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フードビジネスのスタートアップの魅力と立ち上げ課題

 フードビジネスのスタートアップには、独自の魅力と共に、他業界とは異なる多くの課題があることを認識する機会を得ました。食品は人々の日常生活に密接に関わるものだからこそ、高い需要がある一方で、品質管理や賞味期限、サプライチェーンの構築、ブランドの確立など、さまざまな側面での綿密な計画と実行力が求められるようです。特に、スタートアップとして新たな食品ビジネスに参入するには、従来の流通構造や急成長しているフードテック領域を理解しつつ、事業の特性に合わせた柔軟な戦略が必要です。
Venture Café Tokyoのイベント「FooD系スタートアップの立ち上げ方」のトークセッションの内容から学んだことを記します。 


 登壇者は、地方自治体のアクセラレータプログラムで起業支援をして後、自らでも起業し、現在はコーヒービジネス「JOJO COFFEE」を展開する株式会社エンターテインCEOの常川朋之さん、サントリーや外資系の食品メーカーを経て現在は商品開発コンサルタントとして活躍、抹茶ブランドを世界へ広める活動にも取り組む株式会社ナジラボ代表の中村友香さん、そしてキリンやファンケルで新規事業開発に携わる日置淳平さんです。以下、主な内容をまとめます。

1.フードビジネスを始めるための基本的な流れ
 常川さんからフードビジネスを立ち上げる際の基本的なプロセスについて説明がありました。コーヒービジネス等の経験から、「仮説を立て、課題を検証し、プロトタイプを試していく」という段階を一つひとつしっかり踏むことが成功のカギだと述べています。特にフードビジネスは、製品開発から顧客を増やしていくまでに時間がかかり、売上を安定させるためには長期的な視点が必要となる点は、実体験からのコメントとして説得力がありました。



2.フードテック業界の成長と変化

 日置さんは、フードテック分野についての流れを解説いただきました。フードテック自体は2015年頃から注目されるようになり、2017年には世界的なトレンドとなったことを解説しました。特にコロナ禍が転換点となり、フードテックへの需要が急拡大し、政府の支援や大企業の参入が進んだことで、日本のフードスタートアップ市場も急成長を遂げています。これら背景をもとに新しい技術や製品が次々と生まれ、フードテック分野が日々進化しているようです。


3.ブランド構築の難しさ

 中村さんは、フードビジネスにおいてブランドの構築の難しさに触れました。ブランドには「ストーリーやコンセプト」が重要で、これがしっかりしていないと市場での競争でも戦いきれず、さらには、「成功」したとなれば、模倣されやすく、不安も付きまとうといった現場の心情に触れました。日置さんからは、出来うる限りでの知財の保護の必要性も補足されました。


4.サプライチェーンと生産管理の課題

 日置さんは、フードビジネスでサプライチェーンや生産管理がいかに大事かを述べました。これには多くのコストと労力がかかり、特にD2C(消費者直販)モデルでは在庫やキャッシュフローの管理が難しくなります。こうした理由から、しっかりとした計画が必要だと指摘しています。

5.組織とチーム作りの大切さ

 フードスタートアップ野適切な組織づくりには難度が伴います。製品開発や製造に今日験のある人材を確保することは課題となりますが、大企業のようにリソースが豊富でないスタートアップでは限られた人材で多くの仕事をカバーする必要があり、プロジェクトマネジメントが大きな鍵となります。


6.海外展開と越境ECの課題

 フードビジネスの海外展開についても議論がありました。越境EC(電子商取引)を通じて海外に販売する場合、国ごとに規制や物流が異なることから、現地でのテストマーケティングが重要となり、様々な状況にも柔軟に対応する判断力が求められます。

7.感想

(1)賞味期限とオペレーションの柔軟性

 今回のトークセッションで印象に残ったのは、「賞味期限があるものを扱うことの難しさ」を常川さん強調されていた点です。フードビジネスでは、商品の鮮度や賞味期限を意識しながら常に適正在庫を維持し、迅速に消費者へ届ける必要があります。これは、需要の変動に応じて在庫や配送のタイミングを柔軟に調整する高度なオペレーションを求められるもので、フードビジネスが持つ特有の難しさといえます。短期間で品質が落ちてしまう商品を扱うため、オペレーション面での工夫をし続けていくこと安定的な成長に不可欠です。


(2)フードビジネスの多層構造

 フードビジネスが一見「食」に関わる単一の業界のように見えるものの、実際には多層構造を持っていることは見逃せません。レイヤーごとに異なるノウハウや技術が求められ、どこに焦点を当てるかによって事業の戦略も変わります。
また、日置さんの話から、大企業がフード関連での新規事業を展開する場合、既存のビジネスと同等のスケールを求められがちで新規事業担当者は苦労しがちです。その点では、異業種とのコラボレーションや新しい視点からのアプローチによるイノベーションがポイントになります。新たな視点からの既存事業への効果としての、事業の柔軟性と持続性の創出にも価値を見出したいです。


(3)作り手の情熱と市場の現実

 フードビジネスに携わる「作り手」の情熱と、実際の市場の需要との間にギャップが生じやすいことにも気づかされました。製品を作りたいという強い思いがあっても、常川さんが指摘したように、実際に事業を進めるうちに客観的な視点が失われがちです。フードビジネスでは、特に大きな規模のビジネスになると関係者が増え、製品を市場に届けるまでにロジカルな説明が求められるため、「情熱」と「ビジネスの現実」とのバランスを取ることがハードな所ですが、それが成功の鍵となるのでしょう。


(4) 支援側の視点とプロジェクトマネジメントの重要性

 最後に、フードビジネスを支援する立場についても示唆がありました。特に中村さんが、商品開発の現場に深く入り込み、クライアントと伴走しながら支援しているという話が印象的でした。フードビジネスの支援には、全体を俯瞰し、事業の流れを把握する力が必要ですが、同時に細部にまで入り込んで実務面でクライアントを支えることも求められます。
中村さんは、こうした「俯瞰と現場への入り込み」という両方の力を発揮しながらクライアントと関わる姿勢が非常に価値あるもので、これが中村さんの強みだと感じました。

 また、日置さんが指摘するように、特にスタートアップの初期段階では全体を見渡し進行を管理する人材が不足しているため、このあたりが支援者に一番求められるところになるでしょう。


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