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令和ロマンという業績にまで唾を吐くな

(喧嘩腰のタイトルになってしまったが、別にそこまでキレているわけではない。)

令和ロマン(くるまのみ)が珍しい方向で世間を騒がせている。

私はこの件に関してわざわざnoteに書いてまで思うことは無いのでこの記事で何か書くことはないが、問題があった時期が彼がよくネガティブな思い出として語ることの多いコロナ禍であったことは、少し思うところがある。

ただ、本当に一部であるが、令和ロマンのM-1グランプリ2連覇まで落とすようなコメントを見かけると一M-1ファンとしてなんだか悲しくなってしまったので、彼らのため、というよりは自分のためにこの文章を書いてみたいと思う。
(しかし、ヤフコメを見ていると他の芸人やスポーツ選手の同様の問題よりコメント欄が擁護寄りなように見受けられる。やはりヤフコメには令和ロマンファンが多いのだろうか。)





令和ロマンの二連覇について改めて考えてみている。

令和ロマンの凄さの一つは、「代表作がないこと」だと考える。
他のM-1ファイナリスト達には、人によって若干異なることはあるが、これが一番笑ったという代表作が存在する。
ミルクボーイの「コーンフレーク」、さや香の「免許返納」、霜降り明星の「豪華客船」など。

しかし令和ロマンに関してはどれが一番の名作かと言われると分からない。
M-1 2024決勝1本目の「名字」を答える人もいるだろうし、2本目の「タイムスリップ」が好きな人もいるだろうし、同年のABCお笑いグランプリ決勝1本目の「猫の島」が一番という人もいるかもしれない。

大抵のM-1ファイナリストには、1年をかけて仕上げてきた「勝負ネタ」というものが存在する。
寄席やライブで披露したネタの中からウケがいいものを見つけ、反応が弱かった箇所を改良していき1本の勝負ネタを作り上げる。

2018年M-1王者の霜降り明星は、

粗品『…で、「来年はちょっと気合い入れなあかんな」ってことで、年明けて1月か2月の単独ライブで新ネタを6本か8本くらいしてん。「今年はこのうちのどれか1本にしよう」って決めてて、その中に「豪華客船」があってんな。』

くるま『1月の時点で!』

粗品『あのネタを最初にやったとき、「日付変更線で遊ぶな!」ってボケとツッコミで拍手笑いをもらったんよ。「これはもしかしたらM-1の決め手になるかもな」ってことで、じゃあ「豪華客船」を毎月やろう、と。でも入り口だけ「豪華客船」っていいよねって振って、中身のボケは全変えやねん。普段のライブで2~3回同じボケをやってみて「これはよかった」「これはあかんかった」ってまとめていったのをまた単独でやって。下半期になるともう8割ぐらいできてたから、あとは「ホテルのバイキング」とか「ダンスパーティー」とか、全部「豪華客船」に入れられる設定で新ネタをつくって「ダンスパーティーはよかったから入れよう」みたいなことを繰り返して、1本の勝負ネタをつくったっていう経緯やな。』

これは霜降り明星がM-1優勝を見据えていたからこそのかなり特殊な例とも言えるが、ここまで一本のネタに賭けることは無くとも、M-1に挑む大抵の漫才師たちは、予選までの時間でネタを試し、観客の反応を見ながら、最大でも二つ程度の名作ネタを作り上げるというセオリーがあると考えられる。


しかし、「勝負ネタ」は流れに弱い。
一年をかけて作り上げた勝負ネタを直前で大きく変更することは出来ず、勝負ネタの用意が何本もあることは稀である。
これは自分の出番前のネタが同系統のネタであった場合や、あるいは自分たちのネタの強みを食ってしまうようなネタであった場合、致命傷になりかねない。

そして、運や流れの要素を制してM-1王者になったとしても、もう一度王者になれるとは限らない。(現に二連覇は令和ロマンしか達成していない。)
基本的に過去のM-1王者には自分たちの「色」が存在する。
錦鯉のおじいちゃん感、霜降り明星のあのツッコミ、ミルクボーイの完璧なシステム…。
それらは彼らの漫才を代表するいわば専売特許のようなものである。
この特許を取得することのメリットは他の芸人との差別化を図れること、これは裏を返すと、かなりの犠牲を払わない限り、もう今後その「色」を持ってして漫才をすることを意味する。
この「色」はより独自性があればあるほど、初見殺しであり、2回目以降に弱い。
ミルクボーイの「コーンフレーク」やバッテリィズの「偉人の名言」を最初に見た時の衝撃をもう一度味わうことはかなり難しい。
必然的に、過去の優勝ネタとの比較になってしまうのだ。そしてそれは、もう噛んでしまったガムに等しい。


前置きが長くなってしまったが、令和ロマンにはこれといった勝負ネタがない。
これは彼らがどのような構成で、どのようなワード感で、どのような設定で客が笑うか、というところを分析した上で、それらを自由に組み合わせてネタを作れるからこそ出来ることである。
これは彼らの頭の中だけにあるいわばノーコードツールのようなものであって、その仕組みを観客が垣間見ることはできない。

そして、さらに驚異的であるのは、その日のネタの流れや観客の様子を見て、ネタを直前に変えられる柔軟性である。

令和ロマンはM-1グランプリ2024準決勝当日に行った、最速現場レポート生配信において以下のように話している。

近年の、コロナなってからの準決ってなんかどっちかというと割とやっぱハッピーなところ、分かりやすいところ、動きがあるところ、まぁ超分かりやすく言ったら男ブラさんのあの音符のネタとか、ロングさんのマラソンとかやっぱ代表的なバカウケネタだと思うんですけど、ダンビラさんの去年のカラオケとか。こっちで俺らの準決のネタをわりと調整じゃないんだけど、そっちなんだろうなみたいな感じで用意してたの。
まぁ結構いっぱい作った中で、そっち側寄りになんとなくチューニングしとけば、後はちょいちょい入れ替えればいいだろうと思ったら、なんか違くねってなって。
なんかこれ、2017とか18とか19とか、俺らが1、2年目とかの空気じゃねってなって。
(中略)
そもそもグループの人が減って、バラバラで来てることによって、逆に一体感とかもないんだけど、ウケるとこウケてドンといくみたいな。一ボケがウケたら全部ウケるみたいな感じじゃない。一ボケがウケたらなんでもありではない。なんか昔の感じっていう感じを受けた。ネタをちゃんと見てる、一ボケ一ボケをちゃんと見てるみたいな感じを感じて、実際自分が出た時もどこ見ても男性が多かったし、かなり多かったよね。もう本当に視界に男性しか映らなかった。
(中略)
ここ(Cブロック途中)でちょっとやばいと、やばみ。この配信あるけれども、ちょっとやばみと思っちゃったんです。やばい、我々のネタちょっと修正しないと間に合わないかもしれない、ちょっと緊急緊急緊急ってなってしまって、
(中略)
すいません、こっから先、見れてませんでした。

【緊急】M-1グランプリ2024準決勝、最速現場レポート生配信【令和ロマン】



M-1 2024準決勝において彼らのネタ順はDブロックトリ前であった。それを、彼らの話によると、観客のウケ方が想定と違うということに気づき、Cブロック途中でネタを修正したということである。

これはあまりに尋常ではない。
観客の様子からどの方向にネタを修正するべきか分析できるところも見事であるが、この話から推測するに、動きが多めであった箇所を恐らくセリフを詰め込むような形に大幅に変更したということであると考えられる。
それをやるだけの度胸と、その直前の変更にぶっつけ本番で対応できるツッコミのプレイヤー力が同時に揃ってこそ出来る芸当である。


このように令和ロマンは、まずネタ作りからかなり異彩を放つ上に、直前でネタの内容まで変えられる柔軟性を持ち合わせているため、ますます「勝負ネタ」というものが存在しないし、もっと特筆すべきなのは、しゃべくり漫才か漫才コントなのかすらも決まっていないという点だ。

かなり踏み込んで言及するならば、令和ロマンは「M-1はしゃべくり漫才と漫才コントの2本をどちらも高クオリティで披露すれば優勝できる大会」だということを示してしまった。
他の漫才師が1本目と2本目で同系統の漫才を披露する以上、審査員は彼らの2本の漫才をどうしても比較してしまう。そして、最終決戦の3組→1組より、ファーストラウンドの10組→3組の方により強い勝負ネタを持ってくる傾向にあるため、どうしても2本目は1本目に比べて弱く見えてしまう。


令和ロマンはその比較さえ超越してしまった。
これは彼らが喋りの技術も演技力もどちらも持ち合わせているからこそ出来ることであり、誰でも簡単に出来ることではない。しかし、彼らはM-1という20年続いたゲームの攻略法を世に知らしめてしまったのである。




これからのM-1はきっと難しい。
毎年M-1が放送される度に、去年と比べてどうだったか?2019と比べてどうだったか?という過去大会と比べる論争がネットで巻き起こる。
それらは、その年の上位ネタと過去大会の上位ネタを比べるものである。
ここで、あの漫才師がもう一回出ていたらどうだったか?という疑問が生じることはあまりない。
これはM-1の視聴者が過去のM-1ファイナリスト達の名作ネタをもう知っていて、それらが時間に守られていることを知っているからである。

しかし、令和ロマンの場合は、比較対象はネタでなく、人になる。
令和ロマンが持つ技術はこの先もきっと衰えることはなく、彼らはM-1を卒業させられた存在であって、本来であればあと9年も出場することは出来るからだ。


彼らがもう一度出ていたらどうだったか?
今年の優勝者は本当に優勝できていたか?


彼らを超越する漫才師が現れた時、また新たなM-1が始まるかもしれない。
そして願わくば、彼らがまた目を輝かせて臨めるような新たな漫才の大会が出来ることが、個人的な望みである。

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三日月まるぴ。
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