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読書録63 山﨑努著「俳優」の肩ごしに

「履歴書」というには異端なのである。

まず、自分から半歩離れ「山﨑の努」の肩ごしの目線から全てが語られていくのが面白い。自身を神の目線から見下ろすのではなく、「肩ごし」から見ていくから身体と心がどこか繋がっていて、言わば「幽体離脱」的な感じが生々しくて良かった。

そして時系列に従って起きた出来事を箇条書きのように並べていくような形式には囚われず、一応時系列に沿ってはいるが、山﨑さんとこの努くんにとって印象的だった出来事達が、キラキラと星座のように並んでいるような構成なのも良かった。

仕事やプライベートの様々なエピソードを、努くんの肩ごしから一緒に覗きこんでいるような気分で一気に読んだというか、喫茶店の隣の席で他人の話を聴いているような不思議な感覚で楽しんだ。

僕の大好きな「念仏の鉄」にもイメージが活かされているというか「努くんの俳優業の原点」ではないかとまで回想される、幼少期の「橋のたもとで見た狂人」のエピソードがかなり印象的だった。

「狂人=俗世のルールから自由」「橋のたもと=河原」かつて芸能の仕事に就いた人々は河原に小屋掛けして芝居をしたりし「河原乞食」と呼ばれていた事、と次々に連想が繋がって、幼い努くんは狂人になりすました「芸能の神」と邂逅していたんじゃないか?と妄想してしまった。

兎にも角にも、「俳優 山﨑努」を感じられる素晴らしい作品でした。


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