【推薦本】『非常識セラピー』はいいぞ


 この本はいい。
 最近もまた読み返したのだけど、やっぱりいい本だなあ、としみじみ思ったのでおすすめ記事を書いてみる。
 見てのとおりサイコセラピー(心理療法)についての本で、著者自身もセラピストのベテランである。
 とはいえ著者の方法論はかなり独特で、自身は「挑発的セラピー」などと呼んでおり、本書は読者に対して心の処方箋を提示するとともに、従来のセラピスト業界への厳しい批判も孕んでいる。

 では、その批判とはなにか。
 それは、一言でいえば「無駄に深掘りして治療を長引かせる」ことにある、とまとめることが出来るだろう。
 治療が長引けばそれだけセラピストは患者=顧客を確保することができるし、患者にしても、あなたの抱えている問題は非常に複雑で…とああでもこうでもないとあたかもマッサージのようにやさしく解きほぐし、じっくり耳を傾けてくれることはたいへん心地よいので、win-winの関係が成立している。だが実際に治療の役にはまったく立っていないというわけだ。
 治療は効果がなければ意味がない。「私はもちろんお金も欲しいが、それ以上に名医でありたいのだ」(大意)と著者はいう。そのためには、従来のやり方を根本的に改めなければならない。

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 著者の主張する「挑発的セラピー」についてひとことで説明するのは難しいが、本書に豊富な事例が紹介されているので具体的には読んでもらうとして、ここで述べるなら「むりやり深掘りせず、表面的な部分を表面的に扱う」ということになる。
 とくにフロイト流の精神分析は幼少期や成長過程のトラウマなどを重視し、欧米のセラピスト業界は多かれ少なかれその影響下にあるが、著者に云わせれば「過去の出来事は、現在の状況によって説明されるにすぎない」。いまあなたが苦しんでいるとしたら、原因を過去にではなく、現在に求めるべきなのだ。
 これは「現在の気分が過去を再構成する」という心理学の知見とも一致する。「わたしほどひどい人生を歩んできた者はいない」と思う人は、最近事業に失敗したとか、恋人を失ったとか、癌が見つかったといったことが原因だったりする。逆にたまらなく人生が幸福の連続に思えて仕方ない時も、直近で何かあった可能性が高い。

 他にも本書はさまざまな主張を含む。
 たとえばマイナス感情を排除する傾向の行きすぎにも警鐘を鳴らしている。たしかにポジティブであろうとするのは結構なことだが、怒りも悲しみも罪悪感も、もともとは生きるために必要な感情である。そういう感情がまったくない隣人というのを想像してみればわかるだろう。まともに生活出来そうにもないし、お近づきにもなりたくない。

 最後に云うと、この本はめちゃくちゃ簡潔な文章で書かれているので、あまり本を読むのが得意でないという人にもお薦めしたい。
 なんのかんの云って小難しいんちゃうん? と疑うかも知れないがそんなことはない。少なくとも、この記事が読める人にはこの本は読めるはずだ。

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 さてお薦めを長々と書いても逆効果かも知れないのでこのへんにしておくが、もう一つだけ。
 この本に書かれているさまざまな主張にすべて賛同する必要はない。
 
むしろ、考えるとっかかりを与えてくれるものだと捉えたほうがいいだろう。なにぶん刺激的な逆説が多いので、さすがにちょっとそれは極論ではないかと思えてくる部分もあるが、セラピー業界で常識とされてきたことと著者の批判を付き合わせて、あなたが判断すればよい。
 まあ僕は、このての刺激的な逆説が大好きなので(ジジェクが好きなのと同じ理由だ)大半の主張には首肯しましたけどね。

 そんなわけで、もし読んだらまた感想聞かせてくださいね(・ω・)ノ📘

 


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