)/文庫本換算:230ページ前後】

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自己紹介も兼ねて、20の質問に答えてみました。

自己紹介を書かなければ...と思っていたところ、 非常に素晴らしい企画を用意してくれている方を発見しました。 ちょっと背中がこそばゆい感じもしますが... ありがたく使わせていただきます! 1.ペンネームの由来を教えてください。 私が大好きな川崎フロンターレのレジェンド2人に由来しています。 あれはまだ結婚して間もない頃。 家から歩いて行ける距離に等々力競技場がありました。 私自身も小さい頃にサッカーをやっていたことから、 昔ながらの友人にJリーグ好きが数人おりまして

    • 選ばなかった? 選べなかった?

      遅ればせながら... note創作大賞の最終結果が発表されました。 お世辞にも「note需要」が高いとは言えない長編小説。 それにもかかわらず一次選考を通過することができたのだから、ある種の満足感はありますが... それでもやはり、最後に名前がないというのはがっかりするもので。 入賞するしないももちろんなのですが、それ以前に書評を貰えるところまで行けないもどかしさは、如何ともし難い。 それからもっと「がっかり」だったのが... 大賞:該当作品なし 久しぶりにズッコケ

      • note創作大賞一次選考

        「note創作大賞」に応募したくて始めたnote。 仕事にかこつけ、応募し終わった途端に放置状態。 やばい、やばい。まだ自己紹介すら上げていない。 そういえば「note創作大賞」っていつ発表なんだっけ? 確認のつもりで開いたら「中間発表」の文字。 応募しておきながら、 一次選考というものがあることすら知らず(汗) ありがたいことに、通過しておりました。 もしよろしければ、どうぞ。 長編ですので、気長にお楽しみください。

        • 長編小説【三寒死温】Vol.23(完)

          エピローグ(最終話) 樹齢百年は優に超えているであろう黒松の一枚板が、黒檀色の鈍い光を放っている。足元も覚束ない最低限の照明のみが灯る薄暗い空間の中、一直線に伸びているはずの境界線は闇に溶け込み、手で触れなければその存在を確認することができない。 カウンターの上では、等間隔に落ちるスポットライトの眩い光が、仄白いグラデーションの波紋を広げていた。 その中心で静かに佇む、シングル・モルトのグラス。 直径10㎝にも満たない円筒の中で煌めくアイスボールは、琥珀色の宇宙に漂う新しい

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        • 長編小説【三寒死温】
          24本

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          長編小説【三寒死温】Vol.22

          第三話 型破りな中学校教師 【第七章】任務を失敗する教師 あたしは涙が止まらなかった。 ついさっき、ひとしきり泣いて少しだけ気分がすっきりしたはずなのに。 でも、その時の涙とは意味がまったく違う。 「恐らく、この手紙が俺の家のポストに投函されたのは、去年の夏休みに入ってすぐのことだ。しかし俺は、親父の具合が悪くて様子を見に田舎に帰っていた。もちろんずっと行ったきりではなかったんだが、たまにこっちに戻って来ても、仕事や用事が済んだらまたすぐにとんぼ帰りしていた。 そのせいで

          長編小説【三寒死温】Vol.22

          長編小説【三寒死温】Vol.21

          第三話 型破りな中学校教師 【第六章】真実をしたためる従兄 しばらくの間、あたしの無言に付き合ってくれていたおじさんが、おもむろにショルダーバッグを開けた。また煙草を吸うのかしらと思っていると、彼が取り出したのは一つの封書だった。 そしてジッパーを閉めると、ぽんぽんとバッグを叩いてから言った。 「ところで、俺の友人に中学生の従妹がいるヤツがいる。そいつの話を少ししていいか?」 おじさんが発した「いとこ」というフレーズを聞いた途端に、あたしは心臓が大きく弾けるのを感じた。

          長編小説【三寒死温】Vol.21

          長編小説【三寒死温】Vol.20

          第三話 型破りな中学校教師 【第五章】煙草を投げ捨てる教師 きっかけは、本当に大したことのない些細な出来事だった。 この学校では、三年間で一度だけ、二年に進級する際にクラス替えが実施される。そこであたしは、アラタと修とは離れてしまったけれど岬とは再び同組となった。 そして新学期が始まって二か月と少しが経ち、ちょうど梅雨に入る頃、久しぶりの夏服がようやく体に馴染んできた雨の日に、その事件は起きた。 もう間もなく三時限目の授業が終わろうとしている時だった。 岬が突然、両腕で

          長編小説【三寒死温】Vol.20

          長編小説【三寒死温】Vol.19

          第三話 型破りな中学校教師 【第四章】質問に質問で返す教師 彼女が死んでから、しばらくの間はみんな大人しくしていた。 しかし、大人しくはあるものの、そこには以前とは全く違う空気が漂っていた。どこか妙にそわそわしていて、久しぶりに復活したアイドルが出演したネットテレビの話をしていても、誰も目を合わせようとはしなかった。 クラスメイトは誰も彼女のことを話題にしなかったし、教師もまた、誰も彼女のことを話題にしなかった。 目に見える唯一の変化といえば、担任が変わったことだけ。

          長編小説【三寒死温】Vol.19

          長編小説【三寒死温】Vol.18

          第三話 型破りな中学校教師 【第三章】従兄に恋をする従妹 まるで能面のようなのっぺりとした無表情を浮かべながら、色白の男が扉を開けて入ってきた。 どこを見ているのかも分からない、何を考えているのかも分からない。 見た目通りに「能面」と陰で呼ばれ、男女を問わずクラスの大半から敵視されている気味の悪い担任教師だ。 担任がすべての授業を受け持っていた小学校と違って、中学校に上がると教科ごとに担当する教師が変わるようになった。 そのため、例えば隣のクラスみたいに担任が音楽の教師だ

          長編小説【三寒死温】Vol.18

          長編小説【三寒死温】Vol.17

          第三話 型破りな中学校教師 【第二章】生徒の想像を裏切る教師 まだ五月なのに、東の空では大きな入道雲が仁王立ちしながら、西日を正面から一身に浴びていた。無機質な白い花瓶を思わせるつるりとした無数の凹凸を見ているうちに、あたしは思い出した。 そういえば、給食当番の割烹着を持っていない。 肩から斜め掛けしたダッフルバッグを開けて、手を突っ込んでみる。 もちろん、ない。 ついさっき、汗にまみれたジャージを入れたばかりなのだから分かってはいたけれど、念のために確認せずにはいられな

          長編小説【三寒死温】Vol.17

          長編小説【三寒死温】Vol.16

          第三話 型破りな中学校教師 【第一章】若作りが中途半端な教師 ほんの小さく息を吸い込んだだけで、鼻孔から気道を経て肺に至る空気の通り道がくっきりと浮かび上がる。 そんな澄んだ冷たい早朝の空気が、薄っすらと白んだ遥か西の地平線の彼方に、ぼんやりとした三角錐を描き出していた。 見えるらしいという噂は聞いていたけれど、いざ本当にこの東京から見える富士山の姿を目の当たりにすると、新鮮で少しだけ得した気分になった。 だからと言って何かが変わるわけではない。でも、見ないままで終えるよ

          長編小説【三寒死温】Vol.16

          長編小説【三寒死温】Vol.15

          第二話 律儀な看護師の旦那 【第七章】いい人、いい人、どうでもいい人 最初のうち、私は青年の顔をじっと見て話を聞いていた。 しかし、気がついた時には、目の前にある木目調のテーブルに視線を落としていた。そして真っ先に目についた黒い節の、幾重にも重なる丸い模様をじっと見つめていた。 痒みを覚えてその場所を掻いてもどうもすっきりしない、痒い場所は正しいはずなのにうまく掻くことができない、そんな内側から感じる痒みのように、全身がこそばゆい感覚に襲われていた。 私の視線や表情が変

          長編小説【三寒死温】Vol.15

          長編小説【三寒死温】Vol.14

          第二話 律儀な看護師の旦那 【第六章】「友人A」と呼んでおきましょうか 毎年受けている定期健診で見つかった私の肺にある黒い影は、精密検査の結果、ステージ4のがんであると診断された。 古希を目前に控えた私に、自覚症状と呼べるようなものは全くなかった。 それどころか、昨年の定期健診ではその予兆すら見つからなかった。 疲れやすくなり、その疲れが溜まりやすくなり、その溜まった疲れが抜け切らなくなったのは、もうずいぶん前からだ。 仕事を定年退職して日々の緊張から解き放たれた副作用か

          長編小説【三寒死温】Vol.14

          長編小説【三寒死温】Vol.13

          第二話 律儀な看護師の旦那 【第五章】溺れる者は藁をも掴む 小さなため息を吐きながら、私は紙コップに半分ほど残っていた白湯を飲んだ。味も素っ気もないが、喉の渇きは癒える。 「そうやってご自分のことを客観視できるだけでも、立派なものだと思います。それによく言うじゃないですか。自分たちの子として生まれてきて本当に幸せだったのかと不安になるけど、そう気遣ってくれる親の元に生まれてきたこと自体、子どもにとって幸せなことだって。」 あれ、ちょっと違いますかね、と言って、その青年は

          長編小説【三寒死温】Vol.13

          長編小説【三寒死温】Vol.12

          第二話 律儀な看護師の旦那 【第四章】数え上げたらキリがない それは、私に孫ができて一年ほど経ったある日のことだった。 息子夫婦の間に生まれた一人娘は、我々にとって初孫ということもあって、新しい命の誕生を私も妻も大いに喜んだ。 紆余曲折はあったものの、結果として息子夫婦は私たちの家から車で15分ほどの場所に家を購入していたおかげで、私も妻も気軽に孫の顔を見ることができた。息子の嫁さんも非常に気が利く娘で、生まれてから半年くらいでハイハイの真似事ができるようになってからは、

          長編小説【三寒死温】Vol.12

          長編小説【三寒死温】Vol.11

          第二話 律儀な看護師の旦那 【第三章】「少年A」と呟いていた 私とその青年は、食堂に整然と並べられた簡素な正方形のテーブルの一つに着いていた。それぞれの前には紙コップが置いてある。彼には緑茶を淹れたが、私は白湯だ。 「そのお子さんは、大丈夫だったのですか?」 「脳震盪を起こしただけで、怪我自体は軽傷で済んだみたいです。」 「それは何よりですね。」 その青年は小さく微笑んでから、呟くように言った。 「もしかしたら、その一年生の子をかばって、轢かれてしまったのかな?」 「え?

          長編小説【三寒死温】Vol.11