かぶとむしミッションインポッシブル
先日書いた虫の話で、あれは小学一年生だった息子とスカイツリーで開催されていた昆虫イベントに参加したことを思い出した。
スカイツリー内の一角にそこだけ金網で作られた臨時施設があって「カブトムシ触れるよ!取り放題だよ!でも終わったら虫は返してね!」のイベントが開催されており、息子がすぐさま飛びついた。
参加したいという息子に「母は虫が苦手だから自分で虫を捕ること。虫を大事に扱うこと」を条件とし、さっそく我々は中に入った。
たくさんのカブトムシに興奮する息子。観察しては次々と捕獲し、虫かごへとそっと入れていく。親子連れが賑やかに虫との触れ合いを楽しんでいた。
微笑ましい光景の中に佇んでいると「ママァ!」と息子の小さい叫び声が聞こえた。見ると、夢中になった息子の虫かごにはカブトムシを捕獲しすぎて溢れんばかりになっており、全部がうじゃうじゃと動いていた。私はその地獄絵図に仰天し、卒倒しそうになった。
息子の悲鳴は、カブトムシの一匹がもはや溢れて、虫かごを持っているその手をガッチリと掴んで離さない猛者が現れたことだった。また息子は生来のチベット高僧たる優しい性格ゆえ、強引にカブトムシを引き剥がせないでいた。
大嫌いな虫の分野での急なミッションインポッシブルの発生。息子を助けなくてはならない。息子をなんとしても守らなければならない。息子を助けるのはこの私しかいない・・・!
恐怖でカブトムシに恐る恐る伸ばす手がブルブルと震え、公共の場での声の音量に気をつけるという概念は吹っ飛び、「どうしよう?どうしよう!」と心の声がダダ洩れだったその時。とても美人なママさんがスッと現れて、息子の手からカブトムシを優しくつかみ取り、窮地から救ってくれたのだった。
私たち親子に女神が現れた瞬間だった。何度も頭を下げて感謝した。そして女神は爽やかな一陣の風のごとく、笑顔で足早に立ち去ったのだった。
人生には試される瞬間が何度も訪れる。そして子育てをしていると、格段にその頻度が上がる。特に息子を持つと思わぬ事件が発生し、ミッションインポッシブル要請が連発する。度肝を抜かれることばかりで心底面白いのだが、同時に心臓にも悪い。心臓が本当にキュッとなる時がある。だが、面白すぎて男子育児はクセになってしまう。
私たちはスカイツリーにある辻利にてお茶をしながら、外の景色を眺めていた。眼下には、東武鉄道の金色の特急スペーシアが走り抜け、息子が歓声を上げた。
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