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葛藤のロケ弁当。

僕はテレビ番組制作会社で働いている。

とはいえ、敏腕には程遠いポンコツDだ。

運の良さだけで生き残っているようなものである。

この仕事の楽しみといえば、おいしいロケ弁が食べられることだろう。

『オーベルジーヌ』『金兵衛』『鳥久』。

どれも超おいしいのである。

つい数ヶ月前のお話。

収録現場に『ミート矢澤』のお弁当が出た。

知る人ぞ知る、高級弁当である。

元々テレビっ子なので存在は知っていた。

その昔、『ロンハー』に出ていた谷澤恵里香さんが

「ミート矢澤!」

とイジられ、

「いや、『キン肉マン』出てないですよ!」

と返していたが、見当違いである。

それ、ミート君じゃないんですよ。

恥ずかしくて見てられなかった。

ウチはお金のある番組ではないので、一年に一度しか頼めない。

そんな『ミート矢澤』のお弁当が出たのである。

テンション爆上がりだ。

早速、収録前のスタッフ控え室へとお弁当を持っていく。

「最高級黒毛和牛専門店」と書かれたフタをオープン!

そうそう、これだよこれこれ!

ステーキだけじゃなくてハンバーグもあるんだよね。

「ありがてぇ…」と言いながら、わしわしと食べる僕。

そこでふと、新人の男の子が目に入った。

別の打ち合わせのため、たまたま現場に来たそうだ。

当然、彼の分の弁当は無い。

うーん、と悩む。

というのも、去年このお弁当が出たとき、別の後輩男子に一口あげたのだ。

そのときは彼に、

「おっ、『ミート矢澤』ですか!次に僕が担当する回は別の豪華弁当が出るって聞きました。楽しみだなぁ」

と言われたのである。

そうそう、この後輩も別の打ち合わせで来ていたんだっけな。

だからお弁当は用意されていない。

これが自分のお金で買った物ならば独り占めしただろう。

でも別にロケ弁である。

番組側が払ってくれているのだ。

なら別にいいか。

そしてなにより、彼には愛嬌というか可愛げがあったのである。

だから僕も、

「食え!」

と言ってステーキとご飯を「あーん」した。

「おいしいです!!」

と返してくれたので、今度はハンバーグも「あーん」した。

めちゃくちゃ遠慮されたが関係ない。

僕は口に放り込んだ。

すると彼は、

「うわぁ、こんな先輩になろう!!」

と言ってくれたのである(きっと本人は覚えていないだろう)。

すっかり気を良くしちゃうよね。そんなこと言われると。

その後輩は新たな夢のために会社を辞めていったが、

いつか僕と同じような先輩ムーヴをしてほしいものである。

さて、話を戻そう。

「新人の男の子にあげるかあげないか」である。

一応、真ん中のおいしい部分を残しながらステーキを食べる僕。

あげようかあげまいか…。

今回も自分のお金ではない。番組のお金だ。

そして新人さんなのである。

この業界へ夢を持って入ってきたのだ。

そんな彼においしい弁当を食べさせてあげる。

これが先輩の役割ではなかろうか。

しかも去年似たようなことをやっているのである。

だったら今年もやるべきだ。

しかし、すんごい悩む僕。

というのも、

その新人さん、絶望的に愛嬌が無いのだ。

こっちの意見だけだと、「話を盛りすぎでは?」と思うかもしれない。

でも、実際に会えば分かる。

絶望的に無いのだ。愛嬌が。

なんだったら、「あ、ほんとですね。すみません」と言わせる自信がある。

僕自身、見るに見かねて

「お前、あいさつしないし、お礼が言えないし、『ごめんなさい』も言えないって、社会人である前に人としてどうなのよ!?」

とブチギレたことがあるくらいだ。

そんなヤツに『ミート矢澤』は早くないか?

彼にあげるには、もったいなくないか??

去年の後輩は投資の意味も兼ねて一口あげたけど、今年はドブに捨てるようなもんじゃないか???

「愛嬌は無いけど仕事ができます!」ってタイプでもないし…。

葛藤が生まれ、自然と食べるペースが遅くなる。

すると、新人さんが席を外した。

僕は思わず、横にいた後輩女子に事情を説明。

「あげたくないって思うなら、あげなくていいんじゃないですか」

と言われた。そのとおりである。

「だよな!そう思うよな!!」

と返し、ゆっくり食べるのをやめた。

なんというかこう、「ふさわしくない」のである。

「あげたい!!」って思えないのである。

器の小さい話かもしれないが、僕はこういう人間なのだ。

そんなわけで、戻ってきた新人さんを横目に

「最高にうめぇなぁ!選ばれし者にしか食べられない味がするよ!!」

と言いながら頬張る。

最後はご飯とステーキとハンバーグを同時に口に放り込んだ。

永遠と咀嚼していたかったくらいである。

あぁ、今年もおいしかった『ミート矢澤』。

優越感もあって、より一層おいしかった。

おかげで収録も頑張れました。

来年は、一口あげるにふさわしい後輩が出てきますように。

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