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書籍紹介 大澤陽樹『1300万件のクチコミでわかった超優良企業』

  大澤陽樹さんの『1300万件のクチコミでわかった超優良企業』東洋経済新報社(2023)は、多くの社員クチコミデータを活用し、就職・転職、投資、経営の各場面で意思決定の質を高めるための視点を提供しています。本書は、クチコミの力を活用して企業の「見えない価値」を評価するための具体的な視点と実例を提示します。今回、記載せず著者の考え方を中心に紹介いたします。

1.クチコミが切り拓く新たな企業評価

 著者は冒頭でこう述べています。

 一般的に就職・転職をする際には、数名の面接官や社員、就職・転職エージェントの方とお話しして終わりだと思います。多くても数十人ではないでしょうか。
 投資においても同様です。ある会社の株を買う際に、実際に働いている社員の「生の声」を聞くことは少ないでしょう。でも、Open Workのデータを使えば、多くの社員に、その企業の実態を聞くことができるのです。
 同じことは、経営においても言えます。自社の制度や働き方を改革する際、他社の本当の実態を参考にすることは簡単ではありません。ですが OpenWork上には、実際にその制度の下で働いている社員の「生の声」があふれているのです。
 つまり Open Workのデータを活用できれば、普通に就職・転職や投資、経営をするより、数千倍数万倍もの味方が増えた状態で活動できることになります。

出所:本書(P2)

 この視点は就職活動だけでなく、投資や経営判断にも応用可能です。たとえば、Open Workに投稿されたクチコミデータは、社員の「生の声」に基づいて「総合評価」「社員の士気」「人事評価の適正感」など、企業の表向きの情報では見えない実態を明らかにしようとしています。つまり、現場の実態を可視化する『証言』としてクチコミを位置づけ、情報の透明性を高める役割を果たしているわけです。これは単なる評価ではなく、読者がこれからの意思決定をより確かなものにしていくためのツールと位置付けています。
 加えてさらに、評価の高さだけではなく、「改善の軌跡」にも着目している点がユニークです。著者は、こうしたデータの活用が将来を見据えた意思決定に不可欠であるものとして紹介しています。


2.データから読み取れる「働きがい」と「働きやすさ」の重要度

 
 企業の成長には「働きがい」と「働きやすさ」が密接に関連していることが示されています。本書では以下のような見解を述べています。

・「働きがい」の改善は、3年の遅効性をもって企業の成長性にプラスの影響を及ぼす
・「働きやすさ」の改善は、2~3年の遅効性をもって企業の収益性にプラスの影響を及ぼす
・企業のサステイナブル成長率は、1~2年の遅効性をもって「働きがい」にプラスの影響を及ぼす
・「働きがい」「働きやすさ」は、1年の遅効性をもって「株式パフォーマンス」にプラスの影響を及ぼす

出所:本書(P134)

 こうした視点は、現状評価にとどまらず、将来のポテンシャルを見抜く重要な手がかりになります。経営者や投資家にとって、クチコからは企業の未来像を推測し、課題を発見するためのツールにもなります。


3.具体的なランキングとその示唆

 本書の中心には、Open Workのデータを基にした詳細なランキングが位置づけられています。以下はその一部です。

(1)総合評価が高い超優良企業
 
 企業の「総合評価」は、「待遇面の満足度」「社員の士気」「風通しの良さ」など8つの項目で構成されています。このランキングは、優れた労働環境が企業の成長にどのように寄与するかを明らかにしています。

 ときどき「そもそも、働きがいのある企業になる必要がどこにあるのか?」という質問をいただく。おそらく、「売上や利益をあげていれば、従業員のことなど考えなくてもいいではないか?」という批判が込められた質問だろう。
 この質問に対する答えはシンプルだ。「そのほうがお得だから」。それが働きがいのある企業づくりをすすめる理由である。では、どのような観点でお得なのだろうか。企業経営において大切にしなければならない「2つの市場」において有利になるからだ。
 1つ目の市場は「労働市場」だ。 企業は、優秀な求職者から選ばれ続ける努力をする必要がある。日本においては2030年に労働人口が644万人不足する(※1)といわれており、人材獲得競争は激化していくことが予想される。また、終身雇用制の限界を表明し、早期退職制度が活性化するなど、人材の流動化も進むだろう。そうなると優秀人材の採用だけでなく、優秀人材のリテンションも課題となる。就活生の2人に1人が会社の実態を知るために OpenWork を活用して就職活動をしていることからもわかるように、働きがいのある企業づくりをしなければ、労働市場へ適応できていないとみなされてしまうのである。
 2つ目の市場は「資本市場」だ。企業は売上や利益を創出し、企業価値の向上に努め、投資家から選ばれ続ける必要がある。

出所:本書(P16-17)


(2)評価が改善した企業

 評価の改善度を基にしたランキングでは、働き方改革や人事制度の見直しによって業績を伸ばした企業が目立ちます。

 もともと業務負荷が大きい職種・業種であった企業が働き方改革に本腰を入れて取り組んだり、人事制度の見直しによる報酬面の改善を進めたことで、総合評価が大きく改善している傾向が見られた。

出所:本書(P32)

 このランキングは、企業が変化に適応し、改善を重ねることができる柔軟性や競争力が示されているといえます。将来的な可能性を評価する上で、実用的な指針となるでしょう。


4.クチコミがもたらす企業、社会へのインパクト

 本書は、就職活動中の学生、転職希望者、経営者、投資家にとって、それぞれの立場で参考になる具体的なアプローチが提示されているといえます。著者は次のように述べ、クチコミデータが意思決定を支えるツールであることを最後のまとめで述べています。

 人は、美しく整備された場所にゴミを捨てません。それと同じように、価値ある情報のある場所には、自然と良質な情報が集まってくる。

出所:本書(P233)

 クチコミを通じた情報共有が進むことで、透明性が増していきます。働く方々の選択肢も広がります。ここには、個人と企業が共に成長する関係性につながり、ひいては社会全体の質の向上への道筋ともなり得える期待があります。



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