初個展直前に脳梗塞になった話:入院2~3日目:ICU2~3日目
2日目リハビリが始まる
ICUは緊急患者だけなので機械音がひっきりなしに鳴っている。看護婦は冷静で優しい。朝昼晩と出るご飯は流動食ではない。
理学療法士
スマートな印象の男性だった。最初は恐る恐るだったが杞憂はいつの間にか吹き飛んだ。優しい気遣いにそんな心配はなくなった。僕の右足を踏み腰の後ろを持つのはなんとも頼もしい。それで救われる。転ばない。安心感がある。運動は胸を張り背筋を伸ばす。そんな単純な動作をこれでもかとやる。しかしこれが難しい。『あと三回』渾身の力を込めてやる。終わった時には切れ切れの声でありがとうございますと言った。思ってる事は話せば判る。でも話さないと判らない。そんな当たり前の事に気付かされる。話す事が大事なのだ。話さないとそれは無になり無かった事になる。それを話して補うのだと改めて理解する。
3日目の不安な夜
昨夜、夜通し家族の名前を呼ぶ声を聞いていた。不安なのだろう。見慣れない部屋だからだろう。家ではない場所だからだろう。悲しいし辛いけどどうしようもない。そもそも僕も歩けないので側に言って『どうしました?』なんて声もかけられない。
言語聴覚士による脳のリハビリ
気の合う担当だった。内容は【一定の法則にそって連続してる柄。空欄にはどれが入る?】といったもの。どれも難しくなかった事と判っている。しかし解けない。頭が痛い。知恵熱である。なんだかんだ考えなければ解けない。
昨日の理学療法士さんは休みなので代わりの若い方。経験値の少なさからだろうか、右膝のフォローが不足しがちだった。右足"的なもの"に重心をおいての左足の足踏み。今度は左足の大股。右足"的なもの"の軸で大きく踏み出す。『あっ!』とフラついた。補助が間に合ったが笑いあいながらもやはり若さを感じた。
MRI検査
看護士総出でベッドの移動。ベッドごと移動して専用の部屋に向かう。入口すぐの放射線技師から20分程かかると言われる。体重は何㎏ですか?と質問される。お面の様なものを被せられる。目線に鏡が付いている。電磁波が強いので鉄は持ち込まない様に言われる。刺青などは入ってませんか?と聞かれる。インクに含まれる鉄分で火傷するらしい。今は火傷防止のインクもあるのかもしれないが。ウィンウィン。ピーピー。ドンドン。長い。この長さと調子のままに100円、200円、300円、と頭の中に代金を追加する。目線の鏡には足元が見える。その向こうのスタッフの影。左手に握るのは気持ち悪い時のブザー。目の前の鏡にスタッフがやってくるのが見える。終わりだ。長かった。ベッドに移る。体重は何のためだろう。このベッドのためだろうか?いや違うだろうな。
体温。血糖値。酸素濃度。時間のため看護婦が入れ替わる。夕食。せっかくなので毎食動画に撮ろうと思った。しかし蓋を開けてもらって食事が目の前に飛び込んで来たら思わず食指が動き食べてしまった。食べてる途中に動画を撮る。
pm19:00 聞こえる声
隣と隔てるカーテンの向こうから聞こえる声は昨日の家族を呼ぶ声と被る。ただ距離感が全く判らない。隣なのか、その奥からか。カーテンで仕切られているが教室の半分の様な広さだと思う。どこかから、か細い『看護婦さぁん』の声。その時、これまたどこかからから『鳴らしなさいよ』の声。ん?なんだ?何事だ?なんだろう。どうしたのだろう?多分性格キツメの人がやんわり(ナースコールの存在を)教えてるのだろう。
お尻の右側の肉で知る
マズイ感触がない。どうしよう。あぁこの先オムツなのか。恐々と左尻を揉む。あぁ良かった右と同じ感触だ。こうして右左確かめていく人生なんだろうなと、この時は本気でそう思ってた。よし。心拍数上げない程度に、血圧上げない程度にリハビリしよう。
遠くで『ンンンン~コォヮ』という声とも音とも言えないなにかが聞こえる。どこからだろう。何だろう。カーテン越しに見える世界は唯一の世界。チラっと見える世界は唯一の世界。
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