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たった半年でマネージャーを降りた僕が、なぜアナグラムの新社長になったのか。

僕は今年の8月からアナグラムという会社の社長をしています。

アナグラムは運用型広告を得意とするマーケティング会社です。新卒入社から10年目の今年、創業者の阿部さん(@semlabo)にご指名いただき、大切な会社を任せていただくことになりました。

僕は正直、足りないものがたくさんある人間です。

センスも全然ないですし、人とのコミュニケーションもずっと苦手でした。

どのぐらい苦手かというと、東大に入ったのに就活がぜんぜんうまくできず、ひとつも内定がもらえなかったぐらいです。就職してからも、お客さんとのやりとりやマネジメントでは何度も失敗しました。

なぜ、そんな僕が社長を任せていただけたのか?

改めて自分の仕事をふりかえったことで、いろいろと気づきがあったので、まとめてみました。アナグラムの魅力を伝えるとともに、新社長としての決意表明ができればと思っています。

たった半年でマネージャーを降りた

入社5年目、27歳のときに、僕は初めてマネージャーになりました。

しかし、たったの半年で降りてしまいました。

なにをしたらいいのか、全くわからなかったのです。

それまでは現場でチームリーダーをやっていたのですが「今度はマネージャーとして、各チームリーダーを束ねてね」というのが新しい役割でした。

ところが「現場で手を動かして運用をやる」以外の価値の出しかたが、当時の僕にはわかりませんでした。

ぜんぜん価値を出せていないな、このままじゃよくないなと思い、すぐに代表に「降ります」と言って、マネージャーを降りることにしたのです。

ただ業務を回すだけのロボットになっていた

そのころの僕は、仕事に漠然とした行き詰まりを感じていました。

まったくうまくいかなくて、絶望……とかではないんです。むしろ、仕事のやり方は自分なりにわかってきて、現場でそこそこの成果を出したり、人に教えたりすることは、できるようになっていました。

一方で、仕事を「型」にはめすぎて、柔軟な発想ができなくなっていたとも思います。すべてをパターン処理していて、とにかく業務を回すだけのロボットみたいな状態だったんです。

現場で手を動かしている間は、それでもなんとかなりました。

しかしマネージャーという立場では違いました。みんなに「この人のもとでがんばろう!」と思ってもらうには、事業への熱や心からの想いを、周囲に伝播させていくことが重要です。でも「型」で動いている人間の言葉って、やっぱりぜんぜん相手に届かないんですよね。

当時の僕はそんなことにも気づいておらず、とにかく漠然と行き詰まっていて、代表からも「なんか調子悪そうだね」と言われる始末でした。それで「いったんリセットしよう」とチームを解体し、マネージャーを降りたのです。

そして「ゼロベースで、とにかく新しいことをやってみよう!」と決めました。

新規事業をやってみよう

さっそく、僕ともうひとりの2人チームで、新規事業の立ち上げをはじめました。

当時のアナグラムは「広告運用」を専門とする会社でした。LPやバナーといったクリエイティブの制作はおこなわず、あくまで「運用」のプロとして、既存の広告の配信先や予算配分を調整して、効果を伸ばすことを専門でやっていました。

僕らはそこに加えて、新たに「マーケティング全般の支援」をやってみることにしました。

「広告運用」の枠にとらわれず、もっと幅広い角度から、クライアントの事業を伸ばすための支援をやってみよう! と考えたのです。

新しい仕事をいろいろ試すも……

しかし結論をいうと、全然うまくいきませんでした。

いろんなことを試しました。「オウンドメディアを作ってコンテンツマーケをやってみよう」とか、「事業全体のマーケティング戦略の設計から支援してみよう」とか。

でも、どれも結局プランを作っただけで、ちゃんと仕事にはなりませんでした。

なぜうまくいかなかったのか?

まず「コンテンツマーケティング」に関しては、手を動かせる人がいませんでした。取材をして、うまい見せ方を考えて、ちゃんと読まれる、かつ売れる記事を書く。そのノウハウや技術をもった人は、思った以上に見つかりませんでした。

しかも、いったんメディアを始めたら長く続けないといけないので、お客さん側にもけっこうな覚悟が必要になります。ハードルがすごく高かったのです。

「マーケティング戦略の設計」もだめでした。

戦略を専門でやっている会社は、すでに世の中にたくさんあります。そのなかで、わざわざ僕らに頼むメリットがなかったからです。

考えて提案しても、結局通らないことが続きました。

ポッと考えた事業じゃ全然うまくいかない

僕はこれまで、広告運用によって「お客さんの事業を伸ばす」お手伝いをやってきました。でも、自分でゼロから事業をつくって売ったことは一度もありませんでした。

だからこのときに初めて、手触り感をもって理解できたんです。

「自分たちでサービスを作って売るのって、こんなに難しいんだ」「ポッと考えた事業じゃ、全然うまくいかないんだ」と。

あたりまえですが「こうしたらいいんじゃないかな?」と思いつくのと、それが「会社として投資すべき事業」になるかどうかは、まったく別の話でした。5秒で思いつくようなことをやっても、うまくいくわけがないのです。

当時の僕はそれすらよくわかっていなくて。「LPやバナーのデザインを内製化したいから、デザイナーを採用したいんです」と代表に相談したら「え、ぜんぜん数字上がってないのに、人雇うってどういうことなの?」と言われて「た、確かに……」と反省したりしていました。

「モノが売れる理由」を自分なりに体系化した

このままではまずい。マネージャーを降りてまで新規事業をやっているのに、失敗したまま終わったら目も当てられません。

なにかヒントを得ようと思い、とにかく本を読みました。マーケや事業づくり、ライティング本などなど……。50冊以上は読んだと思います。

それぞれの本には、モノを売るためのいろんなフレームワークや考え方が提唱されていました。

そうして大量に読んだ本の内容を自分なりにまとめて、「モノが売れる理由」を体系化してみたのです。

「自分でなんとかする」が一番の競合

そのときまとめたのが、次のような内容です。

人はどういうときに「モノを買おう」と思うのか?

なにか困りごとがあったとき、お客さん(消費者)がとり得る行動には、大きく分けると5つしかありません。

1つ目は、何もしない。そもそも課題と認識していない。
2つ目は、自分でなんとかしようとする。
3つ目は、自社商品とは別カテゴリーの、他社が提供する手段を使う。
4つ目は、自社と同じカテゴリーの、他社が提供する手段を使う。
5つ目は、自社が提供する手段で解決する。

この選択肢のなかで、5つ目の「自社の提供する手段」がいちばんいいと思ってもらえれば、お客さんは商品を買ってくれます。「合理的に考えたら、絶対に買ったほうがいいよね」という状態になるわけです。

特に気づきになったのは、2つ目の「自分でなんとかする」という選択肢でした。

これがもっとも想起されやすい代替手段です。だからこそ、しっかり説明して勝たないといけないんですよね。

「競合」というと競合他社の商品ばかり思い浮かべがちですが、実際は「自力でなんとかする」がいちばん強い競合であることも多いんです。

初めて手応えを感じた

このフレームワークを活かしたことで、ようやく手応えを感じる施策が実現できました。

「思わず商品を買いたくなるようなコンテンツ」をつくり、それを広告として配信することで、広告効果を倍増させることができたのです。

最初に効果が出たのは、ある健康食品の広告でした。

健康を改善する手段としてすぐに思いつくのは「自分で運動や食事制限をすること」です。そこで……

「自力でやるなら、こんな食事や運動が効果的です」
「でもこれって、継続するのは大変だし、手間もかかりますよね」
「そこで、こんな商品があるんです!」
「自力でやるのと並行してこの商品を取り入れると、手軽で継続しやすいですよ」

こんな説明をコンテンツに入れてみました。「自分でなんとかする」という選択肢をあえて提示したうえで、よりよい手段として商品を提案したわけです。

また、訴求の切り口も改善しました。

私が担当するまでは「栄養が摂れる」といった訴求や「初回割引キャンペーン」のように価格で訴求する広告に、多くの費用を使っていたんです。

しかし「栄養が摂れる」だけなら、他にも安くていい商品がたくさんあります。また「初回割引」とだけ伝えても、商品の本来のよさは伝わりません。

そこで、その商品が「いちばんいい選択肢」だと自信をもってご提案できる「健康診断の数字改善ができます」という訴求に、広告費用を集中させることにしました。

その結果、CPA(顧客獲得単価)は大きく改善。

単月の広告費は、最大で800%まで拡大したのです。

他の商品でもこの方法を試してみると、やはり効果があることがわかりました。「自分でやるのはものすごく大変ですよね」という話を前段に入れるかどうかで、CPAに10倍の差があったんです。やっぱりそこのパートが大事だったんですよね。

「リピート率」も大幅に上がった

そして後日、クライアントから思わぬ反響がありました。

改善したのはCPAだけではなかったのです。その広告を通して商品を購入してくださったお客さんの「リピート率」も、大幅に向上していました。1回きりの購入で終わらずに、ちゃんと継続して商品を買ってくれていた。

LTVは数十%も向上していました。

LTVは「ライフタイムバリュー」の略で、顧客ひとりあたりが生涯を通じて企業にもたらす価値のこと。LTVが高いほど「選び続けてもらえている」ということになります。

つまり短期的な売上が伸びただけでなく、届くべきお客さんにしっかりと届き、長期的な収益改善にまでつながっていたのです。

「CPAを改善すると、リピート率は下がる」という思い込み

短期的なCPAと、長期的なリピート率やLTVの両方が改善した。

この結果には正直、驚きました。

それは「広告の常識」からすると、けっこう珍しいことだったからです。販促の世界では従来「新規顧客の獲得」と、長期的な「リピート率」は、両立が難しいとされていました。

それはなぜか?

新規顧客を獲得する方法として手っ取り早いのは、「今だけ初回半額!」のようなキャンペーンをすることです。価格を下げることで売る。確かに、安ければみんな買ってくれるので、CPAは改善します。

でも「安いから」という理由で買ってくれた人が、通常価格になる2回目以降もリピートしてくれる確率は、当然低くなるわけです。

過激なコピーや、本来の商品の特徴とズレた訴求をするのも同じです。1度は買ってもらえても、実際に使うと「期待してたのと違う……」となって、リピートする人は少なくなります。

数を追い求めれば、質は落ちる。CPAとリピート率は両取りできない。そういう認識が一般的なんですよね。

「目に見える指標」にとらわれてしまう

それでも、こうした手っ取り早い手法で集客している広告主は多いです。

それは多くのマーケティングチームが「新規顧客の獲得のみ」を成果の指標として追っているからです。

「初回半額」のような購入のハードルを下げる訴求は、新しいお客さんに商品を使ってもらうきっかけとしては、もちろん効果的です。

しかし、それに過剰に頼りすぎると、デメリットのほうが大きくなります。

「初回半額」で売れば、当然ながら利益率は下がります。全体として見ると売上が伸びていないこともあるわけです。しかし、そのぶんの損失は広告ダッシュボードには現れません。「CPAの改善」だけが目に見える。

そのため、運用だけを見れば「成果が出ている」ことになるわけです。実際は、後ろのプロセスを担当する別のチームに、負担を押し付けているだけなのに。

しかも、広告のアルゴリズムでは、CPAの安い広告が優先的に表示されるよう、自動で広告表示が最適化されます。

つまり、ブランドの世界観をていねいに伝えるような広告を他につくっていたとしても、いつの間にか「初回半額」の広告ばかりが配信される、という状況が生まれてしまうんです。

結果的に、収益率が悪い広告に投資しつづけてしまう……。

こうした広告運用の「部分最適」になりがちな側面には、以前から僕も気づいていて「もう少しどうにかできないのかな」と思っていました。

部分最適をやめて、全体最適に

「コンテンツ広告」の成果が出たことで、そこへの答えがようやく出せた気がしました。

本当に役に立てるお客さんにフォーカスし、商品の本来の価値を伝えれば、入り口のコンバージョンも増えるし、リピート率も上がる。どちらも同時によくなる。それが本来、マーケティングの目指すべき姿だと思います。

これに気づいたのは自分にとって、大きなブレイクスルーでした。

同時にいままでの自分が、いかに視野が狭くなっていたのかにも気づきました。

「うちは広告運用の会社だ」「CPAを改善するのが大事だ」と思い込んでいた。思考にロックがかかっていたんですよね。

部分最適をやめて、全体最適を考えるとうまくいく。

それは広告運用だけでなく、クライアントへの提案やマネジメントなど、すべての場面に通じることでした。

たとえば「SNS担当」と「広告運用担当」は完全に切り分けず、いいクリエイティブやコピーを双方に活かしたほうがうまくいきます。社内でも、業務を切り分けすぎないほうがメンバーの能力が発揮されやすく、市場価値も跳ね上がります。

仕事をなるべく大きくつくり、全体最適をめざす。

それを意識することで、仕事がすごくおもしろく、うまく回るようになったんです。

会社に新しい武器ができた

たった2人で始まったチームは、だんだん案件も増えてきて、5人、10人、30人と大きくなっていきました。

新しい広告手法で成果が出たことで、徐々に仕事の依頼が増え、売り上げも立つようになりました。それで、デザイナーやエンジニアなど、これまでいなかった職種の人たちも採用することができました。

社員数は、いま120名を超えています。

かつての僕らは「運用」専門の会社でした。でも、いまはクリエイティブまでサポートできて、成果の計測もより細かくやれる。

会社が成長しただけでなく、事業の幅がとても広くなったなと思います。

部長のようにふるまうから部長になる

僕は決して昔から「社長になりたい」と思っていたわけではありません。

ただ「いい仕事がしたい」という気持ちはずっとありました。経営がやりたいというよりは、迫力のある「いい仕事」がしたい。

いい仕事をするための手段として、よくやっていた思考実験があります。「クライアントとうちの会社がM&Aで一緒になって、役員としてこの事業を伸ばさなきゃいけないとしたら、なにをするだろう?」というものです。

実際は、クライアントにとって僕らは「外部から入った第三者」です。

でも、だからこそ「どの立場のようにふるまうか」によって、見られ方がまったく変わってきます。たとえ新人でも部長のようにふるまえば、部長のように見られる。相手も部長レベルの方が出てきてくれます。

そうすると、120%の「いい仕事」ができて、本当に昇進するものです。

「部長に任命されたから、部長のようにふるまおう」ではないんです。「部長のようにふるまうから、部長に任命される」んですよね。

今回、僕が社長を任せていただけたのも、そういうことなのかなと思います。

マネージャーを降りたとき、僕は本当にポンコツだったと思いますし、これから先のこともまったく見えていませんでした。

でも、とにかく価値を出そうとして必死に動くなかで、いつの間にか「経営者っぽい動き」をさせていただくようになっていました。ちゃんと収益を出しながら新しい人を採用したり、新しい分野に投資したり……。

最初は「ごっこ遊び」でも、続けていけば板についてくるものです。

部長のようにふるまうから部長になるし、社長のようにふるまうから社長になる、のだと思います。

広告運用は「懐の深い」仕事

新人でも誰でも、そういう「+α」の動きができる。

そんな「懐の深さ」があるのが、広告運用という仕事の魅力でもあるんです。媒体を変えたり、見せ方を変えたり、いろんなチャレンジがしやすい。しかも、やってみた施策がすぐに数字に跳ね返ってくる。

そんな仕事、なかなかありません。

そして、チャレンジを許容してくれるアナグラムという会社も、とても懐が深い会社だなと思っています。

人はちょっとした思考の切り替えで、一気に能力がひらくものです。僕自身がそうでした。いまはくすぶっている人も、自分で考えて試すことをやめなければ、ちょっとしたきっかけで活躍できる可能性が高いです。

だからみんな、恐れずに「部長ごっこ」や「社長ごっこ」をやってみてほしい。

経営者として、そういうチャレンジをどんどん繰り出していける「懐の深い会社」でありつづけたいと、強く思っています。


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