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「愛」という“概念”について考えるー愛の本質は心の中の“誓い”にあったー

はじめに

「愛すること」について考える際、行動としての愛に注目するのは自然な流れです。しかし、「愛とは何か?」という本質的な問いについて考えることはあまりないのではないでしょうか。
愛の本質を深く掘り下げることで、私たちは愛の背後にある哲学や心理学の知恵に触れることができるかもしれません。
今回は、愛を「誓い」として捉え、その成長過程や人間関係への影響について探求します。この旅を通じて、愛が私たちの価値観や生き方にどのように関わっているのか、一緒に考えていきましょう。

1. 恋と愛の違い:感情から誓いへ

まず、愛を理解するためには、恋との違いを明確にするとわかりやすいです。

エーリッヒ・フロム(1956)は、著書『愛するということ』において、愛を「与えること」と定義し、自己の成熟を示すものだと述べており、恋については、「愛とは異なり、自己中心的な欲求や情熱に基づくことが多い」としています(フロム.(1956))。

加えて、スタンバーグ(1986)の「愛の三角理論」によると、愛は「親密性」「情熱」「コミットメント」の3要素から成り立つとしています。恋はこの中でも特に「情熱」に重点を置いた関係であり、愛はこれらの要素がバランスよく組み合わさったものと定義されます
スタンバーグは、「恋は短期的な情熱に過ぎない場合が多いが、愛は時間をかけて育まれる安定した関係である」と指摘しています(Sternberg, 1986, p. 119)。

最近の文献を見てみると、哲学者の苫野一徳氏は、「愛は、一度わたしたちの理性を通して吟味されずにはいられない、きわめて『理念性』の高い概念である。つまり愛は、情念であると同時に1つの理念でもあるのだ。」と述べており、愛を「情念」であると同時に「理念」として捉え、感情と理性の両面から愛の本質を捉えています

心理学的研究においても、恋はドキドキや高揚感を伴う一方、愛は安心感や信頼感をもたらすとされており、恋と愛は感情の深さや持続性、相手への関与の度合いなどで区別しています(150の心理教育. (2022))。

したがって、恋は「好き」という情熱に基づき、瞬間的で本能的な側面が強いものです。特に、恋には自己中心的な欲求が色濃く反映され、状況によっては感情の揺れに大きく左右されます
例えば、「蛙化現象」のように、恋の対象が突然「嫌い」になることもあります。これは恋が感情的な興奮に支配されやすいことを示しています。

一方、愛は「好き」という感情だけでなく、「嫌い」や「無関心」さえも包み込む安心感や信頼感をもたらす理性的な振る舞いとして存在します。愛は相手のすべてを受け入れる広い心を持ち、信頼や尊敬といった深い感情を伴います。

以上のことから私は、愛とは極めて理念性の高いものであり、我々が理解する「誓い」という言葉に最も近いものだと考えます。


2-1. 愛が誓いへと昇華する過程

愛は倫理的行動の基盤としても重要視されています。マックス・シェーラー(1974)は、愛を「低い価値から高い価値への運動」と捉え、人間の価値判断や倫理的行動において中心的な役割を果たすと主張しています。

また、プラトンの『饗宴』における「エロースの梯子」は、愛が肉体的な魅力から始まり、精神的な結びつきへと昇華する過程を示しています。この過程は以下の段階で構成されます。

第一段階: 特定の美しい身体への欲求から始まる。これは、初対面で相手の外見に惹かれる感覚に相当します。

第二段階:全ての美しい身体への愛へと広がる。個々の美から普遍的な美への関心が高まります。

第三段階: 魂の美や行動の美、さらには知識や真理の美への愛へ昇華する。外見を超えて、内面的な美や知的な価値を追求する段階です。

最終段階: 普遍的な「美そのもの」に至る。これは、愛が最高の形である「誓い」へと昇華することを意味します。 

2-2. プラトンの愛の昇華を身近な話で例えると

ここで、プラトンの愛の段階的な成長をわかりやすく身近な友人関係に例えてみましょう。

1. 知り合う
• 共通の趣味や活動を通じて友人として出会う。

2. 相手のことをもっと知りたいと思う
• 興味や好奇心が芽生え、関係を深めたいと思う。

3. 仲が良くなる
• 信頼関係が築かれ、友情が育まれる。

4. 自分に恋人ができる
• 新たな関係性が始まり、優先順位が変化する。

5. 友達と遊ぶ頻度が少なくなる
• 恋愛の時間が増え、友情の時間が減る。

6. 恋人に振られる
• 恋愛関係が終わり、喪失感を味わう。

7. 悲しみに打ちひしがれる
• 失恋の痛みを感じ、感情的な苦しみを経験する。

8. 友達が助けてくれる
• 友情が再び支えとなり、相手の大切さに気づく。

9. 友達がかけがえのない人だと感じる
• 友情が深まることで、愛として昇華される。

このように、一時的な好意や感情の揺れから始まった関係性は、相手を思いやり、尊重し、支える行動を通じて深まり、最終的に「誓い」としての形を成し始めます。

このプロセスを経て、愛は一時的な感情から永続的な誓い(理念)へと深化するのではないでしょうか。


3. 愛は誓いである(筆者の結論)

愛とは、一時的な感情や欲求を超え、相手の成長と幸福を願う持続的なコミットメント、すなわち「誓い」であると考えます。

エーリッヒ・フロムの言葉を借りれば、「愛とは、愛する者の生命と成長を積極的に気にかけること」であり、この定義は愛が誓いとしての性質を持つことを端的に表しているのではないでしょうか。

愛の始まりは、多くの場合、仲良くなりたい、一緒にいたいという一時的な好意から始まります。

しかし、相手との関係性が深まる中で、単なる好意は「大切にしたいから大切にする」という覚悟へと変わり、最終的には自己の信念として確立されます。これは、愛が自己を超えた理念として成長する過程を示しています。

一方で、愛は必ずしも容易ではありません。時には愛が拒絶されることや、相手に理解されないこともあるでしょう。

そのような状況に直面したとき、愛が誓いとしての性質を発揮します。

たとえ、拒絶や困難があったとしても、相手を大切にしようとする意志が根底にある限り、それは愛を続ける理由となります。そして、その過程で直面する葛藤や痛みは、自己成長のきっかけとなります

フロムが述べるように、愛は誰もが実践を通じて身につけられる技術であり、挑戦を通じて磨き上げていくものです。

さらに、愛は全てのものに宿る可能性を秘めています。それは相手と真剣に向き合い、相手を知ろうとする中で心の繋がりを成長させることで深まります

一時的な嫌悪や誤解があったとしても、「これは自分の誤解かもしれない」と一歩立ち止まって内省することで、相手との関係性を見直すチャンスが生まれ、愛とは、こうした深い心の結びつきを目指し、それを形にしていく行為でもあると考えます。

このように、愛は単なる感情の発露ではなく、行動や意志を伴う理念的な存在です。それは相手の幸福を願うだけでなく、自分自身を成長させる力を持っています。

そして、愛の誓いを持ち続けることで、愛は形を成し、私たちの人間関係や生き方に深く根付いていくのではないでしょうか。


4. 読者への問いかけ

ここまでお読みいただきありがとうございました。
愛の定義は十人十色あると思いますが、愛について問いかける場面があったときには、ぜひ今回のことを思い出してみてください。
今回の記事が何かしらのヒントになれば幸いです。
あなたにとっての大切な人との深い結び付きが成就することを心より願っております。


6. 次回への問いかけ

次回は、「愛と自由の関係」について考察してみましょう。愛することは自由を制限することなのでしょうか?それとも、真の自由を実現する手段なのでしょうか?一緒に探求していきましょう。


参考文献

◆フロム, E. (1956). 『愛するということ』. Harper & Row.
◆Sternberg, R. J. (1986). A triangular theory of love. Psychological Review, 93(2), 119-135.
◆シェーラー, M. (1974). 『倫理学体系』. 東京: 白水社.
◆150の心理教育. (2022). 愛と恋の違いとは何なのか 【心理学的な5つの説明】.
Retrieved from https://motose-shinrishi.com/blog-entry-42.html
◆苫野一徳. (2019). 愛は情念であり理念でもある。現代ビジネス.  
https://gendai.media/articles/-/66745

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