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【第九回】関本郁夫・茶の間の闇 緊急インタビュー 自伝「映画監督放浪記」に寄せて

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取材・文/やまだおうむ

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忍者には墓もなし、青春もなし
――「戦慄!処女のいけにえ」

──第24話「戦慄!処女のいけにえ」は、長谷直美演じるくの一・お霧の最終エピソードで、「服部半蔵 影の軍団」では関本監督が手掛けた最後の話となります。

関本 (小林)稔侍が出てきて、最後、路傍の石を映して終わる話じゃなかったっけ?

──お霧が半蔵への思いを隠したまま、薩摩屋敷に潜入し、彼女に思いを寄せる薩摩の娘を救って、自分は凶刃に倒れる、という物語でした。そして、路傍に埋葬される。長谷直美が最終回目前で退場することになったのは、多忙だったからですか?

関本 それはなかったよ。長谷は当時、沢井事務所だったけど、マネージャーが毎日現場に来ていてね。長谷を売り出そうと必死だったから。

──最終回の前に、一話まるごと使って花道を作ったわけですね。

関本 (プロデューサー・サイドの意向として)おそらくはそういうことだろうと思う。長谷は、前にも話したように、台詞をトチるんだよな。だから、何とかしてやりたいと俺も思ってたんだ。それにしても、「花嫁と暗殺の鬼」の時は、千葉(真一)まで台詞が出なくなったから本当に往生した。多分あの時、千葉は、長谷を早く帰してやりたいと思って、余計台詞が出なくなったんだと思う。

──その時のお二人を見ていて、ラブストーリーを撮ったら面白いと思われたのでしょうか。

関本 いや、「影の軍団」を始めた時から、お霧がカシラ(半蔵)に惚れてないのは嘘だとずっと思っていたんだよ。

──でも半蔵は、既に番組序盤から三林京子演じるお甲と特別な関係で結ばれている⋯⋯。

関本 だから、お霧の想いは報われないんだ。

──この話ではさらに、男装姿のお霧に、三浦リカ扮する薩摩藩の娘が惚れてしまい、一方彼女には、かねてより従者の小林稔侍が秘めた恋心を抱いている⋯⋯という片想いが三つ数珠繋ぎになっています。お甲はこの回には出ては来ないものの、半蔵がお甲へのプラトニックな恋に身を焦がしているというバックストーリーもあるわけで⋯⋯。

関本 (笑)。

――ちょっとラブコメ的というか、オペレッタのようなユーモアも感じさせますね。

関本 ただ、俺はそれによって、悲劇の部分を出したつもりだけどね。

──なるほど、そう伺うと、渡世人姿のお霧が「流れ者には女はいらねぇ」と、長谷直美が「東京流れ者」(1966・鈴木清順)の台詞で見栄を切る場面にも、可愛らしさの裏に言いようのないくの一の悲しみが透けて見える気がしますね。

関本 しかし、3つの恋模様を45分で語るのは、なかなか大変だった。石川(孝人)君の脚本は、「黒髪は恨みに燃えた」の時は面白かったんだけど、この回は直した直した(笑)。ただ、石川君の持つセンチメンタリズムは、上手く出せたんじゃないかな。

長谷直美の退場を匂わせる告知は、新聞や週刊誌で一切なされず、視聴者を驚かせた。写真は番組開始前の宣伝記事の抜粋。(アサヒ芸能/1980年3月27日号)

牧ちゃんも、このシャシンで
刺激を受けたんじゃないでしょうか

──最後、半蔵が瀕死のお霧を抱き寄せる場面で、廃墟の中、風鈴のような音が効果音としてずっと鳴り続けています。1960年代の映画の、男女の情交場面で時折見かける効果ですが、死別の場面では珍しいですね。

関本 たしか、選曲担当者に、普通とは違う印象的な音を付けて欲しいと言ったんじゃなかったかな。

──夏が去るのと同時に、死者の魂がそこここで飛び立とうと羽ばたいているような不思議な気持ちになりますね。

関本 このシャシンは、長谷が出演する最後ということで、「影の軍団 服部半蔵」の中でも、音には特にこだわったんだよ。選曲だけで二日ぐらいかかった。何度も話してるけど、この頃は、担当者が付けた曲を、俺は毎回まるごと入れ替えてたから大変だった。

──脇役の小林稔侍が、佇まいだけで見事な存在感を出していますね。

関本 小林稔侍には男の“影”を感じたな。小林はいい役者だったよ。彼は、高倉健にずっと憧れてて、その関係で、この頃から東映よりも、倉本聰さんのテレビ・ドラマの方で活躍するようになっていったけど。

──冒頭で、お霧が秋祭の奉納芝居で男装して旅烏を演じ、その姿に一目惚れした薩摩藩武芸指南役の娘に、“霧太郎”として接近する。このアイディアは、プロデューサーの牧口雄二ですか?

関本 牧ちゃんからは、何か言われたというのはなかった。長谷を男装させたらどうかっていう案が、石川君から出たのか俺から出たのかは憶えていない。

──服装倒錯の世界は、「影の軍団」では、後に牧口雄二が自身の監督回で精力的に採り入れていきますね。

関本 牧ちゃんは、「影の軍団」では、監督とプロデューサーを兼任してたから、全作を観てた。もしかしたら、このシャシンから背中を押された部分はあったかもしれないね。

──この回で当時、他の1時間ものの連続テレビ映画とちょっと違うなと思ったのは、通常、レギュラーが死ぬ回では、俳優の顔を夕日にオーバーラップさせるとか、かつての名場面をフラッシュで流すのが定番なのに、そうした抒情を一切拒絶しておられることです。

関本 最後は、たしか石しか映さなかった。

──彼女の亡骸を埋めた路傍で、半蔵が、旅立って行く薩摩の娘の未来に想いを馳せる、という意味にも受け取れるエンディングでした。

関本 忍者には墓もなし、青春もなし、という「影の軍団」のテーマを、俺は突き詰めてみたかったんだよ。だから、最後もあえてストイックにしたんです。路傍の石のように、墓もなく死んでいったというね。

SPECIAL THANKS/伊藤彰彦

(第十回に続く)                                   次回は3月1日の掲載予定です                                          《無断転載厳禁》

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<著者プロフィール>
やまだおうむ
1971年生まれ。「わくわく北朝鮮ツアー」「命を脅かす!激安メニューの恐怖」(共著・メイン執筆)「ブランド・ムック・プッチンプリン」「高校生の美術・教授資料シリーズ」(共著・メイン執筆)といった著書があり、稀にコピー・ライターとして広告文案も書く。実話ナックルズでは、食品問題、都市伝説ほか数々の特集記事を担当してきた。また、映画評やインタビューなど、映画に関する記事を毎号欠かさず執筆。

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