一次独立について

ベクトルを習ったことがある人なら誰もが

OAベクトルとOBベクトルが一次独立なので
係数を比較して...

という文章を書いたことがあると思う。

私が久しぶりにベクトルの授業をしたときに
なぜこれでいいのだろう?とふと疑問に思ったのでまとめてみたい。

まずいくつかの定義から

ベクトルの記号は太文字で書くべきだがここでは$${v_i}$$で表す。
またA,Bはm×n行列と思う。
さらにKは体と思う。(K=ℝと考えても良い)

まず一次関係について。

def(一次関係)
ベクトル$${v_1,v_2,...v_n}$$が
$${c_1v_1+c_2v_2+...+c_nv_n=0}$$
(ただし$${c_i\in K}$$)
を満たすとき、これをベクトル$${v_1,v_2,...v_n}$$の一次関係という。

次に一次独立について。

def(一次独立)
ベクトル$${v_1,v_2,...v_n}$$が自明でない一次関係を持たないとき、一次独立といい、
そうでないとき、一次従属という。

また次の定理にも注意する。

thm
ベクトル$${v_1,v_2,...v_m}$$は一次独立とする。
ベクトル$${(v_1,v_2,...v_m)A=(v_1,v_2,...,v_m)B}$$
ならばA=B

証明は移項して一次独立であることを用いれば良いので省略。

さて、この最後の定理から冒頭に述べた「係数比較」が成立する。
私は基底であることまでいう必要があるのかなと思っていたのだがそこまでは必要なかった。

なお高校で扱う平面ベクトルで二つの一次独立なベクトルがあればそれらは基底である。

これは以下の定理より従う。

その前に準備を。

Vはベクトル空間とする。
(例えばV=ℝ^2=ℝ×ℝと思う)

このときベクトル$${v_1,v_2,...v_n}$$がVを生成するとは、Vの任意の元がベクトル$${v_1,v_2,...v_n}$$の一次結合(線型結合)で書けること。

そしてベクトル空間Vのベクトル$${v_1,v_2,...v_n}$$が
(a)一次独立で(b)Vを生成するとき
Vの基底という。

基底(の次元)がwell-definedであることなどは省略。
(基底の取り方は無数にあるが、個数は一定)

個数が一定だからその個数をVの次元という。

さて、
ここまで準備して本命の定理を

thm
dim(V)=nとする。(dimは次元のこと)
Vのn個のベクトル$${v_1,v_2,...v_n}$$について
(a)Vの基底である。(b)一次独立である。(c)Vを生成する。
この3つは全て同値。

証明は(b)と(c)が同値を言えば良い。
ここでは省略する。

平面ベクトルではV=ℝ^2なのでn=2
よって一次独立なものが2つあれば上の定理から基底でもあるとわかる。

基底であるということはOAベクトル、OBベクトルを(ある意味)軸と思うような平面も書けるというのが斜交平面にも繋がってくる...

ここまで抽象的な議論だったので具体例というか噛み砕いたものを。

まず一次独立は平面の場合は簡単で、
0ベクトルでなくて、平行でもない。
という書き方もできる。

これは比較的イメージしやすいと思う。
上で定義した一次独立とちゃんと整合性が取れているのか?という話だがもちろん取れている。
簡単に確認できるのでここでは省略。そしてそのとき基底になっていることも簡単に分かる。

イメージとしてUFOキャッチャーを考えてもらうと良いと思う。
横に進むボタンと縦に進むボタンがあって、
それらを使うことでどこへでも動かすことができる。(平面で考えて)
それが生成することのイメージ。

あとがき的な

ここでは私自身の復習の意味を込めて書いている節があるので分かりずらいところもあるとは思いますがご了承ください。
また零空間などを考えていないところもありますが、一応平面ベクトルを考えているのでそこら辺は一旦考えてません。

高校数学でここまで教える必要があるとは微塵も思わないがなんとなく「一次独立だから」と書いて「はい、丸ね」は勿体無い気もした。

最後にこの一次独立、一次従属を用いる命題を一つ紹介する。

Prop
(体の拡大F/Kについて)有限拡大は代数拡大。

有限拡大なので[F:K]=n<∞で、
任意の$${α\in F}$$について、
$${1,α,α^2,...,α^n}$$は一次従属であるから代数拡大。

参考文献

線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ
(培風館,2021年,三宅敏恒)
4章 ベクトル空間(P63〜P86)

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