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「火だるま槐多よ」夢野史郎インタビュー 深淵のワンダーラスト【第二回】
取材・文/やまだおうむ
【第二回】夜叉のいる青春
はじめに、「火だるま槐多よ」を巡って -2-
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相貌の異なる、前作「眼球の夢」
──今回は、主題に猟奇殺人があって、カメラで死を写すことに取憑かれた女性が重要な役割を担っている前作「眼球の夢」とは、ちょっと手触りが異なるような気がしました。あの映画は、お二人の代表作「アブノーマル陰虐」(1988)を想起させるものがありましたが。
夢野 ああ、伊藤清美がクライム・ハンターを演ったやつだね。「RE-WIND」っていうタイトルであれは書き始めたんだよ。ヒロインが整形で顔を変えて、自称クライム・ハンターになり、元に戻る、というので“RE-WIND=巻き戻し”と。
──自分は今、所謂「犯罪サスペンス」というものがほとんど絶滅してしまったと考えているのですが、「眼球の夢」に取り組まれたのは、敢えてそこに切り込もうと思われたところもあるのでしょうか。万里紗の演ったヒロインがクライム・ハンターのように行動するのは、観ていてかなり燃えるものがありました。
夢野 そうしたほうが、新しいお客さんも佐藤監督の世界に入って行きやすいんじゃないか、というのはあった。「眼球の夢」は、佐藤監督と11年ぶりに組むということで、分かりやすいほうがいいんじゃないかと思ったんだよね。
──「眼球の夢」もまた、「RE-WIND」同様、ヒロインがアンダーグラウンドの世界を駆け回りながら、過去に遡っていく物語ですね。過去、自身に起きた忌まわしい出来事の謎を追ううち、次第にチベット密教仏の眉間に開いた“第三の眼”のようなものの存在が明らかになってくる。あの辺の風呂敷の広げ方は、夢野さんの真骨頂だなと。
夢野 ただ、最初のホンではもっと佐川一政さんの比重が大きかった。テレパシーで、主人公と交信したりするんだよ。
──レクター博士を本物が演じるみたいな⋯⋯。それは、ちょっとヤバいですね。
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カニバリストとのディナー
夢野 その頃、佐川さんの体調もまだそんなに悪くなかったんだ。でも、俺がシナリオを書き終わった時、もうかなり悪くなってて、出演出来ないっていうんだよ。でも何とか出て欲しかったから、佐川さんに合わせてシナリオ全体を書き直した。そしたらさらに容態が悪くなって、また書き直すことになった。あれは、佐藤監督と組んだ中でも大変な仕事だった。
──それで、生と死の境界にいる人物という設定で、佐川さんを富士山麓の樹海のセンチネルに⋯⋯。
夢野 うん。最終的に、森の番人のような役になった。でも、最初俺がやりたかったこととは大きく変わっちゃったっていうのはある。
──佐川さんは、夢野さんが川端康成の「眠れる美女」にインスパイアされて書いた「視線上のアリア」(公開題『浮気妻 恥辱責め』1992・佐藤寿保)に出演するなど、佐藤監督とも縁が深い方でもありますが、そもそもどのような経緯で知り合ったのでしょうか。
夢野 佐藤監督は、佐川さんが自身の起こしたパリ人肉事件のことを小説にした「霧の中」を映画化しようとしてて、会いに行ったんだ。その繋がりで「視線上のアリア」に出てくれた。
──佐川さんは、“眠れる美女”たちのいる部屋へやってくる客の役でしたね。
夢野 そう、そう。「眠室」の常連って役どころ。その時、俺も本にサインして貰ったけど、会ってみると普通の人でね。礼儀正しくてさ。その後、何度か一緒に食事したり飲んだりもしたんだ。何か見えてくるものがないかと思って。
──どうでした?
夢野 やっぱり普通の人なんだよ。好きになった人を食べたいって発想自体、俺にはないし、全く分からない。深作(欣二)さんの「仁義の墓場」(1975)で渡哲也が死んだ妻の骨を食べたのは何となく分かるけど、あれはまたちょっと違うから⋯⋯。
──昔、自分は佐川さんと同じ実話芸能誌で連載を持っていたのですが、佐川さん、何であんなことしたんだろうっていうくらい、いつも文章の内容はまともでしたね。
夢野 多分、事件を起こした時って、自分でも説明出来ないことが彼の中で起きたんじゃないかな。「霧の中」を読んでも、さっぱり分からないんだよ。佐川さん本人も説明出来ないんだって思った。しかし、佐川さんって弟がいるじゃない? あの弟は兄に縛られてて、普通それを隠すけど、全部表に出して喋っていく⋯⋯。彼らのことを撮ったドキュメンタリー (『カニバ』2019 ベレナ・パラベル&リーシャン・キャスティーヌ=テイラー)は、どうってことない内容だったけど、佐川さんとあの弟の関係性が凄く面白かった。
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SPECIAL THANKS/佐藤寿保 今泉浩一 叶井俊太郎
次回は、11月30日の掲載予定です
《写真無断転載厳禁》
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<著者プロフィール>
やまだおうむ
1971年生まれ。「わくわく北朝鮮ツアー」「命を脅かす!激安メニューの恐怖」(共著・メイン執筆)「ブランド・ムック・プッチンプリン」「高校生の美術・教授資料シリーズ」(共著・メイン執筆)といった著書があり、稀にコピー・ライターとして広告文案も書く。実話ナックルズでは、食品問題、都市伝説ほか数々の特集記事を担当してきた。また、映画評やインタビューなど、映画に関する記事を毎号欠かさず執筆。
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