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ジョン・アーヴィング『ホテル・ニューハンプシャー』

2ヶ月ほどまえにジョン・アーヴィングの『あの川のほとりで』を読み、すぐに『オウエンに祈りを』を読みました。おもしろくて、感動でき、衝撃的なエピソードの連続なのにそれが結末へ繋がっていき読みやすい小説にはまってしまった感じです。それで次は『ホテル・ニューハンプシャー』を図書館で借りてきました。何の前情報もありません、有名な小説なので題名は聞いたことがある程度です。

訳者あとがきにもありますが、ジョン・アーヴィングが『ホテル・ニューハンプシャー』についておとぎ話しだと語っているとあります。たしかに「ステイト・オ・メイン」から「アール」と名前が変わっていく熊を飼っているかとおもったら、飼い犬のソローは死亡したあと剥製にされて飼い続けられ、とどめはスージとうい女性がぬいぐるみをきて熊になりきっているのです。

題名にある『ホテル・ニューハンプシャー』が舞台になっています。ただしホテルというのは名ばかりで、変わった人たちが集まってくる合宿所のような感じです。ニューハンプシャー州のトンプソン女学院の寮を改装した第1次ホテル・ニューハンプシャー、ウィーンのガストハウス・フロイトを改名した第2次ホテル・ニューハンプシャーそしてメイン州にあるアーバスノット・バイ・ザ・シーを改装した第3次ホテル・ニューハンプシャーと移っていきます。主人公家族の父親ウィンスロー・ベリーは野望のみで突き進む人間のため、3棟ものホテルを経営していくことになります。彼は経営者としての能力はまったくないですが、投資の能力と言うか運があるところが面白い箇所でもあります。

住む場所が移っていくにつれて成長していく、家族の姿が描かれています。面白いのは語り手の次男ジョンがまったく成長していかないところです、変わったのはバーベルを持ち上げて筋肉が付いていくところくらいです。次女のリリーは小説家になり、多額の契約金を得て家族を養います。長男フランクはリリーの代理人をはじめ能力を発揮します。長女のフラニーはレイプ被害者となり、そのことを引きずって生きていきます。最後にはそれを克服して女優として大成します。物語最後に彼女がレイプ犯チッパー・ダブをやっつけるところ、家族と友人でつくった演劇でチッパー・ダブを震え上がらせるシーンは最高に楽しいです。ジョンは最後まで変わりません、ですが彼を中心して騒動が起きていきます。物語の軸となる人物なのです。

当時、世の中でタブーとされているようなことが、特に問題のないことのように描かれているのも特徴です。長男のフランクは同性愛者だし、フラニーとジョンは兄弟でありながら惹かれ合っています、そしてレイプ被害者をたすけるような行動も見て取れます。いまでも被害者がなぜか悪者にするような輩がいるのに、当時としては画期的なのかもしれません。ジョンがフラニーも告白をするシーンは感動しました。

こんどばかりは、フラニーは返すことばもないようだった。ぼくは彼女の手を取り、彼女は強く握り返した。
『愛してるよ』二人だけになったとき、彼女は言った、二人だけになったりしてはいけなかったのだが。『すごく申し訳ないと思っている』ぼくはつぶやいた。『だけど、ぼくは姉さんを愛しているんだ。ものすごく。』

オペラ座の一夜 シェラークオーバースと血

こう書くとなんともないのですが、ウィーンのオペラ座爆破騒動の後なので感動したのかもしれません。

同性愛者のフランクをホモと表現したり、ウィーンの売春婦の描写からなんか古臭い印象を受けました。30年以上前の小説なので仕方ないのかもしれません。しかし作者がおとぎ話だといったように、ホテル・ニューハンプシャーに関わる変人たちのおもしろエピソードを夢心地で読むことが出来た小説でした。

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