怒髪天を衝く
タイトルの言葉。
大雑把に言うと激しい怒りを抱いていることを意味する言葉。
この言葉がピッタリの人を見たことがある。
昔、肺炎で入院した時、主治医はいい加減だったけど看護師長さんはしっかりしていた。
というか怖かった。
同い年くらいの男性看護師さんが就寝の準備を確認しに来たとき、母が見舞いの時に持ってきてくれた表紙がガンダムの雑誌を見かけ、
「ユリアンさん、ガンダム好きなんですか?」
訊かれたので『はい』と答えたら、
「じゃあ、僕たち親友になれますね」
そう言って握手された。
そしたら、カーテンが開いて、
「私はね、患者さんの就寝準備を手伝えとは言ったけど、友情を深めろなんて一言も言ってないよ」
師長さんが無表情で言ってきた。
看護師さんは笑顔から怯えるような表情になり、師長さんに謝って他の患者さんの元へ行った。
今、思うと面白いこと言うなと思うけど、当時は師長さんの表情と話し方に僕もビビった。
それから数日後、就寝時間の少し前に左手を見ると打っていた点滴の管の中に赤い毛糸のようなものがあった。
ようく見てみると、
“ 血…? ”
点滴と血の水圧の関係で血液が逆流して管の中に血が混じっていた。
もしかしてと布団をめくったらシーツの3分の1くらいが血で染まっていた。
ナースコールを押して、やってきたのは今年1年目と言っていた看護師さん。
「どうしまし…」
まで言って、血の海のシーツを見て固まってしまった。
遅れてやってきた年配の看護師さんも驚いてたが点滴が逆流してることを告げると対応してくれ、新人さんはこの辺で我に返り、
「替えのシーツ持ってきます」
そう言ったのはいいけど中々、帰ってこない。
戻ってきたら手ぶらで、シーツなどのストックを置いてる場所にストックがなくベッド移動するにも満床で移動できるベッドがないと言われた。
年配の看護師さんはこの病院に入ってまだ一か月で新人さんより、この病院の知識がなかった。
シーツを外してマットだけにしましょうと言われたけど、体力的にしんどかったし、自分の血なので一晩だけだから良いですと断った。
看護師さん二人とも「それは…」と言ってたが大丈夫ですとお断りさせてもらった。
翌日、日勤の看護師さんが出勤してくると、シーツのストックの場所を教えてもらったようで「あんなシーツで一晩過ごさせてごめんなさい」と謝られた上でシーツ交換してもらった。
それで終わりと思っていたら、少しして師長さんとその後ろに夜勤の二人がやってきて、
「血まみれのシーツで一晩過ごさせてしまい大変、申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げられた。
夜勤の二人は相当、怒られたようで新人さんは目が赤くて泣いたんだろうなと分かった。
師長さんの言葉は丁寧だったけど、全身が震えていて表情が怒りに満ちていた。
僕が良いと言ったので気にしないで下さいと言ったが、
「いいえ。患者さんをこのような不衛生な状態で一晩を過ごさせたなど、ありえないことです。二人がシーツの保管場所が分からなかったのは私の教育不足です。大変、申し訳ございませんでした」
師長さんにまた頭を下げられたが言葉と表情がマッチしない。
さらに全身が震えまくっていて怒りが全身からみなぎっている。
僕に対する謝罪の気持ちは間違いないだろうけど、それより怒りが超えていた。
『僕が決めたことです。二人はそのままではダメと言ってました』
何度も繰り返し師長さんと交互に頭を下げ続けた。
最終的に師長さんが、
「今後、このようなことがないよう教育に努めます」
の一言で締めて、師長さんが体を反転させると後ろにいた二人がビクッとした。
師長さんの表情がすごかったんだと思う。
完全にビビっていた。
師長さんは看護師という仕事に誇りを持っていたんだろう。
じゃなければ、あそこまで怒らないと思う。
本気でブチギレている人は髪が逆立つというよりも、体中から湯気というのか
これはオーバーだけど、でもこれに近い怒りのオーラのようなものを感じた。
自分に怒りの矛先が来ていないのに、あそこまで怖いと感じたのはあれが初めて。
数日前に入院した病院のいい加減な先生のことを書いた時に思い出したので今日のnoteに。