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裏のハローワーク「交渉・実践編」 感想

Audible版『裏のハローワーク「交渉・実践編」 』 | 草下シンヤ | Audible.co.jp

はじめに


前作に引き続き、裏の職業事情について解説した本。

今作は特に一般的な生活でも使えるような交渉テクニックについて深堀している。

本書の冒頭でいきなり著者が取材対象のヤクザを「ヤクザ」と呼んでしまった(実際はヤクザにそう仕向けられた)ためにいきなり逆切れされ、内心違和感を感じつつも、しどろもどろになり相手のペースに巻き込まれてしまう。
ヤクザ曰く「任侠」と呼べとのこと。

これはつまり、相手の非礼を強引に指摘し、自分の立場(そもそもヤクザはヤクザと呼ばれるような社会的に蔑まされる存在である)を無視し、ストローマンで相手をやりこめるテクニックを猫だましで著者に体験させたのである。

ヤクザはこのように「いきなり」「相手の弱みを握り」「自分の要望を相手に強要する」
ことで生計を立てていると。

確かに上記の出来事を体験するのが一番理解しやすい方法である。

上述の例から分かるように、相手に負い目というデバフを与えることで、自分の意見を通すことが出来るという裏技的交渉テクニックを学ぶことが出来る。

例:メンヘラが”構ってくれないから”という理由で自傷行為、浮気行為をし、それらの行為を正当化、パートナーが自分の我がままを聞き入れるまで、被害者の立場で、一方的にパートナーの落ち度(客観的に実際に落ち度があるかは関係ない)を指摘し支配する。

例2:クレームを入れる際に、自分に落ち度がある場合でも、相手側の落ち度だけを一方的に避難し、ごねる事で、何らかの利益を得る。

この相手に負い目を負わせるというのは麻雀やポーカーでいう勝負から降ろすテクニックにも通ずる物がある。

相手が十分に恐怖したとき、こちらの手札の強さ(実際に可能な追い込み手段)によらず、相手が降参するのである。

相手の実行可能な行動範囲=射程を知っていればある程度駆け引きが可能。
例えば、恐喝などに巻き込まれた場合は単純に警察を嚙ませることで裏稼業者はリスクとリターンに見合わないということを悟り、諦めることもある。
正し、ヤクザ者の面子がかかっている場合は別。
舐められたら(ブラフで利益を得られなくなったら)終わりなので、自己に対する恐怖のイメージを保つために最後まで行く可能性も無くはない。

裏カジノでのインディアンポーカーの試合の例で相手に不利な行動をさせる駆け引きを学べる。


 インディアンポーカーとは、自分の額に一枚トランプカードを当て、自分以外のカードが全部見える状態で、自分のカードの大小で勝ち負けを決めるゲームです。自分のカードが見えない状態であるがゆえに、自分が強いカードでか弱いカードかは、他のプレイヤーの様子を良く観察して判断しなければなりません。したがって、人間観察力、状況判断力などが問われる非常にシビアなゲームであるといえます。

出典


この試合で取材対象のギャンブラーは”ワザ”と相手に分かるように相手の手札にが5以下の場合に自分のカードの縁を撫でるという癖を見せつけた。

自分のカードの数字を確かめるためには互いが降りず、勝負しなければならない。

相手はその癖が本物か確かめるために、本来なら確率的に相手にとって不利な状況でも無理をして、勝負に持ち込んだ。
癖をワザと作っている側は好きなタイミングでその癖を止めることが出来る。

こうして、癖の暗示によって、相手にとって不利な勝負の回数を意図的に増やし、相手が不利な手で多数勝負しているので、総合的に負けるという確率的に当たり前の状況まで持ち込み、取材対象者のギャンブラーは勝利を得た。

上記の例は人工知能(Deep lerning)の過学習によるノイズに似ている。
相手にワザと行動の”癖”を学習させることで、相手にとって不利な行動を誘導し、勝負に勝つ。

勝負事に関わる者にとっては非常に興味深い内容である。

また恋愛にもよく使われている。

例:ある対象に興味を持たれている状態で思わせぶりな態度をする。
「○○さんと一緒にいるとすぐに時間が過ぎてしまう」 「○○さんって面白い」「○○さん見たいな人に会ったの初めて」

など対象を特別扱いすることで、対象は何故自分を特別扱いするのか?
あれ、「こいつひょっとして俺(あたし)のこと好きなんじゃね?」と感じ、相手の思惑を確かめずには居られなくなり、気付かないうちに手玉に取られる。

上述の例は営業にも使える。

主導権を握り続ける事の重要性を教えてくれるしつこいシノギのやり方。


ある会社にタカリのシノギを狙いに行った者が、その会社のクレーム担当の者に尋常でない勢いの謝罪を受け、面喰い、初陣は退散してしまう。

相手から「こちらの封筒でどうか丸く収めていただけないでしょうか?」と言わせたいからである。

仮に「いくら払えるんだ?」といった恐喝扱いの言葉を使ってしまうと、それを言質に警察を呼ばれてしまう。

しかし、このエピソードで特筆すべき点は、一度面くらい退散したにも関わらず、また何度もその会社へタカリに行った点である。

もちろんクレーム担当の者はまた同じ勢いで謝罪を繰り返したのだが、同じことを何度も、しかも毎回1時間ほど続けていたので、謝罪のし過ぎで憔悴してしまう。

結果的に7回目のタカリの来訪でクレーム担当者がギブアップ。

封筒を包みタカリに渡してしまった。

この例は相手に”無駄な行動を取らせ、疲弊させる”という点で、上述のインディアンポーカーと非常に構造が似ている。

また、意図的に癖を見せたり見せなかったりする選択権がある=主導権があるインディアンポーカーのギャンブラーと同様に、こちらのタカリも、タカリに行くタイミング、タカリを諦める選択権も握っている。

対して、クレーム担当者は、担当者である以上絶対に法で許される範囲内のクレームに対しては応対しないといけないという義務がある。

また、次はいつタカリに来るのか?いつまでこんなことをやり続けるのか?というプレッシャーも凄まじかったことであろう。

もしも仮にタカリが10回連日でクレームに来るが、以降諦めるということを担当者が知っていた場合、あるいは自らタカリの出先に向かい、10回だけ何が何でも謝罪をしつづけ、相手に諦めてもらうという行動が可能であった場合

10回タカリとの問答を頑張って耐えるという選択肢を選ぶこともできたはずだ。

この例ではタカリの方が連日の謝罪に怖気ずき、結果は逆転していたかもしれない。

しかしながら、結果はクレーム担当者がこの件で主導権を握れていなかったので、先の見えない不安、疲弊から勝負を諦め、降りてしまった。
上述の例は生産性に乏しいタカリであるが、生産的な事柄にも応用できる。

例:ある目標に対し、決して諦めず行動し続ける。

つまり、諦める or 諦めないという選択肢の主導権を握っているのは、その選択肢を持つ当事者なので、目標を諦めない限り主導権を持ち続ける(間接的に結果を支配)ことが出来る。

もちろん、上記のような使用例は”悪用厳禁である”

まとめ


武道を護身術として学ぶように、犯罪行為、サイコパス、ソシオパスからの自衛手段、あるいは単純な好奇心から本書を読むことをおすすめ。
単純ながらも思わず唸ってしまう人心操作術が解説されている。

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