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あんのこと

鑑賞:2024年6月@新宿武蔵野館

無骨に優しい。

予備知識は監督と主演だけという状態で拝見しました。ドライとウェットのあいだで揺れ動かされる作品。エンタメ性と社会性で振れていく作品。伝えたいものがあり、それを汲み取れて、さらに商業性を意識した作りに感心しました。

主人公の女の子の、取り巻く環境のヒドさ。マイルドにしてコレなんだろうという印象です。そこに救いのように現れる刑事。これまた曲者で、弱者に味方する立ち振る舞いと、別の顔と。そこに割って入る記者の存在。記者によって、ドライが作られています。

驚くのが配役で、主人公の河合優美さんの振る舞いは、ずっと見ていたくなります。こんなにも魅力的なのに魅力の出し入れをしながら作品を掘り下げて見せていきます。冒頭でセリフが少ないのが、ニクイ。それだけ途中で見せる他愛もない喋り方がかわいいんです。この主人公は、まさに短い時間で生き様が現れていて、感情移入しすぎるとダメだと思うし、とは言え視聴者と距離が離れすぎてもダメだと思います。この距離感を作る作り手、役者さんの手腕に感心しました。

難しいのが佐藤二朗さんで、裏表もクセもある刑事ですが、ハマっているが故に、裏の顔を予見させられるのです。それを加味した上で前半の善意を見るというのが、何重にも味わい深いです。
思わぬカタチで登場する記者役の稲垣吾郎さん。彼も難しい。華があるのに華を消さないといけない。だけどカラオケシーンで歌声を披露。視聴者的にはご馳走サマなのですが、話を転がすキーパーソンとしては役割に徹しています。

途中で表現したいことは伝わって来ますが、それだけに結びの段階では、やや消化不良でした。結末は、映画を映画として成立させるために作ってあるのでしょう。結末は添え物で、途中の展開が見せどころだという作品でした。

社会の問題を切り取る作風は好きで、近い方向性は吉田恵輔監督の作品だと思ったのですが、入江悠監督の作風は無骨さに親近感があり、作り手と観客の信頼関係が、より築けると思います。間違ってしまう人間、どうしようもない人間を突き放さない姿勢、優しさを感じます。

河合優美さんの、笑っていないシーンと、少しはにかんでいるシーンの幅が大変魅力的でした。佐藤二朗さんの姿も、他にやれる役者がいたらやってみろと言わんばかりの佇まいが良い。そんな作品でした。

同じ年ごろの役を演じている河合優実さん別作品。ほっとします。

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