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【ウィキペディア編集記】『明鏡国語辞典』を加筆する
みなさんお久しぶりです!Lakkaです。
私は辞書好きであると同時に、趣味でウィキペディアの編集を行うウィキペディアンでもあります。これまでnoteでは辞書の話をたくさんしてきましたが、「そろそろウィキペディアについても語りたい!!!」ということで、今回はウィキペディア回です。
最初にウィキペディアに関する簡単な説明をした上で、先日加筆を行った『明鏡国語辞典』の編集過程についてまとめていきたいと思います。
超大作になってしまいましたが、ウィキペディアの編集に関心を持つ方々の参考になれば幸いです。
⚠️まず、ウィキペディアとは?
ウィキペディアの方針
そもそもウィキペディアとはどのようなものなのでしょうか。
Wikipedia:方針とガイドラインというページがあるので、そちらから少し引用してみましょう。
ウィキペディアは、次の目的を掲げています。
ウィキペディアの目的は、信頼されるフリーな百科事典を――それも、質も量も史上最大の百科事典を創り上げることです。--ラリー・サンガー
この目的を達成するために、ウィキペディアには方針とガイドラインがあります。方針とガイドラインには、まだ発展中のものも、もはや定着して議論の余地がないものもあります。
あまり知られていませんが、ウィキペディアにはこのように「方針」についてまとめられたページが多数存在します。
ここで、ウィキペディアの全ての指針の基礎となるとされている「五本の柱」についても簡単にまとめておきます。
ウィキペディアは百科事典です。
ウィキペディアは中立的な観点に基づきます。
ウィキペディアの利用はフリーで、誰でも編集が可能です。
ウィキペディアには行動規範があります。
上の4つの原則の他には、ウィキペディアには、確固としたルールはありません。
詳しい説明はWikipedia:五本の柱というページに譲りますが、めちゃくちゃざっくりまとめると「ウィキペディアは誰でも自由に編集できるフリー百科事典だけど、中立的な観点に基づいて書かなくちゃいけないよ。確固としたルールはないけど、みんな喧嘩せず仲良く編集しようね!」みたいなことです。(※あくまで意訳)
細かな方針の中で重要なものとして、Wikipedia:独自研究は載せないや、Wikipedia:出典を明記するが挙げられます。これらは全て、ウィキペディアのヘルプページから確認することができます。
こうした方針が定められていることによって、不特定多数によって編集されるフリー百科事典・ウィキペディアは成り立っているのです。
ウィキペディアの出典
ウィキペディアには出典を明記する必要があります。出典がなければその情報を信用していいのかわかりませんし、利用者がその情報についてもっと知りたいと感じても、自力で調べ直すしかありません。
出典が明記されていれば、その文献を取り寄せ、簡単により詳しい情報を確認することができます。なのでウィキペディアの編集において、信頼のある情報を選択してまとめることはもちろん、その出典を明記することは、大変重要なことなのです。
ウィキペディアを利用する際、私は必ず出典を確認します。良い記事であれば、そのテーマに関する重要な文献がしっかりとまとめられているはずです。「自分が調査をする参考としてウィキペディアの出典を確認する」というのも、ウィキペディアの有意義な使い方の一つだと思います。
📚『明鏡国語辞典』の資料を集める
いよいよここからは、『明鏡国語辞典』の編集過程についてまとめていきます。
『明鏡国語辞典』の記事は元からウィキペディアに存在していましたが、あまり出典がついておらず、全面的に書き換える必要があると感じていました。つまり、加筆と言っておきながらほとんど一つの記事を立項するようなものです。
ウィキペディアンにもいろいろなタイプが存在しますが、私は「いったん集められるだけの資料を全て集めて読み、自分の中にその知識を蓄積する」という過程を必要とします。資料収集と同時進行で編集を行えるウィキペディアンもいるらしく、本当に器用でうらやましい限りです…。
過去に読んだ書籍・記事を読み返す
私は辞書マニアなので、『明鏡国語辞典』の加筆をするぞ!と決めた段階で、すでにいくつかの目星は立っていました。以下の6点です。
1.サンキュータツオ『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』
第2章の「タツオセレクト!オススメ辞書ガイド」で、明鏡のキャラクターについて解説されています。辞書ごとの特徴についてまとめられている本は意外に少ないので、特色の項目を書く際に役に立つのではないでしょうか。
2.ながさわ『比べて愉しい国語辞書ディープな読み方』
有名な辞書マニア、ながさわさんが書かれた本です。様々な辞書の比較をした本なので、明鏡についても何かしら言及があったはずです。
3.ながさわ『使える!国語辞書』
同じくながさわさんのご著書です。こちらも辞書ごとに解説があったと記憶しています。『ディープな読み方』と合わせて特色項目で役立つほか、基本情報の出典にも使えるかもしれません。
4.『ユリイカ』第44巻第3号(特集:辞書の世界)
まるまる1冊、辞書について特集された雑誌です。巻頭で明鏡の編者・北原保雄氏の対談がありました。明鏡の歴史や方針について、重要な言及があると思われます。
5.見坊行徳・稲川智樹文、いのうえさきこ絵『辞典語辞典』
辞書に関するあらゆることが解説された書籍です。明鏡や北原保雄の項目もあったはずなので、一度確認しておいたほうがよいでしょう。
6.「毎日ことばplus」のインタビュー記事
毎日新聞校閲部のウェブジャーナル「毎日ことばplus」は、国語辞典が改訂される度にインタビュー記事を掲載してくれる素敵サイトです。2020年に明鏡の第三版が刊行された際も、担当編集者へのインタビュー記事が公開されました。こちらも方針や特色についてまとめる際、役立つと思われます。
サンキュータツオ『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』以外は全て手元で確認できたので、いったん目を通しておきます。どの資料も予想通り、出典として十分に役立ちそうです。
しかし、ここで一つ問題が浮上しました。
これらは全て2010年以降に書かれたもので、第二版と第三版に関する情報が中心です。明鏡の初版は2002年発行。これでは初版刊行時の情報について、出典が少ない状態になってしまいます。
もっと古い情報がほしい。ここからはより古い情報を発掘する作業に入ります。
新聞データベースで関連記事を探す
新聞には、当時の最新の情報が確実に残っています。
多くの大学図書館では、調査・研究・学習に役立つ外部データベースや電子ジャーナル、電子ブックなどを学生や教職員に対して無料で提供しています。今回は新聞データベースの中から、こちらの4つを活用しました。
・朝日新聞クロスサーチ(朝日新聞)
・ヨミダス(読売新聞)
・毎索(毎日新聞)
・日経テレコン(日本経済新聞)
検索キーワードは「明鏡国語辞典」「北原保雄」「問題な日本語」「みんなで国語辞典」などです。「問題な日本語シリーズ」及び「みんなで国語辞典シリーズ」は、明鏡と同じ編集チームが出したベストセラー本です。電子辞書で見たことがある、読んだことがあるという方も多いのではないでしょうか。明鏡と深い関わりがあるため、これらについての情報も必要であると判断しました。
検索でヒットした記事の中から、出典として使えそうなものをピックアップしていきます。具体的には明鏡の方針であったり特色について言及されているもの、その歴史を記述するのに役立ちそうなものを選びます。
使えるかもしれないと判断した箇所を、その記事の基本情報とともに抜き出します。新聞名、日付、朝刊か夕刊か、ページ数、(記載があれば)執筆者、記事のタイトル。
私はGoogleドキュメントに貼り付けてまとめていました。
![](https://assets.st-note.com/img/1714829988258-N2165hjlwV.png?width=1200)
新聞データベースによって2002年から2024年まで幅広く、10本の記事を見つけることに成功しました。
一通り作業が終わると作った資料をコピーしてさらに厳選する工程に入ります。特に大事そう、使えそうと思ったところに蛍光ペンで線を引きます。
NDL(国立国会図書館サーチ)で書籍を探す
続いて、書籍を探します。
NDL(国立国会図書館サーチ)で「明鏡国語辞典」「北原保雄」といったキーワードで検索をかけ、気になるものがあれば片っ端からお気に入りに保存していきます。NDLのお気に入り機能はタグ付けをすることができ、ジャンルごとにまとめられてとても便利です。お気に入りに登録しておくことで、国立国会図書館に入館後すぐに取り寄せ手続きをすることができます。
![](https://assets.st-note.com/img/1714662892011-2ZwJRRMAQr.jpg?width=1200)
ここまでできたところで、さっそく国立国会図書館に出向きます。本当にどうでもいい話ですが、2階にある喫茶店のカツカレーがすごくおいしいんです。あまりにも好きなのでカレー系以外のメニューを食べられずに数年が経ちました。
話を戻します。
過去に読んだことはあったものの手元になかった『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』と、他の資料と照らし合わせて確認したかった『ユリイカ』第44巻第3号を合わせた、7件の資料を取り寄せました。
『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』は、想定通り特色項目で活用できそうです。
また、以下の2点も重要な資料であると言えるでしょう。
1.北原保雄『日本語とともに 北原保雄トークアンソロジー』
北原保雄は、明鏡の編者です。「Ⅲ 国語辞典と私」には、国語辞典に関するエッセイや対談が収録されています。
2.『国語教室』114号
北原保雄の「『明鏡国語辞典』改訂に寄せて」という寄稿が掲載されています。主に第三版の話ですが、明鏡のコンセプトについても改めて触れられていました。
さて、ある程度資料は出そろいました。必要なものは複写してもらい持ち帰ります。
国立国会図書館の複写料金は非常に安く、大量に申し込んでもたいてい数百円で済んでしまいます。ちなみに複写は大体20分~30分くらいかかるのですが、一度5分で出てきたことがあり驚きました。後にも先にもあのときだけだったので幻なのかもしれません。
Googleニュースでウェブジャーナルを探す
ウェブジャーナル(ネット上の記事)を探す方法として、Googleニュースがあります。しかし辞書の情報は経験上あまりネット上に残っておらず、今回はそれほど期待できないでしょう。(ジャンルによっては、むしろウェブジャーナルがメインとなることもあります)
念のため確認したものの、これまで得られた情報以上のものは見当たりませんでした。今回出典として利用するウェブジャーナルは、はじめに挙げた「毎日ことばplus」のインタビュー記事のみとなりそうです。
さて、これにて資料収集は終了となります。
🪄『明鏡国語辞典』の記事を書く
構成を考えながらの作業
集めた資料に全て目を通したところで、ようやく記事の執筆に移ります。
まずは定義文。一番上の「『明鏡国語辞典』(めいきょうこくごじてん)は、」から始まるところです。
私は、ここを全体の要約にすることを心がけています。つまり、利用者がこれ以降を読まなくても主題について何となく概要がつかめるような、そんな書き方になっています。そのため、最初は何となく書いておいて各項目を執筆しながら必要な情報を付け足していくイメージです。2024年5月7日時点の定義文はこんな感じ。
![](https://assets.st-note.com/img/1714829899938-u7FYAQ6RUk.png?width=1200)
書き始めた時点ではたいてい構成は決まっていません。今回は歴史項目を書きながら自分の頭を整理し、他にどんな項目が必要か、それらの項目をどの順番で並べるか考えていきます。
結果的に構成は次のようになりました。
①定義文
②歴史
③方針
④特色
⑤改訂・編集委員
⑥評価 ※2024年8月13日に追加しました
⑦脚注(注釈、出典)
⑧参考文献
⑨関連書籍
⑩外部リンク
明鏡は関連書籍が非常に多く、途中頭がパンクしそうになりました。
個人的に、ウィキペディアの編集は文章を書くことよりも、出典情報をつけたりまとめたりすることのほうが大変だと感じています。再現性を求めるとどうしても細かな情報(書籍や新聞ならページ数まで)を明記することが必要となり、編集する側の負担は大きくなります。
また、「ソース編集」に慣れることも必要です。ウィキペディアにはビジュアル編集とソース編集の二通りの編集方法があります。
ビジュアル編集は普段見ているウィキペディア画面のまま編集できとてもやりやすいのですが、ソース編集でなければできないことも多くあるため、結果的にソース編集を習得することが必要となります。下の画像は、前に示した「定義文」のソース編集画面です。
![](https://assets.st-note.com/img/1714834104822-KTBkOd1DgC.jpg?width=1200)
水色で線を引いたところは、出典及び注釈です。これは注釈が含まれているのでやや多めにはなっていますが、ウィキペディアのソース編集画面を見たことがない方は驚かれるのではないでしょうか。普段見えていないところに、実はこれだけの情報が隠されているのです。
つまり、一文ごとにしっかり出典をつけようと思うと、本文と同じくらい出典を書くことになるといっても過言ではありません。また、タグやテンプレート、フォーマット( {{sfn|ながさわ|2021|p=13-14}} 👈これ系です)を理解する必要もあります。
ウィキペディアの編集を行うたびに、「誰でも編集できると謳っておきながらちゃんとやろうと思うとかなり難しくない…?」と感じてしまいます。
今回、資料収集から編集までの一連の作業に掛かった期間はおよそ2日間(早い)。毎回資料収集で生き生きしていたのが嘘のように、編集作業で体力を消耗して終わります。
利用者ページ(ウィキペディア上の自分のお部屋みたいなところ)で下書きを作っていたので、それをコピーして既存の『明鏡国語辞典』のページに持っていきます。全面改訂ということで、元々あったものは引き続き必要なもの(外部リンクやカテゴリ)以外削除し、自分の書いたものを貼り付けます。外部リンク等の確認を行ったあと”変更を公開”し、作業は完了です!
プロジェクト辞書
『明鏡国語辞典』大幅加筆版が公開された後、ウィキプロジェクト:辞書の参加者である利用者:Meme-MemeさんによってTemplate:基礎情報 辞書が作成されました。きっかけはこちらのツイートです。
Template:基礎情報 辞書、ほしい
— Lakka26 (@noi_flowers) April 27, 2024
Template:基礎情報 辞書は、すぐに『明鏡国語辞典』の記事に導入しました。まだ発展の余地はありますが、辞書関連記事の成長を助けることは間違いありません。
☕️おわりに
長々と説明してきましたが、ウィキペディアの書き方も資料の集め方も人それぞれです。私は編集を始めて2年ほど、しかもそれほど積極的に活動しているわけではないので、まだまだわからないこともたくさんあります。
この記事を読んでいて、これは違う、これはこうしたほうがいいといったことがあれば、ご教示いただけますと幸いです。これからもウィキペディアについて勉強を続けていきたいと思います。
また、今回『明鏡国語辞典』の加筆を行ったことによって、これまで何となくしか知らなかった明鏡の方針や、編者・北原保雄の考え方を知るよい機会となりました。改めてそのテーマについて勉強できるのは、ウィキペディア編集の醍醐味だと思います。明鏡をもっと上手に使えるようになりそうです。
全部読んでくださった方いるのかな、と不安になるほど長い記事になってしまいました。ここまでお付き合いくださった方は本当にありがとうございます。
それではまた、次の記事でお会いできるのを楽しみにしています。
『明鏡国語辞典』は第三版が絶賛発売中です!買いましょう!!