読書感想文「海辺のカフカ」村上春樹

えっと…長い…です。
書くはずの感想は山ほどあるようで、何もない。

これが村上春樹作品か…。
村上春樹先生の作品を読むのはこれが初めてだったが、もっと短いのから入るべきだっただろう。

オイディプスの神話を下敷きに、物語は展開していくのだが、何らかの解決に向かうでもなく、悲劇に向かうでもなく。アンニュイ感じのラスト。

有名な過去の文学作品や、哲学、戯曲、クラシック音楽や当時の現代音楽、その他商品名に代表される固有名詞が登場しては、次から次へと物語の中で消化されていく。

余りの冗長さに、これは何かの雑誌や新聞の連載物として書かれた文章なのではないかと疑ってしまったが、どうやらそうではないらしい。
今の気持ちのまま、実直な感想を何とか書いてみよう。


固有結界「春樹ワールド」

優しい御姉様との性交渉。
SEX中の哲学論議。
寓話では無いと言いつつも、現実離れ。
あちらとこちらを結ぶ森。
圧倒的春樹ワールドが展開する。

言いたいことは分かる。
春樹先生が学生運動の時代を経て空虚な時代を生き、生きる意味も自分の存在価値も失い、「空っぽ」の先駆けとして生きてきたのはよーく伝わる。

壮大な現実逃避とそうせざるを得なかった時代を反映しているのもよーくわかる。その流れが現代までつながり、私も田村カフカ君の抱いた感覚には親近感を覚える。

が、だ。だがしかしだ。
「わかる気がする」のに、のらりくらり、ひらひらと曖昧でどうとでも捉えられる文章に、苛立ちも覚える。

曖昧なままで済まそうとするのは分かる。仮説は仮説のまま、佐伯さんが本当に母だったのか。さくらさんは姉だったのか。まぁそんなことはどうでもいい。そういう気がしたならそういう様に考えて、救われようが、使命感を持とうが、美しい思い出として仕舞っておこうがどうでもいい。

しかし全体から醸し出される、「選択させられている」「最初から決まっている」という春樹先生の人生の諦め感を、何かの文学の引用や、預言的な登場人物(ジョニー・ウォーカーやカーネル・サンダース)に託して、物語の推進力としているのが、「寓話ではない」と言っておきながら、滅茶苦茶寓話仕立てにしているのが納得いかない。

個人的にジョニー・ウォーカーやカーネル・サンダースのような登場人物のシーンを見ていて、『うる星やつら』劇場版アニメの「ビューティフル・ドリーマー」の「夢邪鬼」を思い出した。

うる星やつらの映画は所謂ループものではあるのだが、哲学的な内容を話す狂言回しの夢邪鬼のイメージが、作中のジョニー・ウォーカーやカーネル・サンダースにぴったり重なる。

海辺のカフカの作中における神託的な物を授けるポジションな訳だが、こいつらはなんやねん。と。
ナカタさんや星野青年の元に彼らは現れるが、これらは人間の潜在意識の表出でもなければ、単なる物語のストーリーの辻褄を合わせるための符号にしかなっていない。

なんか…村上春樹ってこういう感じなんや…そんでええんやみんな…
って感想を持ってしまった。

登場人物の大半は内に引きこもりがちなキャラクターばかりだ。
さくらと星野青年くらいが数少ない清涼剤だ。

森が特徴的な場所として設定されており、外界と内的な世界とを分ける境目となっている。あちらとこちら、彼岸と此岸、生と死。そういったものの境目でもある。

兎にも角にも森に生き、風の歌を聞いて、自分を探そうとする。自分らしさをみつけようとする。自然な自分に戻ろうとする。

まぁそういうのも分かる。
ストレスが溜まりまくったとき、誰にも会わず、誰ともコンタクトを取らず、人目に付かないところに生き、自分を見つめ直したい。

そこまでは理解する。私もそうする。
でも、カフカ君は何か確信を得てこちら側に帰ってこない。

仮説の母の記憶を受動的に受け取り、忘れないことで、生きる糧を得たと言えばそうかもしれないが、ちっとも前向きになってはいない。

まぁ実際そんなもんかもしれないけど、フワフワしてんだよなぁ。
結論はそれぞれの心の中に~という、ことでよろしいのかもしれないが、主張が伝わってこない。

主張なんてないんだ。
我々の世代はこんな雰囲気で生きてるんだ。
ということなら、はぁそうですか…あえてその路線なんですね…
って感じ。

なんか文句ばっかり言ってるなぁ…

最後に

物語中に必要のないように思える要素が多いと思うのは、おそらく一貫した主張があると思って読んでしまったからなのだろう。

こんなに長くても主張が無いのが主張という物語もあるという意味では貴重な読書体験だった。

登場人物の気持ちは分かる。うだうだ考えちゃう面倒臭い奴らの思考も理解できる。が、いかんせん、長くて面白くない。

やっぱり警戒していただけあって、村上春樹作品はかなりの曲者でした。
次のしりとりで強制エンカウントとして出会うまで、村上春樹作品はなるべくならご遠慮したい気分でございます。

次に読む本→「海辺のカフカ」→「か」→「神の悪手」芦沢央

パキッとした内容っぽいので、村上春樹病から直ぐに復活できそうだ

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