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宗教や信仰についての雑記 #328

◯「うつ病リアリズム」と「自己認識の歪み」

「うつ病リアリズム」という考え方と、うつ病の「自己認識の歪み」との矛盾について触れました。
以前の投稿(#324)で、うつ病リアリズムとは、うつ病の人々が、健康な人々よりも現実をより正確に把握しているという考え方とのことであり、この考え方はうつ病のすべての側面を説明できるわけでなく、その複雑な側面の一端を捉えた理論のようです、と書きました。

ではなぜ、うつ病にはそのような「複雑な側面の一端」が現れるのでしょう。
おそらくそれは、うつ病でない「健常」な人間の自己認識は、実はニュートラルなものではなく、うつ病とはやや逆の方向に偏ったものだからなのかもしれません。
そこには認知バイアスが関わっているのだと思います。

認知バイアスとは、物事の判断が、直感やこれまでの経験にもとづく先入観によって非合理的になる心理現象のことで、一般に広く観られるものだそうです。そしてこれには、様々な種類があるとのことです。
その内、今回の自己認識に関わる認知バイアスには、以下のようなものがあるようです。
・自己奉仕バイアス: 成功は自分の能力のおかげ、失敗は周りのせいだと考える傾向。
・優越錯覚: 自分は平均的な人よりも優れていると過大評価する傾向。
・虚偽の合意効果: 自分の意見や価値観が、周りの人にも広く共有されていると過大評価する傾向。
・確証バイアス: 自分の考えを裏付ける情報ばかりに注目し、反対の意見や証拠を無視する傾向。
・後見の明バイアス: 事後的に見ると、起こった出来事が最初から予測できたように感じてしまう傾向。
・正常性バイアス“ 危険な状況でも、自分に悪いことは起こらないと思い込む傾向。
・ダニング・クルーガー効果: ある分野の知識や能力が低い人が、自分の能力を過大評価してしまう傾向。

おそらく、うつ病による自己肯定感の低下は、これらの認知バイアスの影響を打ち消してしまうため、この面においては健康な人々よりも現実をより正確に把握できるのでしょう。
ただそれも程度問題で、自己肯定感の低下がさらに進めば自己認識は歪んでしまうのでしょう。

見方を変えればニュートラルよりも自己肯定の方向にやや傾いた認識を持たなければ生きてゆけない、そういう認識を持つことが進化の過程で生存に有利だったからこそ、今もなお認知バイアスが広く観られるということなのでしょう。

我々が今生きている社会の基準や規範は、そんなニュートラルではない認識のもとに定められたものであるということ、うつ病リアリズムはそのことをを伝えるメッセージ、あるいはアラートなのかもしれません。
そしてこのことは、うつ病リアリズムが個人の内的経験だけでなく、社会構造や価値観とも深く結びついていることを示唆していて、社会がより多様な価値観を認めることの重要性を教えてくれる考え方でもあるようです。

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