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2016年10月10日 13:35
「説明が難しいのですが、夢の製造業とでも云いましょうか。夢をお作りして、お客様に提供するのが、私の仕事です」 「夢…ですか?」僕は呆気に取られてしまった。 一体、男は何か冗談のつもりで言ったのだろうか。だとすれば、少々失礼な話という気もする。僕は真剣に男に問いかけたのに。 「そう夢なのです」男は例の感じのよい微笑みを口元に浮かべて、僕のほうへ振り向いた。 「現代人は忙し
2016年10月2日 11:51
男は云った。「どちらまで行かれますか? もし方角が同じなら同乗させていただきたいのですが」 男の声はどちらかというと高く、少し女性的な響きがした。そのやわらかな声の調子には、人の気を許させるところがあった。 「D町2丁目まで行きます。こんなに遅い時間では、次のタクシーを待つのも大変でしょうし、同乗してもらって構いませんよ」 「ありがとうございます。D町方面は、ちょうど通り道なん
2016年9月26日 00:40
夜の0時半。Y駅着の最終電車を降りると、滝のように激しい雨が地面を打っていた。 Y駅発の最終バスはもう出た後だった。僕はぐらぐらと揺れる視界で、何度も目を擦りながら時刻表を確認した。 やれやれ、こんなに飲み過ぎたのは一体いつ以来だろう。僕は働きの鈍くなった頭で、記憶を辿ってみようとして、すぐに止めた。 今夜は祝いの席だった。職場の同僚の結婚が決まったのだ。 最近社内に明るい