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【参加レポ】毎日新聞 ことば茶話 第1回

こんにちは!ふずくです• ᴥ •
今回は、9月28日に行われた毎日新聞のオンラインイベント「ことば茶話」について、感想を述べていきます。


ことば茶話とは

毎日新聞校閲センターが運営するサイト「毎日ことばplus」は8月29日、有料会員制度をスタートさせました。隔月開催で辞書編集者や日本語研究者ら「ことば」にまつわるゲストを招き、校閲記者がお話を伺うオンラインイベント「ことば茶話」を有料会員向けに開催します。

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「毎日ことばplus」には無料会員と有料会員(1,500円/月)があります。
ことば茶話は、有料会員の特典のひとつです。
非有料会員の視聴チケットが2,000円なので、その他の特典ありで1,500円というのは、かなりオトクですね🉐

今回のテーマ

広辞苑と校閲記者の“厚い”関係 

今回のゲストと聞き手

ゲスト:平木靖成(ひらき・やすなり)さん

東京都福生市生まれ。1992年岩波書店入社。93年から辞典編集部に所属し、「広辞苑」第5版・第6版・第7版のほか、「岩波国語辞典」「岩波新漢語辞典」「岩波キリスト教辞典」「岩波世界人名大辞典」などの編集に携わる。現在、編集局副部長(辞典編集部担当)。

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平木さんは「広辞苑大学実行委員会」というYouTubeチャンネルにも出演されています。

聞き手:平山泉(ひらやま・いずみ)さん

大津市生まれ、京都・東京育ち。1992年毎日新聞社入社。2006~08年の大阪本社時代も含め一貫して校閲記者を務める。18年にイベント「国語辞典ナイト」に出演したり、国語辞典が刊行される度に取材したりと、校閲と国語辞典との関係について発信している。毎日新聞校閲センター著の「校閲記者の目」「校閲記者も迷う日本語表現」(いずれも毎日新聞出版)の編集に中心的に携わった。

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感想

ここからは、私の個人的な感想になります。
ぜひ「毎日ことばplus」に入会していただきたいので、ネタバレは最小限で。

拠られがちな「広辞苑」

話は校閲記者の方が「広辞苑」をよく使うというところから。

平山さん
単に調べるということはもちろんなんですけど、記者の書いた原稿をガシガシ直したりするわけで、でも直すには根拠が必要だったりするんですね。そのために「ほら辞書にはこう書いてありますよ」みたいな話をしたりする。そのときにどんなにベテランのえら〜い記者でも、広辞苑を持ってって「ほら広辞苑にこう書いてあります」って言うと、「じゃあ」みたいな感じになるので、広辞苑は私達にとって権威があるので便利に使わせていただいています。なんでこんなに広辞苑は権威があるんでしょうか?

平木さん
ていうかなんでそんなに記者の方は広辞苑の権威に弱いんでしょうか?

平山さん
いや、記者だけじゃないと思いますよ(笑)

たしかに、記者の方だけではありません。
むしろ「記者の方もそうなんだ!」と思いました。

「広辞苑によると」という文言はよく見ます。
平山さんによると、辞典好きが集う「国語辞典ナイト」なるイベントでは、「広辞苑によると」の数を調べたグラフがあるとか。

そのグラフは私の手元にないので、現代日本語書き言葉均衡コーパスBCCWJ「中納言」で調べてみました。

※現代日本語書き言葉均衡コーパスとは
現代日本語の書き言葉の全体像を把握するために構築したコーパス。
1億430万語のデータを格納。

検索条件:検索文字列「広辞苑」
得られた138件の結果から、見ていきましょう。

むろん,現民法においてはこの戸主制度は廃止されている。さて,「家族」に近い概念に「世帯」という言葉があるが,「世帯」は同じ住居に住み,家計を共にしている者のことであるから,家族以外の同居人や使用人でも,その条件を満たしておれば世帯員であり,一人暮らしの者も単独世帯ということになる。 『広辞苑』によると,家族とは「夫婦の配偶関係や親子・兄弟などの血縁関係によって結ばれた親族関係を基礎にして成立する小集団。社会構成の基本単位」であると定義されている。

大橋康宏(2002)『医療現場と福祉のこころ』

一方で,科学は文化的な生活をするために必要な視点と考える見方もある。また,文化は広辞苑によると,衣食住をはじめ技術・学問・芸術・道徳・宗教・政治など生活形成の様式と内容とを含むとある。このことから,衣生活は科学,文化の大きな2つの視点でとらえることができるといえよう。2‐1 衣生活と科学 図3‐1に,衣の快適性の要因とその研究方法の関係について示す。

村上かおり(2004)『生活へのまなざし』

おみなえしは別名「女郎花」という。オミナエシ科の多年草である。ご存知、秋の七草の一つだ。なぜ「女郎」なのかは知らないが、広辞苑によれば「女郎」のことを“男子のような才気ある女”と書いてある。すらりと野に立ち、強い野草のなかにはさまれ、めげずに平然と生きて黄色い花を咲かせるからだろうか。

佐藤 藤三郎(1996)『村に、居る』

人造米、もはやこれは完全な死語である。広辞苑によると、デンプンに砕米を混ぜ米粒大に加工し、加熱し、表皮に糊皮を形成されたもの、米の代用品とある。 今でこそ世界的な米余りであるが、昭和二十八年当時には、庶民はこんなものを食べていたのだ。標準米だあ、ササニシキだあ、とそういった次元の話ではないのである。

世田谷サザエさん研究会(1993)『サザエさんの秘密』

「広辞苑」は様々なジャンルにおいて、その根拠とされていることが分かります。

それでは、検索文字列をほかの辞典にして調べてみましょう。
その結果はこちらです。

小型辞典
岩波国語辞典:0件
旺文社国語辞典:0件
三省堂国語辞典:2件
新明解国語辞典:7件
新選国語辞典:2件
明鏡国語辞典:6件

中型辞典
大辞泉:17件
大辞林:29件

大型辞典
日本国語大辞典:24件

広辞苑が圧倒的すぎる。

もちろんこの結果の中には、典拠としての記載だけでなく、たんに言及しているだけのものも含まれています。
それにしても、広辞苑が登場する回数は、ほかの辞典に比べて多いのです。

広辞苑が一番か?

平木さん
もうちょっといろんな辞典があるということを勉強していただきたいですね。広辞苑が一番というのはやめて、いろんな辞典にいろんな特徴があるというのは校閲の方はご存知でしょうけれども、広辞苑だからOKということは場面によってはちょっと違うなとかないですか?

平山さん
そのとおりです。私達はむちゃむちゃ使い分けているので、使い分けのひとつとして「権威付け」があるんですけど。


「Qさま!!」のような有名クイズ番組なんかでも、「広辞苑」に出ている言葉の意味を見て、その言葉を当てる早押しバトルがあります。これはなぜ「広辞苑」なのか。「広辞苑」と聞くと、やはり何か権威めいたものを感じるのでしょうか。

もし権威=語数なのであれば、国内唯一の大型辞書「日本国語大辞典」には約50万語が収録されています。辞書の世界では大は小を兼ねませんが、それでも「広辞苑」の25万語よりも多い点はひとつのアドバンテージのはずです。
また、赤瀬川原平氏の『新解さんの謎』で有名になった「新明解国語辞典」も、その語釈のユニークさから広く知られており、根強い人気を誇っています。

にも関わらず、今日まで「辞書といえば広辞苑」という立場はゆるぎません。

広辞苑がなぜここまで有名になったのか。
それは「タイミング」と「そこにあったものが出せたこと」だといいます。
そのあたりの話は、こちらが分かりやすいでしょう。

こういった経緯で「辞書=広辞苑」とまでなったわけですが、広辞苑が一番ではない、と平木さんは繰り返します。

有名な辞書が必ずしも(使用者にとって都合の)よい辞書かというと、その限りではありません。「広辞苑」は古い意味から順番に載せている辞書なので、普通に調べ物をするには技術を要する辞書です。

ほかの辞書においても同様です。
語釈が面白い辞書であっても、「面白い」ということと「実用的である」ということは必ずしも両立しません。学習用には向かないということです。

逆にいえば、用途に合わせて辞書を使い分けることができれば、国語辞典は我々のよき友人として生活をサポートしてくれるでしょう。

具体的にどのように使い分けるか?ということについては、こちらが非常に役立ちます。

どの辞書を選んでも「これ1冊さえあればOK」ということはないです。
それは、無限に広がり続けている日本語のどこを切り取るか、そしてどこまで掘り下げるかという部分が、辞書の特色を形作っているからです。

いっぱい持っておけばそれに越したことはないと思いますヨ• ᴥ •
(そうやって私は130冊集めたわけですし)

ちなみに、私は「岩波国語辞典」「旺文社国語辞典」「新選国語辞典」をメインで使用しています。ご参考までに。

おわりに

だいぶトークイベントの最初の方だけで語り尽くしてしまいました。
本編ではほかにも、国語項目と百科項目の違いや、広辞苑ができるまでなどのお話もあります。

終始和やかな雰囲気で進行し、チャットでも質問が盛んに行われるなど、配信者と参加者の距離が非常に近い点が魅力的でした。
第2回が待ち遠しい……• ᴥ •

皆さんもぜひ「毎日ことばplus」でよきことばライフを。ではでは。




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