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社会的共通資本と経済活動の未来:宇沢弘文没後10年フォーラム参加記録
9月27日に「宇沢弘文没後10年 社会的共通資本 いままでの30年 これからの30年」と題するフォーラムに参加しました。このフォーラムは経済学者宇沢弘文が提唱した「社会的共通資本」を宇沢没後10年にあたり、その意義を再確認し、今後の社会にどのように活かしていくかを探る場として開催されました。
私もこのテーマに関心があります。「経済活動と社会的共通資本」という分科会に参加し、そこから得たまなびを以下に記録します。パネリストの方々がそれぞれの視点から社会的共通資本と経済活動の接点を論じ、持続可能な未来に向けた新しい提案が続出しました。
1.功能聡子さんのイントロダクション :社会的共通資本とインパクト投資
功能さんは、カンボジアでの国際協力の活動経験から、社会的共通資本の大切さを痛感したことを語られました。特に、社会的課題の解決において、一方的な「支援」ではなく共に課題に取り組む『伴走型』のアプローチが重要だ」という点に共感を覚えました。カンボジアでの出会いを通して、貧困層への「支援」にとどまらず、共に価値を生み出すことが可能であることを学ばれたそうです。
このようなアプローチは、従来の慈善活動や援助とは一線を画し、支援を受ける側の自立を促進する活動です。また、女性のエンパワーメントや環境保全、地域経済の活性化が相互に関係することを現場からの視点で説明しました。
2.清水大吾さんの提案 :機械間取引と人間の関与
清水さんは、金融の最前線で活躍しつつ、リーマンショックを契機に金融資本主義への疑問を抱き始めたという経験を語られました。彼は現在、金融の内部から社会を変えるべく、サステナビリティの推進に力を注いでいます。
特に、機械間取引が進化することで、人間の役割がますます縮小していく現状を対して、「投資先に対する想いを持ち続けることの重要性」を訴えていました。清水さんのこの指摘は、単に利益を追求するだけではなく、社会全体への影響を意識し、責任ある投資を行うという投資家としての倫理観を再確認させるものです。清水さの発言は、機械化が進む中でどのように「人間らしさ」や「倫理」を経済活動に持ち込むべきかを問うものであり、現代社会への課題の提起といえます。
3.阿座上陽平さんの取り組み:ゼブラ企業という新しいモデル
阿座上さんは、「ゼブラ企業」という概念を紹介し、ユニコーン企業に対抗する形で、社会的インパクトと持続可能な成長を両立させる企業の支援を行っていることを説明されました。ゼブラ企業は、短期的な利益追求を目指すのではなく、社会や環境への貢献を重視しながら、長期的かつ持続可能な成長を目指す企業モデルです。このモデルは、企業が社会的な価値を創造しつつ、利益を出し続けるという点で相反する考えを乗り越えようとするものであり、これまでのビジネスモデルに変革を促す可能性を秘めています。
阿座上さんは、「白と黒が共存するゼブラのように、社会的責任と経済的成長のバランスを取ることが重要だ」とし、企業が地域や社会と共に発展するモデルを追求しています。
4.熊代知暢さんの視点:グリーン預金と贈与経済
熊代さんは、関西電力での脱炭素社会に向けた取り組みを紹介されました。特にグリーン預金という新しい金融モデルの提案が印象的でした。グリーン預金は、預金を社会的に有益なプロジェクトに投資する仕組みであり、経済活動と社会貢献を同時に実現するための革新的なモデルです。
熊代さんは、「贈与」というキーワードを何度か使用され、預金者の資金を単なる金融商品としてではなく、社会への「贈与」として捉える視点を持ち込んだことが印象的でした。この「贈与経済」の考え方は、利己的な利益追求にとどまらず、社会全体の利益を念頭に置く経済モデルであり、持続可能な社会を構築するための重要な基盤であると感じました。
5.渡邉文隆さんの研究:寄付と市場経済の関係
渡邉さんは、寄付が市場経済に与える影響について研究されています。寄付は、単なる慈善行為ではなく、市場の健全性を支えるための重要な経済的手段であると指摘されました。渡邉さんは、寄付が社会的共通資本の財源となり、市場を健全に機能させるための基盤となると説明しました。
また、技術の進化が寄付の効果をより高める可能性を指摘し、テクノロジーとマーケティングを駆使して寄付を促進するための新たな方法論を研究しているとのことでした。渡邉さんの研究は、市場原理主義が支配する現代において、社会的共通資本を守るための重要な経済的ツールとして寄付を再評価することの意義を示唆しています。
6.最後に
清水さんが指摘されたように、私たち一人ひとりが感じたことを自らの行動に反映させ、社会的共通資本の理念を実践していくことが求められています。また、阿座上さんや熊代さんの提案するモデルは、企業や金融の在り方の再定義に向けた示唆があり、経済活動が社会に対して果たすべき役割を改めて考えるきっかけとなりました。
以上、今回の分科会を通して、私たちが未来に向けて、社会的共通資本の重要性をどのように理解し、行動に移していくかが、今後の社会の行方を大きく左右することを実感しました。