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最近観た映画「浅草キッド」

兎にも角にも劇団ひとり監督の「ビートたけし愛」に溢れた良作でした。

数多いる「たけし軍団」とか自称弟子の中からこの作品を作れる人が現れず、遠巻きに「殿の背中」を追い続けた言わば「勝手弟子」が、「師匠の芸の源流」である「師弟の関係性」を描ききったところにも皮肉な面白さがある。

大泉洋の深見師匠に、柳楽優弥のビートたけしが神がかり的に良かった事に加え、脇を固める鈴木保奈美、門脇麦、ナイツ土屋、各氏の本当に名演にして熱演が素晴らしかった。

特に「たけしの盟友」井上役の中島歩は、ピリついた感じのある柳楽たけしに対して、ややノンビリとして鷹揚な雰囲気がよく、猫背で小柄と長身で痩せぎすの見た目の取り合わせも好対照で、キレキレの柳楽優弥の演技をやんわりと受け止めていて、すごい役者さん連れてきたなぁと感心した。

生温い師弟ごっこではなく「芸」を通じたヒリヒリした緊張感のある関係性でありながら、根底には深い愛情と信頼があるという複雑極まりない師弟の絆を、会話の「間」だけで伝えてしまう柳楽&大泉両氏の演技は、本当に特筆すべき見事さだし、細かい説明を省きながらも本質をきっちりと描いてきた脚本も本当に素晴らしいと思った。

さらにタケがタップを夢中になって練習し、少しずつ上達していく場面は、「ロッキー」とか「ベストキッド」の様な往年のハリウッド映画を思わせる演出で、個人的にはツボだった。

終盤の、師匠との和解と行きつけの店での「最後のステージ」からの、一筋の希望と満足感を感じつつの師匠の哀しい最期の流れも、悲喜の感情の緩急が効いていて…あの描き方ならば、おそらく心のどこかに後悔の念を抱いているであろう殿も幾許か救われるんじゃないか?と思った。

オープニングとエンディングで現在の「ビートたけし」を登場させたり、複雑な人間関係や解りにくいエピソードを省く事で初見の観客に向けての間口を広げつつ、原作のやや抽象的で詩的な風味を活かした上で、小ネタもちょこちょこ挟むという完璧すぎる作品を作りあげた「劇団ひとり監督」はやっぱり天才的だなぁと。

唐突にカメオ出演してたcreepy nutsも笑った。DJ松永は本物の工員に見えたし、ターンテーブルじゃなくて旋盤かなんかの機械回してんのか?と思ったらシャレが効いてて可笑しいし、暗くなってくシーンで少し息抜きさせるバランス感覚はやっぱり見事だと思う。

これを観るためだけにNetflix加入する価値があると思う作品。「ビートたけし」に詳しくない、興味がない方も是非観てほしい。余計な知識無しで充分楽しめると思う。

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