見出し画像

『インハンド』第5話 紐倉の過去と真相と向き合う勇気

簡単なあらすじ(ネタバレ有り)

紐倉の過去にあったこと。それは、助手だった入谷の自殺。断片的に思い出されるのは、「I hate you」という言葉。紐倉は、はっきり思い出せないことで、入谷を自殺に追い込んだのは自分だと思い込み、入谷との最期の会話も思い出せなかった。そして、高家が助手に来てから痛みが酷くなったことで、出て行けと言われ、高家は言われた通り、荷物を持って出て行ってしまう。

紐倉の元上司の福山が有名企業の社長だという情報を掴んだ牧野は、高家とともに福山の元に行く。そこで語られたのは、紐倉と入谷の過去だった。入谷は免疫系の病気であるクローン病だったこと。フィリピンでの活動のこと。

紐倉は以前、フィリピンで感染症研究活動を行なっていた。入谷とも信頼関係ができており、入谷は、紐倉がのちに世界を救うと信じていた。
そこで、7歳の少女マリアがアジアで発症することはない”エボラウイルス”の感染を発見する。すぐにアメリカのCDC(アメリカ疾病予防管理センター)に連絡すると、翌日にはアメリカ陸軍が到着し、軍の指示のもと、他の感染者と感染源を調べる。

紐倉は、アメリカから翌日にフィリピンにやってきた行動の速さに違和感を覚える。”エボラ”が発症するかを知っていたかのように。

感染源を調べて行くと、ジャングルの奥で、アメリカ軍の飛行機事故を発見する。そこにあったのは、”エボラウイルス”で、生物兵器として開発していたのかも知れないと、紐倉は推察する。村に戻ると、マリアは亡くなっていた。何としても助けたかった入谷は、CDCから撤退命令が出るが、入谷は残るという。紐倉は冷静に、「今の俺たちには何もできない」と諭すが、正義感の強い入谷は、「見殺しにする気か!?今できることをしよう!」と、せめて”病原体”を持ち帰って研究しようと言う。それは危険なことで、紐倉は「感情の奴隷にはなるな」と言うと、「感情がなければ人間じゃない」と言い返すも、冷静さを取り戻し、紐倉の言うことを聞く。

アメリカに戻って研究をしていると、紐倉にメールが届く。それは、フィリピンの島の現状だった。マリアとの思い出の写真。そして、遺体を焼き払う軍人の姿が映し出されていた。そこに、示し合わせたかのように陸軍の隊長が現れ、入谷の様子を尋ねる。話を合わせる紐倉だったが、最後に「その後島はどうなりましたか?」と聞くと、「多少の感染者を出したが、元通りになった。」それが軍の答えだった。

入谷が狙われていると察した紐倉は、入谷の研究室に行く。島の写真が送られてきたことを話すと、「やはりお前が言っていたように、軍が開発していた、感染力も殺傷力も高いウイルスだったようだ。」と入谷が答え、”病原体”を持ち帰っていたことがわかった。軍が勘付いていると知らせると、軍は既に建物を包囲し、入谷に迫っていた。

入谷は部屋を飛び出し、紐倉も追いかけると、そこは屋上で、至る所に軍人が配備され、銃で狙っていた。逃げられないと悟った入谷は、あえて英語で紐倉に話しかけ、ケンカを装い「I hate you」と言い終えて飛び降りる。なんとか掴む紐倉だったが、その瞬間、紐倉の腕が撃たれ、入谷は落ちてしまった。

それが、入谷が自殺し、紐倉の右腕が失われた真相だった。

福山は、高家に質問する。
「君はなぜあんな偏屈な男の助手をしているんだ?」
「俺も、あいつが世界を救うって信じてるからです。」

と答える高家。福山は、入谷の遺品を預かっており、高家はそれを持ち帰る。

入谷が死ぬ間際までつけていたノートには、紐倉への思いと、悲劇が書かれていた。”病原体”を持ち帰って、ワクチンを研究している時、誤って針を自分の手に刺してしまい、エボラに感染してしまったこと。軍に狙われて、身を投げようとしたのも、先がないからだった。死を前にして、できる限りのことをしてノートに記し、紐倉に託したのだ。その最後のページに書かれていたのは、

「紐倉晢の助手でよかった。
 晢、ありがとう。」

紐倉は、高家が持ち帰ったノートを読み、記憶が抜け落ちていた入谷との最期の会話も、同じ言葉を言っていた。紐倉も、「君がいないと何もできない!君がパートナーだ!」と言っていたことも、紐倉への感謝の言葉も、全て思い出した。そして、やっと悲しみを感じ、涙を流すのだった。

えさやりの仕事に行っていた高家を呼び戻し、

      「僕は一人では何もできない。君は優秀な助手であり仲間だ。
       これからもよろしく頼む」

と、犬に向かって言う紐倉だったが、それが精一杯の照れ隠しだった。

過去編で明らかになった真相

今回は、主人公紐倉晢の過去の真相の話であり、第1章の締めくくりというような回でした。
いつもは、中心になる人物がいて、紐倉の語る言葉や行動が注目されていましたが、今回は、紐倉自身が中心となり、義手になった真相と、紐倉がなぜCDCを追われ、パスポートも発行できないのかなど、多くの伏線が回収される回となりました。

偏屈で人を寄せ付けない所は、昔からそうだったことと、入谷との真相が思い出せないことで、紐倉がなぜこういう人間なのかということがわかりました。

記憶が欠落して、思い出せないことの方が辛い

紐倉は、入谷が死ぬ直前のことを思い出せず、PTSDになっていたことで、失った腕の痛みを脳が引き起こしていたのですが、記憶が欠落していたことで、自分が入谷を自殺に追いやったのかもしれないと思っていたわけです。入谷が紐倉をどう思っていたのかも、紐倉が入谷をどう思っていたのかもわかった今では、「そんなはずない」と思えますが、PTSDではなくても、記憶とは曖昧なもので、知らないうちに過去を決めつけてしまうことがあるのではないでしょうか?

良く言えば「思い出補正」、悪く言えば「被害妄想」と言えるかもしれません。そして、真相を知ることは必ずしも良いことだとは限りませんが、紐倉のように、記憶が欠落することで、大切な友人の死を悲しむことすらできない。むしろ、自分が自殺に追いやったと思い込んでしまうことは、苦しみ以外の何物でもないでしょう。

人間は弱い生き物で、強く生きる生き物

人は、痛みを和らげるために、アドレナリンが出たりしますが、自分の身や心を守るために、嘘をついたり、自分を騙したり、妄想したり、逃げたり、人格を乖離させたりすることもあります。何より、命を守る為には仕方のないことです。しかし、それは一時のものです。「逃げるは恥だが役に立つ」と言いますが、逃げ続けていいとは言いません。一時的に苦しみは誤魔化せても、麻酔が切れたら痛みは蘇ります。紐倉の場合は、その痛みの理由がわからず苦しんでいました。何よりの苦しみは、友への思い、友の気持ちを思い出せなかったことでしょう。

紐倉が知った真相は、悪いものではなかったですが、思い出せない以上、真相と向き合えないことは、辛いことです。ただ、入谷の遺品があったにも関わらず、受け取りを拒否していたのは、紐倉が「逃げて」いたからでしょう。そう言う意味では、人間は一人では生きられないように、誰かのお節介や愛によって背中を押され、助けられることがあるのでしょうね。

きっと誰も、見たくないものや向き合いたくないものが、外にも自分の中にもあると思いますが、いずれ向き合う時がきます。その時に、勇気を出して向き合うことが必要になります。その真相は、決して良いものとは限りませんが、「人生において必要なもの」なのは、間違いありません。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?