科学の本質を探る
科学とは世界を新たな方法で理解し、時には過激にまで疑問を投げかける力です。科学の本質は、反抗的で批判的な精神による独創的な力であり、既存の概念の基盤を変える力であると著者は力説します。
量子の波と粒子の二重性
シュレーディンガーは、粒子の軌道は波の振る舞いを近しくしたものであると提起しました。この波を「Ψ」と名付け、微小な世界は粒子ではなく波でできているとしました。また、量子重ね合わせという現象が存在し、物理量が粒状(離散的)であることが明らかになったことが示されています。
量子重ね合わせとその不思議さ
量子重ね合わせとは、ある対象が複数の状態を同時に持つ現象です。これにより、電子は一本の経路を進むのではなく、複数の位置に同時に存在することができると説明されます。さらに、観察者と観察対象の相互作用が現実を形作るという「関係論的な解釈」も可能となります。以下に関連の引用を記します。
ここでの注目する点は、対象物が孤立して存在するのではなく、相互作用を通じて存在することです。量子論は、相互作用の網としての世界の視点を提供し、孤立した実体としての対象物の概念を超えています。以下で2つの引用を記します。
相互作用が織りなす現実
量子もつれ(エンタングルメント)は、遠く離れた二つの粒子が相互に影響を及ぼし合う現象です。この現象は、エンタングルメントと呼ばれ、現実の構造を編み上げる普遍的なものです。エンタングルメントは、三者間の相互作用に基づいており、二者間の相関が第三者との関係でのみ発現します。
絶対だと思っていたことが相対的だった
量子論は、相互作用の観点から現実を再解釈する視点を提供しているといえます。物理的対象物の属性は、他の対象物との関係においてのみ存在するという本書の視点は、現象を理解するための新しい枠組みを提供しています。この枠組みに関する視点より、従来の物理学で絶対的だったとする実体の概念を覆すことにもなります。
物質と意識の関係
本書の量子論では、物理世界の本質に関する新しい視点を提供しています。物理的な粒子が「関係」という視点から記述されることにより、これまでの物理学とは違ったアプローチとなっています。以下の引用はその説明です。
さらに、情報と進化の概念を組み合わせることで、生命体の意味を理解する手がかりを提供します。
色即是空と現代物理学の共通点~日本語版解説のあとがきから~
日本語版解説で竹内薫氏は、「物理学は超理系、難しい数式だらけ、複雑怪奇な実験設備といったイメージが強いかもしれないが、物理学のルーツに遡れば、それは自然哲学であり、この世界の仕組みを解き明かす思想である」と述べています。数式や実験はその道具にすぎず、思想そのものが物理学の本質であると伝えてくれています。竹内氏はまた、「この本は、量子力学の黎明期に活躍した偉大な物理学者たちの思索の過程と人間模様から始まり、モノの姿が立ち消えてコト(=関係性)が主役の座を奪ってゆく現代思想としての量子物理学の世界が描かれている」とします。
さらに、「この本の最大の魅力は、色即是空と現代物理学の共通点をわかりやすく説き起こした点にある」とし、東洋思想と現代物理学の接点を強調しています。物理学を避けた私などの読み手にも、現代物理学が哲学であるというメッセージを伝えるものであり、物理学を学んだ理系の読者にも、数式や実験の背後にある思想の重要性を伝える内容となっています。
加えて、訳者あとがきにも、同様の視点があります。ロヴェッリのループ量子重力理論が、相対性理論と量子力学を統一する最終ゴールを目指す試みであり、その哲学的な意義が示されています。
最後に
本書は、物理学の黎明時期から現代の量子物理学に至るまでの物理学者の思索の歴史が描かれています。そして、物理学を哲学的に探究するに至った量子物理学の現状を「美しくも過激な量子論」として提供しています。物理的世界と心的世界の統合への示唆をいただける一冊です。