見出し画像

The New Yorkerで最近読んだ短編フィクション: 新たな作家との出会いの場

 The New Yorkerを初めて手に取ったのは高校生のとき。「日本のメディアとは切り口の違う記事が多くていいですよ」と当時の先生におすすめされたThe Japan Timesを目当てに、放課後、地元の図書館の洋雑誌・新聞コーナーに通うようになったのがきっかけ。学校近くの県立図書館は、これから世に出ていく子どもたちにとって、素晴らしい出会いの場であったように思う。The Japan Times、The  Economist、National Geographic、TIME、Nature、Science、Cell、現代化学、化学と生物、その他日本の学会誌などなど、あの時期をきっかけに見るようになったメディアの多いこと!
 その中でも、The New Yorkerはずっと大好きな文芸誌で、よくバックナンバーを借りては通学バスの中でじっくり時間をかけて読んでいた。やっとの思いでDan Brownの"Inferno"を読み切ったりしていた頃だったので、理解できないことは多いし、知らない単語ばかりだし、一つの記事を読み終えるのに随分時間がかかった。それでも楽しく読めたのは、毎週1つは掲載される短編フィクションや詩が、長編小説の合間に読むのにちょうど良かったからだろう。

当時、地元の書店で買ったInfernoとThe Da Vinci Code. とにかく読みやすいし面白い。
Dan Brownほど洋書の入り口に適した作家もそういないと思う。

 読む前から何となく名前だけは知っていたので、The New Yorkerといえばなんだか世界的な文芸誌で…著名な作家は大体エッセイやら作品やらが掲載されていて…と、当時の自分はちょっとお堅いものを想像していた。カバーもかっこいい感じだし、かっこいい雑誌なのだろう…と考えて手に取った矢先、そこそこしょーもないネタのCartoonにぶち当たり、笑かしにくるネタを至極丁寧に煮詰めたShorts & Murmursの連載に打ち砕かれ、「あ、なんか思ったより気軽に読んでいいのかも…」と思い直したりした。時事問題に対する掘り下げや魅力的でボリューミーなドキュメンタリー、そして現代文学の最先端、というだけでなく、ユーモアを本気で大切にしているのもいいとこですよね。ちなみに、iPad版The New Yorker AppにはCartoon専用タブが存在するので、キャプション(ボケ)がついた一コマCartoonを永遠にスクロールし続けることができます。終わりはありません。

 これはShorts & Murmurの最近のお気に入り。ちょうど履歴書を書くのに悩んでいた時期に見て嬉しくなった。

 今週の一本はこれ。タイトルからして出オチ感がすごいですが、こういうネタを丁寧に丁寧に煮詰めるのがこのコーナーの味なので…。

最近読んで面白かったフィクション: 知らない作家との出会い問題の解決に


 文芸誌を購読することの最大の魅力の一つに、これまで知らなかった作家との出会い、がある。私は好きな作家の本を片っ端から読む「作家買い」タイプなので、ランダムな出会いによる好きな作家探しは日々の読書のために必須。そういうわけで、色々な作家さんの短編小説やエッセイが毎週掲載されるThe New Yorkerの購読は、私のお気に入り作家発掘作業を支えるインフラと化している。本屋でのジャケ買い(表紙買い)より確実に作風や文体を知ることができ、かつ短い読み物なので時間を取らない…。ここでは、最近読んで面白かった短編フィクションを紹介しようと思う。

 幼少期の知らないご近所さんへの緊張とか、特別な記憶とか、古き時代のものが損なわれていくことの寂しさとか。幼い日の記憶を辿るような感覚がものすごく鮮明に、それでいて朧げに表現されていてすごく良かった。

 これも幼少期の記憶を辿るような話。どうしようもない家族関係を許すこと、どこにも行けないような息苦しさのなかで生きている高潔な人がいたこと。そして家族でさえもその美しさに気づかなかったりすること。本当に善人であることって、と考えさせられる短編。

 こちらは打って変わって、人生の終わりと不貞の話。葬式を含む短編って大好きなんですが、亡くなった人の体と、その体がそばにいる感覚の描写がすごく印象的で良かった。そこに重ねて描かれる不倫をする生者の醜さとか、物静かな性格の女性の怒りとか。

 うおおお挿絵のアートワーク最高!!と思って読んだら、本編はもっと最高だった。"Spider"なる、蜘蛛のような何か、が視界に映り込むようになった男の話。正体不明の"Spider"が、あくまで三人称視点で間接的に描かれることで恐ろしさが増して感じられる。実体のなさが不気味なホラーかと思いきや、意外な展開に。

 会話文に""を使わない文体は最近の作家さんに多い。有名なところではSally Rooneyとか。しかしこの作品は""の省略だけでなく、会話している人物や場面の切り替わりもぼかして描写する特徴的な手法を用いていて面白かった。ナレーターは頭の中であれこれ考え続けるタイプの人で、まさに頭の中でのランダムな追想と現在の体験とが溶け合った表現、という感じ。人物が切り替わっているのを文脈で判断するこの感覚、どこかで覚えが…と思ったら、日本の古典文学かも。

 しかし、こうもポンポンと好きな作家ができてしまうと本棚のスペースが…というのも本の虫の悩みでしょう。そういう状態をサポート…はしてくれないけど、そういう記事もありますので、ご安心を。

 本ってすくすく育つ金魚と同じで、本棚のスペースだけ蔵書数がデカくなるし、かといって本棚を増設したらその分また増えますよね。何でだろう。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?