🎬ルックバック　感想

すべての創作者とそれを受け取る人に対する今を生きる人生賛歌。


私に一番刺さったキーワードは「最初のファン」という言葉でした。

藤野はずーっと学校新聞に4コママンガを描いているので、本当の「最初の読者」は学校じゅうの生徒や先生、父兄です。
そして、藤野は自分より画力の高い京本の絵を見てライバル視し、そして自分のマンガに自信を失い、いったんはマンガから離れます。

私が最初に心を動かされたのは、引きこもりの京本の家で初めて藤野と京本が出会い、藤野の予想とは真逆で京本が「藤野先生」と藤野のマンガを心から愛し、藤野を尊敬している描写でした。
確かに京本はその後藤野のパートナー・共同執筆者となりますが、ラストの悲劇をきっかけに藤野が知る京本の存在とは、やはり最初に出会ったときと同じ最後まで藤野の「最初のファン」であったように思います。

藤野が見る亡くなった京本の部屋のすべての描写が愛おしい。

「なぜ描くのか？」
これはすべての創作物に置き換えることが可能だと思います。
簡単な言葉での答えなどない内面的自己承認欲求。
自分の創作物が今ここにあっていいという存在意義。
そして、それを証明してくれている創作物の受け手の存在。
そこには創作者の自分の創作物に対する実はとても不安定な心理がベースとしてあるのですが、自分の作品を愛してくれている人の存在が、創作者にとって自分という"人間"が受け止めてもらえていること、そして自分の存在が承認されているということの証明として描かれているように思いました。

藤野と京本の関係性の描写は、二人の女性の友情物語の側面も当然あり、そこに意味を見出すことも映画の一つの見方としてありだと思います。
しかし私はあえて藤野と京本の描写は、創作者と創作者が決して忘れることのできない「最初のファン」との関係を象徴的に可視化したもののように思って観ました。

京本と初めて会い、自分の存在がここにあっていいこと、マンガを描いていいことを認められた藤野の雨の田舎道での、この映画の尺の中で決して短いとは言えない描写の持つ意味の重さにはやはり心揺さぶれました。
「最初のファン」とは、初めてマンガを描く創作者としての自分を認めてくれた最初の人だと思うと藤野の描写が決して大げさなものではない、自己肯定感をはっきりとしたカタチで受け取った人の言いようのない喜びにあふれた描写であったと解釈できると思いました。
これは創作者に限らずすべての人が、自分の存在を承認された、ここにいていいと誰かに認められた瞬間を描いているとも思えます。
名シーン。

マルチバースと言えるラストでの藤野と京本との4コママンガでのやり取りですが、私はやはり藤野の世界が現実で、京本からやってきた4コママンガは、別の世界に京本が生きていることを信じたいと願う藤野の心が起こした不思議な出来事としてとらえました。
(京本の描いたとされる4コママンガの画風は、藤野と共同執筆をしていた過去があったとはいえ、明らかに小学生時代の藤野の画風に思えました。ただ、「背中を見て」のメッセージには京本の藤野への強い意思が感じられ、そこには不思議な力が働いたとしか思えません)

藤野が亡くなった京本の部屋で見る「背中」…
あれはもう反則です。
泣くしかないじゃないですか。

すべての創作者とその作品を愛し作品から勇気をもらい今を必死に生きるすべての人の人生…。
底知れぬ悲しみがありながらも今を生きるすべての人の生きることと、ここに存在できることのすばらしさ、その全部を肯定しようとした愛おしすぎる映画。
傑作。

オールタイムベスト入り。


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